6月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2765
ナイス数:666

シュタイナー自伝〈下〉シュタイナー自伝〈下〉感想
神秘学・精神科学に加えて教育、医学、農業、芸術等の分野でも多大な影響を与え続けているR.シュタイナーの自伝。本書下巻では、ワイマール及びベルリンでのゲーテ全集自然科学編の編集に従事した後、ロシアの神秘思想家H.P.ブラヴァツキーの神智学運動に参画、その後袂を分かち独自の人智学(アントロポゾフィー)を創始するまでを収録。全てを、より深く知りたいという思いに駆られるシュタイナー。非常に興味深く読むことができた。本書で言及されていた『自由の哲学』を手始めに、残り3主著についても、再び読んでゆきたい。
読了日:06月29日 著者:ルドルフ シュタイナー
諸国物語〈下〉 (ちくま文庫)諸国物語〈下〉 (ちくま文庫)感想
本書『諸国物語(下)」では、明治時代に鴎外が翻訳・紹介した露西亜の作家8名(レフ・トルストイ、コロレンコ、ドストエフスキー、チリコフ、アルフィパーシェフ、クズミン、アレクセイ・トルストイ)の9作品を収録。帯によると、“世にも不思議な物語もあるーロシア文学のゆたかさと、鴎外文学の香気、小さな文庫の大きな世界”と。冒頭のレフ・トルストイ独自の宗教観が垣間見られる「バテル・セルギウス」とワニに呑み込まれた男を取巻く人々の不条理な論理と会話を描いたユーモア溢れるドストエフスキーの「鰐」が印象に残った。
読了日:06月27日 著者:
呪術の体験―分離したリアリティ呪術の体験―分離したリアリティ感想
ドンファンシリーズ、第2作目。カルロス・カスタネダは、呪術師には必須の「見る」ことについて数多くのことを学ぶ。「見る」とこでわかる分離したリアリテイの訓練が執拗に繰り返される。煙での訓練で「見る」ことが出来るようになるが、何も変わらない。全てが愚かさの管理下にあり、善悪も好き嫌いもなくなり全てが平等の世界に。「眺める」は、常人が世界を知覚している普通の見方であり、「見る」は知者が事物の本質を認知することができるようになること。カスタネダは、徐々に神秘体験の深みに足を踏み入れていく。不思議な読後感。
読了日:06月23日 著者:カルロス・カスタネダ
走れメロス (新潮文庫)走れメロス (新潮文庫)感想
桜桃忌の本日に。メロスが一度は無二の友を裏切ることを考えるも、思い直し再び走り出す場面が感動的な表題の「走れメロス」、自己喪失で不器用にもがき続ける芸術青年たちを描いた「ダス・ゲマイネ」、訪れた峠の茶屋での出来事を富士山を背景にとりとめなく描いた「富獄百景」、一人称独白で女性心理を鮮やかに描いた「女生徒」、イエス・キリストを扱った「駈込み訴え」、自伝として貴重な「東京八景」、親族への想いを綴った「帰去来」「故郷」、人の内面心理に精通し、明るくも暗くも感じられる太宰中期作9編を満喫した。
読了日:06月19日 著者:太宰 治
シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫)シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫)感想
片想いが織りなすドタバタ喜劇。双子の兄妹セヴァスチャンとヴァイオラが船の難破で生き別れとなったことから物語がはじまる。少年に変装したヴァイオラは、仕えているオーシーノ公爵に恋をする、その公爵はは伯爵家の令嬢オリヴィアに恋しているが、オリヴィアは男装のヴァイオラに想いを寄せる・・個性豊かな登場人物の面々、純粋で一途なヴァイオラ、高潔な処女で了見の狭いオリヴィア、猪突猛進のオーシーノ、飲んだくれのサー・トービー、などなど。複雑に絡み合う人間模様。掛け合い漫才のような台詞回しが実に面白い。
読了日:06月18日 著者:W. シェイクスピア
ヘルマン・ヘッセ全集〈3〉ペーター・カーメンツィント物語集1―1900‐1903ヘルマン・ヘッセ全集〈3〉ペーター・カーメンツィント物語集1―1900‐1903感想
