電話が鳴った。平日の夕方、もうスタジオを出ようとしていた。
「明日、ウェディングドレスを着るんです。
撮影してもらえませんか?」
平日のこんな時間に?
場所は?
「病院です。彼女の父と一緒に写真を撮ってもらいたいんです。」
・・・新郎からだった。余命一週間の宣告を受けての急な電話。
「もちろん。伺います。」病院の部屋の中には機械や管がいっぱい。それを感じさせないようにというリクエスト。お父さんもタキシードを着るという。
可能なのか?
会ったらなんと言おう。「おめでとう」でいいのか?
頭の中はめまぐるしく回り、スタジオの電気をつけ直し準備に追われた。
新郎の声が頭の中でリフレインする。
「彼女の父と一緒に撮ってもらいたいんです!」
翌日の待ち合わせ場所に現れたのは電話の声よりも若々しい新郎とかわいらしいウェでイング姿の新婦、そして親族のみなさんだった。
お父さんも着替えている。
それを見た瞬間「おめでとうございます!!」私はいつもの笑顔で大きくそう言っていた。
ほんとに晴れの門出、バック紙を目いっぱい広げ壁を多い、昨夜工夫した狭い空間のライティング。あ~スタジオをやっててよかった!
寝たままでお父さんに手渡しをしてもらい、記念写真をみんなでとって拍手をもらった。
なんといっても御嬢さんとの撮影の優しそうなお父さんの顔。
そして私が涙がでそうになったのはお母さんと一緒にベットに横たわってもらって撮影した夫婦の写真だった。
二人の手はしっかりとしっかりと握られていてお父さんを見つめるお母さんの表情に涙がこぼれた。
完結した「夫婦」の姿があった。
見てもいないがエンドロールを観終わったような若い二人の出会いから今日までのこの家族の肖像が次々と目に浮かんでくるような・・・・・
写真の神様がこの家族にめぐり合わせてくれた。写真の神様に呼ばれたんだ。
そんな思いがした。
夜中かかってレタッチしたがお父さんの肌の色を出したくて時間を要していた。
どうしてもみんなと同じにしてあげたかった。
翌々日の夕方納品の連絡をしたら写真の撮影を終えて翌日お父さんは天国へ旅立たれたと報告があった。
間に合わなかった・・・見せてあげたかった・・・そんな思いで言葉がでなかった私に
「写真を撮ってもらってほんとにほんとにありがとうございました!」と
いってくださった。
救われた気がした。
ふたりの結婚式は撮影するねと約束し、電話を切った。
お二人とご家族と過ごしたこの夢のような濃すぎる2日間を、そして硬く握り合ったご両親の手を一生忘れることはないだろう。
どうぞどうぞご両親のような素敵なごふうふの時をたくさん刻んでいってください。
心からご冥福をお祈りするとともにご縁をいただけたこと深く深く感謝しております。
お幸せに。
増田

