(続)過去問ひとり答練 ~予備H24実務基礎(民事) | ついたてのブログ

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第1 設問1

1 実体法の定める相殺の要件は、a.「二人が互いに・・・債務を負担する」ことb.双方の債務が「同種の目的を有する債務」であることc.「双方の債務が弁済期にある」こと(以上、民法505条1項)d.相殺を妨げる事由の不存在e.相殺の意思表示(民法506条1項)である。

2 a.について、受働債権の発生原因はすでに請求原因で現れているので、ⅰ自働債権の発生原因事実の主張立証で足りる。本件では、⑤⑥の事実により、YのXに対する必要費償還請求権(民法608条1項)が発生する。よって、⑤⑥の事実がⅰに当たる。

b.について、独立に主張立証することを要しない。なぜなら、ⅰが主張された段階で自ずと明らかになるからである。

c.について、受働債権の弁済期が未到来でも期限の利益を放棄できるので(民法136条2項)、受働債権が弁済期にあることの主張立証は不要である。自働債権については、ⅰの種別により異なる。本件では、自働債権は必要費償還請求権であり、直ちに償還請求できる(民法608条1項)。よって、自働債権が弁済期にあることの主張立証も不要である。

d.について、本件では関係しない。

e.については、⑦の事実が当たる。

よって、抗弁事実として⑤⑥⑦の事実を主張する必要があり、かつ、これで足りる。

2 (2)について

Qは、必要費償還請求権を被担保債権として留置権(民法295条)の抗弁を予備的に主張することになると考えられる。

第2 設問2

1 裁判所は、Pに対して、本件領収書の成立の真正を否認する理由を確認すべきである(民訴規則145条)。

2 理由

本件領収書は私文書であり、私文書は、本人の意思に基づく署名があるときは、真正に成立したものと事実上推定される(民訴法228条4項)。そうすると、本件領収書の成立の真正を争うPとしては、丙川三郎という署名が丙川の意思に基づきなされたか真偽不明にすれば足りるところ、その方法は様々考えられる。そこで、裁判所は、同否認の理由を確認して争点を明らかにすべきである。

第3 設問3

1 裁判所は、YはXに対し甲建物を明け渡せとの判決をすることになる。

2 理由

(1) 相殺の遡及効(民法506条2項)によっても、すでに生じている解除の効力を覆す効果はない。本件では、Yによる相殺の意思表示がXによる本件契約の解除の意思表示の後に行われているので、同解除の効果は覆らない。

(2) 賃貸借契約の解除には遡及効がないので(民法620条)、同解除によっても受働債権たる120万円の本件未払賃料債権は存続する。そして、同相殺の遡及効により、自働債権たる150万円の必要費償還請求権は対当額たる120万円の範囲で消滅する。また、XがYに30万円を弁済しており、同必要費償還請求権の残額30万円も消滅する。よって、留置権の被担保債権が消滅しており、付従性により留置権は消滅する。

第4 設問4

1 (1)について

「所属弁護士」であるAが、「他の所属弁護士」であるB「の依頼者」であるR社「について執務上知り得た秘密」である、同社が倒産を避けられない情勢であるという事実を、Sに説明することは、「正当な理由なく他に漏らし」(弁護士職務基本規程56条前段)に当たる。よって、Aの同行為は同条前段に違反する。

2 (2)について

同条の秘密保持義務は、Aが弁護士登録を取り消して「所属弁護士でなくなった」後も存続する(同条後段)。よって、Aが本件発言をすることは同条後段に違反する。

(1424字)

 

※設問1(2):同時履行の抗弁権ではない。なぜなら、必要費償還請求権は双務契約関係から生じるものではないからである。また、「万が一相殺が認められなかったとしても」という問題文の記載より、予備的抗弁である(山本先生)。