処女作「ペーター・カーメンツィント」(ヘッセ27歳時作)と1900~1903年(2(23~26歳)に書かれた18編の小品を収録。最初の作品を以下に。故郷を出て都会で作家として生計を立てるペーター。エリザベートへの叶わぬ恋と身障者ホビーへの献身的な奉仕で、ペーターは成長していく。その後都会が肌に合わず帰郷する・・恋心を抱く文筆家、親友身障者たちとの出会いを鮮明にして、荒々しくも美しい山、川、森、空に囲まれ、育まれた純真で透明感漂う素晴らしい文章。詩人ヘッセの豊かで情感のある自然描写が特に印象的。
読了日:06月15日 著者:
サイコシンセシスとは何か 自己実現とつながりの心理学サイコシンセシスとは何か 自己実現とつながりの心理学感想
サイコシンセシス「統合心理学」とは、パーソナリティレベル、フロイトの無意識だけでなく、宗教の扱う真の自己、スピリチュアリティや他者・世界との繋がりに関わる無意識を含む全体(ホール)として包括的に人間を捉えたホリスティックな人間観で、癒しから自立、成長、他者や世界に繋がり、心の豊かさを目指す「降りていく生き方」にも結び付く在り方。その研究・実践の第1人者が、サイコシンセシスを噛砕いて概説。在り方、意志の持ち方、個と全体の統合、心・身・知の繋がり、意志の働きとセルフコントロールなど、非常に分り易かった。
読了日:06月11日 著者:平松 園枝
ものがたりの余白―エンデが最後に話したことものがたりの余白―エンデが最後に話したこと感想
エンデと深い親交があり作品の翻訳者でもある田村都志夫氏が、エエンデが亡くなるまで寄り添って語ったことを纏めた本書。中味は、文学について:遊び(シュピール)について、「ジム・ボタン」と「モモ」のあいだー間(ま)の話、「鏡のなかの鏡」について、トリノの聖骸布。人生について:家系、少年時代、イタリアのこと、そしてパレルモの語り部。思索について:シュタイナー人智学の芸術観、西欧の物質、アジアの霊性、そして歴史の流れ。その他、夢について、死について。エンデの言葉が満載。非常に興味深かった。再読必須。
読了日:06月11日 著者:ミヒャエル エンデ
シュタイナー自伝〈上〉1861‐1894シュタイナー自伝〈上〉1861‐1894感想
独自の世界観:「人間存在の中の精神的なものを宇宙の中の霊的なものへ導こうとする、一つの認識の道である」と云う人智学(アントロポゾフィー)を編み出したR・シュタイナーの自伝(上・下巻)。本書(上巻)には、幼少期(オーストリアの片田舎)から、ウィーンでの学生時代、ワイマールのゲーテ=シラー文庫でのゲーテ全集編纂者時代、ベルリンでの神智学協会時代、その後の人智学教会創設までが記されている。ユング、エンデに多大な影響を与えたと言われるシュタイナーをより多く探求したいという思いから読んでみた。
読了日:06月04日 著者:ルドルフ シュタイナー
おもかげ橋おもかげ橋感想
比較的軽めの娯楽性の高い葉室時代劇だった。分りやすい展開で、非常に読み易く、読後感も清々しかった。現代における誤った個人主義の行き過ぎで、皆無になりつつある、古き良き日本の義理堅さ、辛抱強さをひしひしと感じることができた。主人公は、貧乏侍の草場弥市と幼馴染の武士から商人になった小池喜平次と二人の初恋の女・萩乃、この3人の立居振舞も良かったが、個人的には、脇役ではあったが、弥市のところへ押し掛け女房となる弥生の骨太の肝っ玉が非常に印象に残った。
読了日:06月02日 著者:葉室 麟

読書メーター

 

5月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4225
ナイス数:770

シュタイナー入門シュタイナー入門感想
