トランプ氏がアメリカ議会で施政方針演説を行った。(日本時間3月5日)この演説に要した時間は1時間40分にも及ぶ長いものであったと言う。そこで述べられたのはトランプ氏が大統領に就任してからの40数日間で自身が行った業績に費やされていた。多数の大統領令を発出したことを誇っているようであった。そして「強いアメリカの復活」と「アメリカンドリーム」に言及した。
この演説でトランプが言及しなかったことに、目を向けてみたい。
トランプ氏は大統領選挙に臨んだ公約の一つにラストベルト(錆びついた地域)をどうするのかがあった。ラストベルトとはアメリカの製造業の多くがアメリカ国外に移動して国内産業が空洞化しているとの基本認識である。そのため、国内の工業設備は古くなり稼働されなくなり錆びついている状態を象徴する言葉である。
さて、トランプ氏は大統領就任前には「ロシア ウクライナ戦争は大統領に就任したら24時間以内に終わらせる」などの大ボラを吹いていた。またアメリカ国内に輸入される物品に高い関税を課して国内産業を保護すると言明してきた。実際に彼はそれを行う大統領令を出した。対外的な姿勢に関してトランプは「24時間以内に戦争をやめさせる」などと威勢がいいのだが、「24時間以内にラストベルトのサビをなくす」と言わなかったのはなぜなのという疑問を私は持った。これは「ラストベルトのサビの解消」は簡単にはできないしその実現には長い期間がかかることをトランプ自身がよく知っているからであろう。錆びついた生産設備を更新して新たな労働者の職場を準備するなど数ヶ月でできるワケはない。製鉄所の設備を新たに作るとすれは短くても1年や2年はかかるのである。トランプ氏に投票したアメリカの有権者にとっては「ラストベルトの解消」は大きな課題であったはずなのだが、それに関してトランプ氏の言及がなかったのは不思議なことであった。
さて、このようにトランプ氏は難しい課題には触れないで対外的に相手を非難しても跳ね返りの少ない課題には力を注ぐ姿勢が見えてくる。
このやり方はポピュリズムに特徴的な政治姿勢である。この演説を見て思うのは、アメリカの有権者は厄介な人物を自らの指導者として選んでしまったことにいつになったら気づくのだろうか、ということである。