「パリ空港の人々」 1995年公開


父親の病状が悪化したため、

カナダからフランスへとやってきた図像学者の男・アルチュロ。

しかし、カナダのモントリオール空港のイスで眠ってしまった間に、

手荷物の鞄と窮屈に感じて脱いだ靴を盗まれてしまい、

パリに着いたときには、鞄に入れていたパスポートを含む

身分証全てをなくした状態だった。

靴下のまま入国手続きの窓口へと向かうアルチュロ。

パスポートがなかったため、当然チェックで引っかかり、

データと照合してもらったものの、本人確認が取れるまでは

入国させることはできないと言われてしまう。

アルチュロは先に着いているスペイン人の妻が

パリにいるはずなので、連絡を取ってくれと懇願するが

全く受け付けてもらえず、

「確認が取れるまで、そこの長イスで待て。」

と言われ、渋々そこで夜を明かすことに。

長イスで眠りにつこうとしていると、

一人のアフリカ人の少年がどこからともなくやってきて、

アルチュロにいろいろ質問してきた。

「どこから来たの?」「お腹空いてない?」

少年は故郷のギニアから父親が

迎えに来るのを待っていると言うのだ

「ベッドがあるからそこに行かない?」と

誘われるが、断ってしまうアルチュロ。

少年は去って行ったが、目が冴えてしまい、

アルチュロは空港の中を散策し始める。

しばらく歩いていると“トランジット待合室”という

部屋を見つけ、中に入ってみる。

なんと、そこには先ほどの少年と

3人の大人が生活していたのだった...。


監督はフィリップ・リオレ。「マドモアゼル」や

「灯台守の恋」などを手がけた。

主演はジャン・ロシュフォール。「ポリー・マグーお前は誰だ」や

「髪結いの亭主」、「プレタポルテ」、「列車に乗った男」などに出演。

他の出演はマリサ・パレデス、ラウラ・デル・ソル、

ティッキー・オルガド、ソティギ・クヤテ、

新人の子役イスマイラ・メイテなど。


撮影に使われたのは シャルル・ド・ゴール空港。

オルリー空港と並ぶパリの顔であり、フランス最大の空港である。

様々な理由で空港に居ついてしまった人々の生活。

国外追放となり国籍を剥奪されたコロンビア女性アンジェラ、

元コマンドの男で今は自伝を書いているというセルジュ、

どこの国の言葉ともつかない言語を話すナック、

そして声をかけてきたギニアの少年ゾラ。

ゾラの案内で空港の中をいろいろ見て回るアルチュロ。

仕方なく空港で生活する彼らと

アルチュロとの間に芽生える友情。

初めはトランジット待合室に入れることも

嫌がっていたアンジェラとも打ち解けていく。

大きな事件が起こる作品ではないが、

ゆっくりと流れる夜の空港の時間の中で、

それぞれの人生が交差する少しあったかくなる作品。

いつ出られるとも知れない状況の中でも、

空港の設備や環境を利用して生活し続ける彼らと、

突然の来訪者であり、確認さえ取れれば

パリの街へと出て行けるアルチュロとの出会いは

悲しくもあり、うれしくもある。涙と感動を誘います。


なかなか見られない空港の裏側を見ることができます。

空港の滑走路に穴を開けるウサギを捕って、

厨房に売りにいくアンジェラとナックの姿には驚きました。

そして夜の静まり返ったシャルル・ド・ゴール空港の

雰囲気はなかなかいいものです。