『シュタイナー自伝』を読む前に、本書を読んでみた。シュタイナーの一面を知ることができ、有意義であった。第一部ルドルフ・シュタイナーの生涯(ヨハネス・ヘルレーベン著)、第二部シュタイナーと日本(河西善治著)で構成。第一部の、幼年時代と青年時代のこと、ゲーテ学者であったこと、(主著の)『自由の哲学』、神智学から『人智学』への転換、『いかにしてより高次な世界の認識を獲得するか』、『神秘学概論』、シュタイナー教育の源流の「ヴァルドルフ教育」、芸術としての人智学(オイリュトミー)などの記述に興味深々。
読了日:05月31日 著者:ヨハネス ヘルレーベン
万葉集 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)万葉集 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)感想
謂わずと知れた日本最古の歌集『万葉集』(天皇、貴族、下級官人、防人、詠み人知れずなど、様々な人々が詠んだ約4500首)から140首を選び、原文、口語訳とその意味合い、歌の技巧、時代背景や人間関係等を丁寧に解説。更には要所要所に挿入された写真、イラスト、コラムの挿話も有難い。副題“ビギナーズクラシック"の名の通り、私のような万葉集初心者に最適。人を愛し、死者を悼み、自然を慈しんだ万葉人。1300年以上前の遥か彼方の万葉人が、歌に託した思いは、現代人の心にも通じる普遍的な心情に他ならない。
読了日:05月29日 著者:
シェイクスピア全集 (4) 夏の夜の夢・間違いの喜劇 (ちくま文庫)シェイクスピア全集 (4) 夏の夜の夢・間違いの喜劇 (ちくま文庫)感想
松岡訳シェイクスピア作品を断続的に読んでいっているところ。「夏の夜の夢」:アテネ郊外の森の中、貴族や職人、森の妖精たち、(トリックスター)の妖精パックが惚れ薬を塗る相手を間違ったところから騒動が始まる。二組の男女の恋模様に妖精の王と王女の養子を巡るいざこざが絡まり喜劇が繰り広げられていく。「間違いの喜劇」:離れ離れになってしまった双子の兄弟とその二に仕える双子の召使いが引き起こす騒動。アップテンポで軽快な松岡訳シェイクスピア初期2作品、いずれも人違い、間違いのドタバタ喜劇を満喫した。
読了日:05月28日 著者:W. シェイクスピア
呪術師と私―ドン・ファンの教え呪術師と私―ドン・ファンの教え感想
4年前に一度既読。作家で人類学者の著者が、メキシコのネイティブ・ニンチディアンの思索と行動を通して、呪術の世界(その宇宙観・世界観)を紹介していく。ヤキインシディアンの呪術師ドンファンがメスカリト、ペヨーテ、ダヅラ、キノコといった幻覚誘発植物を使って、意識の変容(ゆめうつつ)の世界を体験、生き生きとした体験が淡々と客観的にルポルタージュ様式で記されている。本書はカルロスカスタネダの呪術修行を描いたシリーズの第1巻目。順を追ってカルロスカスタネダの呪術修行を疑似体験してみたい。
読了日:05月23日 著者:カルロス・カスタネダ
読書のデモクラシー読書のデモクラシー感想
詩人であり、読書の達人長田弘氏。数多の書物から「読む、聞く、考える」に類別、心に響き、記憶に残った言葉を詩情豊かな感性で紡ぎ出す。平易な言葉だが、広範多岐に亘り、示唆に富み奥深い。【Ⅰ読む】の「寓話」から、ジャンジオノ『木を植えた男」の主人公エレゼアーゼ・ブッフィエの挿話、【Ⅱ聞く】の「ふだんの言葉」から、ボードレールの言葉”コレスポンダンス”(万物照応)の意味合いへの言及、【Ⅲ考える】の「第二の歴史」から、“ボニーとクライド"の(懐かしい)映画『俺たちには明日はない』への展開、他。
読了日:05月20日 著者:長田 弘
モモも禅を語る (こころの本)モモも禅を語る (こころの本)感想
臨済宗僧侶で英米文学研究者、禅を英米に紹介していると云う著者。人が生きていく上で在り方強化に結び付く禅語。本書では『モモ』の中に出てくる言葉を引きながら、更には世間で使われている言葉で禅意を表す、例えば和歌、俳句、都都逸他からの世語をも引きながら、禅語を解説・紹介していく構成。禅の立場とは、「教外別伝、不立文字、直指人伝、見性成仏」「お経を読んでも つかめはせぬぞ 言葉で言っても 書いてもだめだ ほんとうの自分を しっかりつかめ それができたら みな仏」即ち著者曰く「ラデイカル・ヒューマニズム」と。 
