12篇 遠い日の約束 その20

 

  そのブレスレットは姉の手作りと言うだけで、志穂にとっては何ものにも代え難い宝物になった様だ。二人の絆の強さに妬ましさを覚えてしまった。


  僕ね、子供の頃、川内町に行ったことがあるんだ。


さり気なく言葉にして見た。志穂はまじまじと僕を見つめて来た。その目を受け止めて続けた。小さい頃、体が弱くて田舎で静養したほうが良いと医者に勧められ、川内町に住んでいた親戚を頼った事、親戚の家の近くに川があって、一人で眺めていたら声をかけてくれた女の子がいた事、その子と仲良くなって、別れる時、また来年も会おうと約束の指切りをした事、父親の転勤で遠くの町へ引っ越しした為に約束を守れなかった事を話した。


  その子の事、僕は しいちゃん と呼んでたんだ。


万感の思いを込めて しいちゃん と呼びかけた。暫く無言だった志穂が絞り出すような声で言った。


  あ、あの、よし君なの。


僕は笑顔で頷いた。信じられなくても無理はない。小学生だった頃の僕は青白くてやせっぽっちだった。今の僕には当時の面影なんて残っていないだろう。


  あの頃は頼りない男の子だったからね。
  あれから鍛えたんだよ。
  しいちゃんに相応しい逞しい男になろうって。


もう会えないだろうと諦めながらも、もしかして奇跡的に会うことが出来たなら絶対言おうと決めていた言葉だったから、素直に口から出していた。


  笑うと よし君 だけど、大人になりすぎてて今も信じられない。
  でも良かった。こんなに健康そうになってて。


志穂は心から嬉しそうに僕を見た。今の僕と小学生だった頃の僕の面影が重なった様だ。あれから別々の道を歩いて来たけれど、これからは一緒の人生を歩くことが出来る。二度と離れたくないと強く思う。