:影になった恋人:・書きかけ・

無意識の遠目の先 初冬の景色に

虚ろいでいると

やがて落ちてゆく夕闇を誘うように光を放っていた。

 

枯れた木々は揺れもせず 

その枯れ果てた体に蔓を絡ませ 

まるで 愛から逃げようとしているかのように絡まりを解こうとしている。

 

こんな風に見えたのも何かから

逃げたかった過去の思い出 いや、冷めてしまった中でも 

逃げることのできない、

まるで縛りを解けなかった
氷の蔦の絡まりのように。

体が重たいのかい?
辛そうに見えた。

すっかり枯れた葉っぱは力無く

ぶら下がり、微動だにしないのだが、

 

寒さが少しづつ増していく中 

このように湾曲しながらも

この数年幹(からだ)を必至に

天に向けて伸びた枝々にさえ 

それを逆らう程の力も無い

 

あの日 あんなにも青々しく私に

エネルギーを与えた緑の葉達は 

枯れ果てた 私の心を写しているかのように 足元に散りばめられた。

初雪が降りて 数日後 溶けてしまった

水溜りの泥水を覆う表面に咲いた 氷煎餅の残骸は寒々と意識を凍らせた 

 

パリパリッと子供の頃 祭りで食べた海老入りの煎餅に似て 踏み付けるとピンク色の音がする。

 

小さなサイズの長靴には 簡素な

月と星のマークのデザインも

田舎道にはお似合いでお馴染みの顔

夜空の美しい田舎道に楽しみを与えている。

 

それは幼い頃、真っ暗な空を見上げると 後ろを振り向いた子供の身長に目を見開かせる驚きを与え、

天上からの月光が全身を包み込む

ほどの満月の夜、白んだ雲の対比が青空を連想する、

「語りかけるように兎さんが餅つきをしているんだよ」

と教えられた生々しい記憶の断片と

子ども心に 本当なのだろうかと

見つめ返した月の模様は ジッと見つめるだけの時間でしかない事も

小さな記憶の遠いとおい道のりも

その先に 確かめる方法もなかった。

 

大人の話に一致した想いもないが

何より 空に光り輝く月の模様に

眼を奪われて 幾度どなく夜空を見上げては親しんだ。

 

氷を割る音は冷たい季節の到来の前章、

初冬のほんの僅かな陽射しの時間に雪解けの小径で靴を下ろす度に懐かしく思えたのは 私の錯覚だろうか。

 

いや、むしろ寒々とした冬の始まりよりも、降り積もった雪の中、カマクラを作り遊んだ記憶が鮮明だ。

 

その内側をロウソクの熱で凍らせてカマクラが崩れないようにした事を覚えている、パリパリ割った音は、カマクラの内側にできた氷の壁に似た感触を音の響からも連想した。

海老を混ぜた小麦粉の色彩に 何故あの着色が現れたのかは 知る事もなく、

見た目の鮮やかさに生唾を飲んで、1枚か2枚の硬貨を握りしめ 

学友と突っ走った出店迄の砂利道、無邪気に遊び育った時の流れを懐かしく思えて 口が緩んだ。

さして遠くに旅することもなく、

日常の光景という ひと時にも、

公園の聖なる植物に教わる沢山の

学びも 散歩という 

言い慣れた言葉に収めてしまうのは勿体ない気がすることも

この年齢に達した事の記しであろうか。

夏の絶頂期に群を蔓延らせて羽根

一杯に飛んでいた 蛾や蚊も

 最後の命を有効に働かせて飛んでいる、

彼らには今季の命が何時終わるのか 定かではない。
 また、昆虫学者の言葉も知らないが 生態を調べようと 検索にマウスを

 動かす感情も寄り付かず、携帯のキーボードにも指は触れてはない。

一つだけ、不便さが有るとすれば、指先の指紋が、削れたり切ったりすると認証しないことのイライラだ、傷バンなどはいうまでもない事だが、

慣れてしまうとあの数字キーを押す手間の面倒さ、ややもすると頻繁ではない数字すら記憶から素早く出て来ずに、いやっ

すっかり忘れた程の記憶障害ではないが、

認知症の検査にもしや?と、

夏の終わりに届いていた町からの
健康診断の案内書を手にしていることが、

我ながら怒涛の思考に悩まされる、通達という手段の恐ろしさだ。

 

しかも、矢印の部分から貼り合わせを捲ると、糊の跡もなく綺麗に剥がせる葉書は 

何とも風情がなく活字のオンパレードの、その表面の艶ときたら眼を細めてしまう。

 

決して、老眼ではないが 少々という視力で 眼鏡に頼るのも癪に触る。

 

みんな気をつけると良い、指認証に、震え時が来たら充分怪しいと言っても過言ではない。

こんな時は、病院のシーンがピンと来る
登場人物は何人?

俺と医師に看護師 

う〜んやっぱり うら若い で、
何歳?ちらほら22ってとこか、

 

ちらほらってぇ 
見た目がちらほら 
何を見たいのか 目を盗んで! 
看護師さん
いやいや そらーお前 医者の前で顔ずらして看護師ばかり 

いくら俺でも気が引ける。

 

大体、あんたじゃ治せないと言っているようだろう まるでな!
何かい 看護師が治せると
お〜美人ならな 俺の心は直ぐに
どうでもいいよそんな事

はい、次の方は中へお入りください
春日さ〜ん 春日公昭さん
あ〜俺か。
医者を見るんだな じ〜〜〜〜
どこか眼でも悪いですか?

 

オラなこの眼は、生まれつき

眼グセ悪いんだよ
いえあの 看護師さんが俺の昔の

こい
お前、恋人なんていないだろ
だから 平仮名で止めておいた
じゃ、次診断だ

 

服を捲ってください
看護師さんが、この俺の着ている服をだな こんな風に巻き上げて
お前、釣りのリールにでもなったつもりか

 

医者がもう少し長く診察してりゃ 胸の膨らみがお前
俺の呼吸と合わさって恋にな

 

バカだね つくづく メデタイよ
どうして 看護師さんが診察の為の作業 あ行じゃねえぞ

 

胸を広げたらお前に恋の漢字が浮かぶんだ
俺の広辞苑や 百科事典 
どっちか一つにしな
じゃ、百科事典
それにだ、お前のバカの恋とは 

書いてんの なんて
二人は結ばれました

 

本日の診察は時間切れにて、停電いたしました
オイオイ、バックアップ電源あるのに病院 停電するか アホ

あっのぉ 携帯の電源が入らずに
あっあー
横を向いて医師が 看護師さんに 相当酷いね! 

 

もしかして 俺の病気?

 

暫く入院 家族の方は、
お一人のようです
 続くーーー→