読了日:05月18日 著者:重松 宗育
源氏物語 巻七 (講談社文庫)源氏物語 巻七 (講談社文庫)感想
本書では、「柏木」「横笛」「鈴虫」「夕霧」「御法」「幻」「雲隠」「匂宮」「紅梅」の九帖を収録。紫の上の死と限りない源氏の悲しみが語られる「御法」、その後もはや抜け殻状態となった光源氏の晩年を描いた「幻」、源氏が出家後数年して死亡したと推し量られる(本文なし表題のみの)「雲隠」、更に源氏の死から数年後、二人の貴公子、女三尼宮の子薫と明石の中宮の子匂宮を描いた「匂宮」が特に印象的だった。「幻」から、源氏が悲しみの心情を詠んだ歌“もの思ふと過ぐる月日も知らぬままに年もわが世も今日や尽きぬ”。残すはあと三巻。
読了日:05月16日 著者:
諸国物語〈上〉    ちくま文庫諸国物語〈上〉 ちくま文庫感想
漱石と双璧をなす明治の文豪鴎外が、当時の海外作品(スカンジナイヰア2編、佛蘭西7編、独逸3編、墺太利9編、露西亜9編、亜米利加3編)を翻訳・紹介したもの。様々な国々の様々な作家による奇妙な話、不思議な話、恐ろしい話等々。例えば、アレクセイ・トルストイ、レオ・トルストイ、ドストエフスキイ、ゴルキイ、リルケ、ポー他。本書上巻では、その中から25編が収録。特に、リルケ、ポーの短篇がお気に入り。ポー作品については、今後の読書予定に組み込んでゆきたい。その前に、下巻を読まねば・・・。
読了日:05月14日 著者:森 鴎外
空海の風景〈下巻〉空海の風景〈下巻〉感想
下巻では遣唐使として長安を訪れ、青竜寺で恵果に会い、密教を伝授されて、帰朝後真言密教を立ち上げ、死去するまでの足跡が綴られる。その中で主に当時の政情と共に最澄との関係(交流と確執)が記述されている。空海に膝を屈して師事を仰ぐ最澄は、経典のみの学びだけで密教を体得しようとするが、やがて空海は行法と信仰重視する密教では片手間な学びの姿勢では無理があると戒めることとなり、空海と最澄の確執が生じたと云う。空海を見事に描き切った司馬遼の史実に沿った姿勢と素晴らしい文章力に魅了された。再び高野山を訪れたいものだ。
読了日:05月11日 著者:司馬 遼太郎
文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)感想
下巻では文字の発明、技術面での発明、社会の集権化の過程とオーストラリア大陸とニューギニア、アフリカ大陸、そして中国とその周辺国、旧世界と新世界、更にアフリカ大陸の文明発展の特徴が詳細に解説される。またユーラシア大陸の様に東西に冗長な大陸は食糧伝播が早いが、南北に長い北中南米大陸、アフリカ大陸では気候変動が激しく、又は地勢的な障壁で食糧、技術、文字の伝播が極めて遅かったとも。地球各地域の文明進化の違いは、民族の優劣ではなく、環境が大きく影響したと著者は結論付ける。最後の「科学としての文明史」に共感した。
読了日:05月09日 著者:ジャレド・ダイアモンド
アムリタ〈下〉 (角川文庫)アムリタ〈下〉 (角川文庫)感想
下巻はサイパン旅行以降の人間模様、平凡な日常から少々外れてしまった面々が描かれる。普通の人には見えず聞こえないものが、見え聞こえる主人公の弟由男。自己を見失い、半分の自己で世界を見つめる主人公朔美。ひたすら旅をする主人公の友竜一郎。霊と交信ができる竜一郎の友人でサイパンに住んでいるコイズミくんの妻させ子。現実と夢、現実の死後の狭間が曖昧であり、かなりスピリチュアルに溢れている。些細なことで徐々に変わってしまう家族、見失ってしまう人生。家族や大切な人の事を思い浮かべさせてくれた不思議な物語だった。
読了日:05月07日 著者:吉本 ばなな
道化の民俗学 (岩波現代文庫)道化の民俗学 (岩波現代文庫)感想
