カナリア」 2005年公開


テロ事件を起こしたカルト教団「ニルヴァーナ」の

施設から強制的に保護され、関西の児童相談所に

預けられていた12歳の少年、岩瀬光一。

しかし、彼の洗脳は未だ解けておらず、

迎えに来た祖父は光一の妹、朝子だけを

引き取って帰ってしまった。

教団の幹部で、指名手配中の

母親の行方は以前分からないままだった。

そこで、妹を取り戻す為、

児童相談所を脱走した光一は、

途中、ある出来事をきっかけに知り合った

同じ年の少女、新名由希と共に東京を目指す。

彼女もまた、母親を亡くし孤独な身の上だった。

そして、たどり着いた祖父の家。

ところが、そこは既にもぬけの殻だった。

自分の娘が教団の一員だったことが世間に知れ、

祖父は家にいられなくなってしまったのだ。

行き先を失った光一と由希を助けてくれたのは、

街で偶然再会した元信者の伊沢だった。

今は洗脳も解け、仲間たちと会社を起こし、

更生の道を歩み始めていた。

伊沢らの元で、ふたりはひと時の平穏な日々を過ごす。

やがて、伊沢たちによって祖父の居場所が判明するのだが...。


監督は広田明彦。「害虫」や「黄泉がえり」、「どろろ」を監督。

主演はこれが初主演作品となった、石田法嗣と谷村美月。

他に西島秀俊、りょう、つぐみ、品川徹などが出演している。

石田法嗣は「半落ち」や「バーバー吉野」、「檸檬のころ」などに出演。

谷村美月はこの作品が初出演作品でもあり、これ以降、

「ユビサキから世界を」や「檸檬のころ」、「リアル鬼ごっこ」、

「神様のパズル」、「死にぞこないの青」などに出演。

この作品の演技には、その後の活躍を

予感させる驚くべきものがあります。

数年前、映画館の上映前に、黒い涙を流して、

作品の盗撮を警告するフィルムに出ていた少女として、

記憶している方もいるかも知れない。


タイトルの“カナリア”はカルト教団へ踏み込む警察が

毒ガスや細菌兵器の感知のために持ち込んだ小鳥から来ている。

先頭の者はカナリアの入った鳥かごを自分の前方に掲げ、

カナリアに変化がないか見つつ、慎重に踏み込むのだ。

カナリアに異変が起これば、それはそのまま人体にも

影響を及ぼす可能性が高いのである。

ここまでの説明で既にお気づきかとは思いますが、

この教団のモデルは言うまでもなく、オウム真理教である。

実際の教団と作中との教団とは、異なるとは思いますが、

そういったカルト教団の中での人々の生活は、

まるで見知らぬ国の生活のような錯覚を覚えます。

こんなことが実際に行われていたと思うと、

気持ち悪くなって、眩暈を起こしそうな風景です。

そんな中で子供たちはどう育ったのか?

育った子供たちはどうなっていくのか?

家族とはいったい?家族ができることは?

大人ができることは?様々な思いがこみ上げてきます。

後半で教団が選んだ道には、衝撃と、

何とも言えないやるせない思いが残るばかりです。

本当にどうにもならなかったのか。と。

決して救いがない映画ではありません。

が、救いは少ないです。残酷なまでに。

「でも、それが現実だからね。」とは言いたくない。


最後に見えてくる希望は、少しの間ホッとさせてくれる。

しかし、彼らのこれからの道のりを考えたら...。