父さんのチケット
「おい、悠。悪いんだけど、代わりに行ってくれないか?」
晩ご飯の席で父が突然言い出した。仕事で忙しい父は普段あまり家にいないが、時々話題のイベントに応募しては僕に体験させてくれる。今回当たったのは「ADトレイン」の試験運行に乗れる特別チケットだった。
「え、何それ?」
「走る広告博物館の電車だってさ。鉄道の広告を作っている会社が企画したらしい。お前、歴史のポスターとか好きだろう?」
確かに、昭和時代の広告とかレトロなデザインには興味がある。父の説明によると、この企画は鉄道広告アドバイザー会社「株式会社ADTrain(略称AT)」が、東京鉄道の協力を得て実現したものらしい。ATは電車内の広告デザインや掲示の申請を代行する会社で、今回の特別列車は社員たちが提案したプロジェクトだという。
「でも、僕一人で行くの?」
「参加者の大半は一般の家族連れだし、中学生も多いらしい。ちゃんと見てこいよ、広告の面白さ。」
ADトレインに乗り込む
日曜日の朝、僕は父の代わりに東京駅から出発する「ADトレイン」に乗り込んだ。専用ホームに並ぶ人たちはみんなワクワクしている様子で、広告博物館という特別な企画を楽しみにしているのが伝わる。
電車は外装からして普通じゃなかった。車体には巨大なポスターが貼られていて、昭和から令和にかけての広告デザインが一望できるようになっている。車内に入るともっとすごかった。
広告で埋め尽くされた車内
ドアが閉まり、電車が動き出すと、車内の展示に乗客たちの目が釘付けになった。
まず目に入ったのは、昭和のポスターが再現されたエリア。学校の教科書で見たことがあるようなレトロなデザインが車内を埋め尽くしている。広告一つひとつに解説がついていて、当時の時代背景や社会の様子がわかる仕掛けだ。
次の車両に進むと、今度は令和の最新広告エリア。壁にはデジタルサイネージが並び、画面をタッチすると広告の内容が変わる仕組みだった。スマホを使って連動するAR体験もあり、ポスターの前に立つと映像が飛び出してきて驚いた。
未来への広告体験
さらに奥の車両では「未来の広告体験」というテーマで展示がされていた。専用のアプリを使い、車内広告と連動したVR体験ができる仕掛けだ。僕も試してみたら、まるで広告の中に入り込んだような感覚になった。
「お兄さん、これ面白いでしょ?」
スタッフの一人が話しかけてきた。聞けば、この企画を考えたのは若手社員たちだという。
「僕たち広告会社の仕事はただ広告を作るだけじゃないんです。電車という空間をどう使うか、そのデザインを考えるのも仕事なんですよ。」
その話を聞いて、僕は少し驚いた。いつも何気なく見ていた車内広告にも、こんなに多くの工夫と努力が詰まっているなんて思いもしなかった。
思いがけない出会い
展示を見終わりかけたころ、同じ車両にいた中学生の男の子が声をかけてきた。
「君も一人で来たの?」
その子も親が急用で行けなくなり、代わりに参加したらしい。同い年だったこともあり、自然と話が弾んだ。一緒に最後の車両を見て回り、感想を語り合った。
「未来の広告ってすごいけど、昔のポスターもカッコいいよね。」
「うん。歴史が見える感じがして面白い。」
エピローグ 新たな視点
帰り道、僕は父に電話をかけた。
「どうだった?楽しめたか?」
「うん、すごく良かったよ。広告ってただの宣伝じゃなくて、いろんな時代のことを伝えてくれるものなんだなって思った。」
父は嬉しそうに笑った。
「それが分かったなら、行った甲斐があったな。広告って案外奥が深いんだぞ。」
今回の体験で、僕は日常の風景が少し違って見えるようになった。電車の中の広告が、ただのポスターではなく「時代を映す鏡」だと気付いたからだ。
ADトレインでの一日は、僕にとって特別な体験になった。広告の魅力、そしてそれを支える人々の努力を知ることができたからだ。いつかまた、この特別な列車に乗ってみたいと思った。