アジア・アフリカ、南アメリカなど世界各地で、両性具有、トリックスターにつてフィールドワークをしたと云う文化人類学者山口昌男氏初期代表作。エロスと笑い、風刺と滑稽に溢れる道化。世界各国の様々な芝居や劇、神話等に出てくる道化について、詳細に考察される。イタリアのアルレッキーノ、狂言の太郎冠者、中世劇ノ悪魔、アルレッキーノとギリシャ神話のヘルメス、アフリカのトリックスター神話、古代インドのクリシュナ、アメリカインディアン等々。実に興味深々の内容。本書も河合著『こころの読書教室』派生本。
読了日:05月07日 著者:山口 昌男
考える日々考える日々感想
雑誌(1998年「考える日々」、1997年「考えない人々」)に連載されたコラムを収録。時事的なテーマを素材に論考。例によって池田晶子節炸裂。一見、屁理屈、世間に斜に構えて、恰も揚げ足を取るように事物を見ているようであるが、さに非ず。著者は素直に純粋に形而上学的に考えを巡らせ突き詰める能力に長けている。物事のもっと奥、根本、中心を考えよと。経済・生命・情報至上主義に陥ってしまい、多忙は怠惰の隠れ蓑状態で、易きに流れ、深く考えようとしない現代人に、著者は警鐘を鳴らしてくれている。
読了日:05月03日 著者:池田 晶子

 

4月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:3402
ナイス数:693

ヘルマン・ヘッセ全集 <2> 青春時代の作品〈2〉ヘルマン・ヘッセ全集 <2> 青春時代の作品〈2〉感想
ヘッセ初期1900~1904年に書かれた未完・未発表作品を収録。青春期の心情や恋愛・女性観を反映させたもの、2度のイタリア旅行で創作された作品。2度のイタリア旅行後、書店員を辞めて文筆活動に専念したヘッセ。最後の2編「ボッカッチオ」と「アッシジのフランチェスコ」が特に印象に残った。編集者解説によると、永遠者の精神を慎ましく身を持って体現し歴史を動かした「アッシジのフランチェスコ」からヘッセは多大な影響を受けて、独自の世界観・自然観を創出したという。
読了日:04月29日 著者:
本日は、お日柄もよく (徳間文庫)本日は、お日柄もよく (徳間文庫)感想
平凡なOLが幼馴染の結婚式で出遭ったスピーチライターのスピーチに感動、弟子入りしてスピーチライターに。最初の結婚式のみならず、主人公や好敵手の感動を呼ぶスピーチ、ユーモアたっぷりのスピーチが満載。圧巻のフレーズ“困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している。” 素晴らしい!巧みな構成で詠み手を釘付け。爽やかで、元気・勇気が貰える良書だった。
読了日:04月26日 著者:原田マハ
アムリタ〈上〉 (角川文庫)アムリタ〈上〉 (角川文庫)感想
主人公は母と義弟と母の友人と従兄の5人の同居暮し。父と妹を亡くし、主人公は頭を打って記憶を喪失し、弟は不思議な力を手にする。上巻は、サイパン旅行の途中までが描かれる。家族の物語であり、記憶についての物語でもあり、恋愛についての物語でもある。また、夫々複雑な悩みを持った登場人物たちがお互いに癒し合う物語でもある。生と死という主題を底流にもち、平凡な日常生活の素晴らしさが、登場人物夫々の内面を深く掘り下げながら、丁寧にじっくりと描き出されている。ばななワールド。河合先生推奨図書。
読了日:04月24日 著者:吉本 ばなな
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)感想
従来の西欧からの視点ではなく、東アジア・太平洋域から人類史の謎解きがなされている。僅か百数十人だけの部下を伴ったピサロが如何にしてインカ帝国を滅ぼしたのか。家畜から人に感染した病原菌が何をしたのか。野生書の植物がどのようにして栽培化されたのか。野生動物の家畜化の可否はアンナ・カレーリナの原則による取捨選択だったと。土器や研いだ石器を人類の歴史で最初に使ったのは日本人(縄文人)だったとも、等々。兎に角知的好奇心奮い立たせる話、目から鱗の話が満載だった。先に読んだ『知の逆転』からの派生本。引き続き下巻を。
読了日:04月22日 著者:ジャレド・ダイアモンド
倚りかからず (ちくま文庫)倚りかからず (ちくま文庫)感想
