≪Extra edition≫フェアリーの思案
「明日だ…」
声を持たない銀の猫は虹の猫と向かい合う。
脳内に響き、そして語り掛けてくるその声は反響を繰り返し虹の猫の体に吸い込まれていく。
「『救済の子猫』ね?」
改めて確認する、震えた声はもう何度目だろうか。
銀色の猫は聞こえているのか、そうでもないともとれるような仕草で耳の後ろをなめる。
「一つ聞かせて頂戴。なぜ彼らには『救済の子猫』が必要なの?」
ここまで彼に従ってきたが、肝心なことははぐらかされ続けている。
相手は少しの間目を閉じると、はたとその翡翠の宝石を見開いた。
鋭い。
この世の何もかもを切り裂く冬の冷気を感じさせるその両目は、静かに回答を拒絶していた。
虹の猫は首をすくめて悪意がないことを伝える。
銀の猫はゆっくりとこちらに背を向けると言い放った。
初めて聞く御伽噺。いや、予言なのかもしれない。
「詳しいことはお前には言わぬ。ただ、これから起こることは『彼女』の『復讐』の一つと言っていい。
とうの昔にその鼓動を止めた『彼女』が起こす惨事は部族の息の根を止める。
それを守るため、『救済の子猫』に託された責任は計り知れぬほどに重い」
脳裏によみがえる。
鋭い翡翠の目に見合うような、またも鋭い叫び。
ふと顔を上げると銀の猫は消えていた。
今のは、昔の回想だろうか、それとも声を失った彼の言葉だろうか。
どちらでもいいわ。今には関係ない。
虹の猫は『救済の子猫』に最後の呪いをかける。