凛とした力強さ、潔さと優しさ、またしなやかさとユーモアもある、研ぎ澄まされた言葉での著者自選詩79編。著者父親が独留学の苦い体験で気付かされた日本人の悪癖(依頼心と依存心の強さ)を聞かされたことが発端となって、抱いていた長年の思いを、談合、癒着、贈・収賄、馴れ合いが蔓延った1999年当時の世相を鑑みて、詠ったという表題の『倚りかからず』が、特に印象深く、示唆に富む。巻末の解説「誇るのではなく、羞じる人」(山根基世)でも著者の人となりが上手く表されていた。
読了日:04月20日 著者:茨木 のり子
源氏物語 巻六 (講談社文庫)源氏物語 巻六 (講談社文庫)感想
光源氏39~41歳の話[若菜上]と41~47歳の話[同下]を収録。光源氏異母兄朱雀帝の愛娘女三宮が光源氏に託され六条の院に降嫁し、女三宮を巡る騒動で、紫の上の困惑と憔悴・危機、更に光源氏の悲劇(柏木と女三宮の不義密通は、過去の藤壺との不義に対する光源氏への因果応報)が描かれる。会話形式での登場人物の心理描写の濃厚さが際立つ。それにしても何とも不憫な紫の上。本帖の由来は、光源氏40歳の祝賀で詠んだ“小松原末のよはひに引かれてや 野辺の若菜も年をつむべき”からと云う。
読了日:04月16日 著者:
長田弘詩集 (ハルキ文庫)長田弘詩集 (ハルキ文庫)感想
著者が自ら選んだ珠玉の散文詩、79編を収録。難しい言葉を使うことなく平易な日常語で摘むぢ出された数々の散文詩編、読んで気付かされる示唆に富む深みのあるフレーズ。料理や食に関わる詩編が多い中、今回印象に残ったのは、石川五右衛門をモチーフにした「五右衛門」と著者の豊富な読書歴から紡ぎ出された「働かざるもの食うべからず」(コッローデイ『ピノキオ』)と他著書(『世界は一冊の本』)で一度既読ではあったが「ファーブルさん』(『昆虫記』)と更に「ぼくの祖母はいい人だった」(ゴーリキイ『幼年時代』。再読必須本。
読了日:04月13日 著者:長田 弘
寺田寅彦随筆集 (第5巻) (岩波文庫)寺田寅彦随筆集 (第5巻) (岩波文庫)感想
小宮豊隆編集著者随筆集、最終巻。晩年に著された20編の随筆を収録。地図に纏わる様々な論考の「地図をながめて」、鑑賞した幾多の映画の評論2編の「映画雑感」、自然界の鳥が鳴く意味の考察の「疑問と空想」、先の東日本大震災と福島原発事故の憂いに繋がる「天災と国防」、18章からなる「自由画報」、B教授の死への一連の思いを綴った「B教授の死」、災難や災害の考察の「災難雑考」、亡き祖母の糸車に焦点化・追憶を綴った「糸車」他。科学者で文筆家・俳人の著者の芸術感覚と科学者精神からの随筆を満喫した。「天災と国防」が示唆深い。
読了日:04月12日 著者:寺田 寅彦
楡家の人びと楡家の人びと感想
T.マン『ブッデンブローグ家の人々』に触発されて、著者自身の一族を下敷きと云う本書。三島由紀夫や辻邦生は高く評価したと云う。明治末から昭和の太平洋戦争直後まで、脳病院の初代院長楡基一郎の生涯を端緒に、時代の流れに翻弄されながら波乱に満ちた世相を逞しく生きた、一族三世代の人間模様が、著者独特のユーモアを交えて、描き出されている。個性豊かな登場人物に魅了された。基一郎のカリスマ性、その長女龍子の気位の高さ、その夫、学究肌で経営に疎い2代目院長徹吉、桃子、欧州、米国、蔵王山他。読み易かった故読了出来た。
読了日:04月09日 著者:北 杜夫
空海の風景〈上巻〉空海の風景〈上巻〉感想
歴史小説の司馬滋賀良太郎が、1200年前の平安時代に活躍した、真言密教の祖空海という空前絶後の巨人に迫る。本書上巻は、誕生から遣唐使として唐に渡り恵果に会い、密教を承るまでが語られる。他大河著作とは趣向が異なるものの、現在残る文献・史料を吟味、浮かび上がった事実と事実の狭間を、著者独特の想像力で補完の上、時間の障壁を覆し、動の空海を生き生きと描き出す。四国の生家から唐に渡った空海の足跡を辿り、当時の宗教の変遷への言及、同時代に生きた最澄との対比も見事。久々の司馬遼作品!引き続き、下巻へ。
読了日:04月05日 著者:司馬 遼太郎