まだ、うだうだ、7月2日が続いております...

次回こそ、ちゃんとストーリーが動きます💦

 

※この回は、pixiv『⑤そして7月2日の夜は更けていく…💕』の2~3ページ目

にあたり、↑の1ページ目は『さらば! もろもろの古きくびきよ -5-』となっ

ております。

ややこしくて申し訳ございません。

 

 

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ジョルジェットがマロン・グラッセの部屋に続く廊下へとかどを曲がると、ドアに

手をついてこうべを垂れていたとおぼしきアンドレが、すっと姿勢を正して、女主人に

体を向け、深々と腰を折ってあたまを下げた。

 

ジョルジェットは、さらに足を速めながら気づかわし気に問いかけた。
「アンドレ! どうしたのです!? 具合でも悪いのですか!?」

 

〖しまった! 考え事に気を取られて、かどの向こうの気配に気づくのが僅かに

遅れたようだ〗
アンドレはゆっくり頭を上げて時間を稼ぎ、その間に笑顔を作った。
「なんでもありません。少し眠気がさして、ついドアにもたれてしまいました」

 

ジョルジェットは、心身の疲弊を容易に認めそうにないもうひとりの我が子・・・・・・・・・

に嘆息し、それ以上の深追いはせずに話を転じた。
「ばあやはまだ起きていますか?」
「いえ、いましがた寝につきました」
彼がドアを静かに開けると、女主人は何歩か室内に入り、マロン・グラッセの

穏やかな寝息を確認し、再び廊下に戻った。

 

このまま自室に戻ろうかどうか暫し逡巡してから、ジョルジェットは意を決し
声を励ましてアンドレに話しかけた。

 

「……アンドレ」

「はい、奥さま」

 

「オスカルのために無理を重ねてはなりません」

 

女主人の、思いもかけぬ強い声に彼は目を見開いた。

 

ジョルジェットは、めずらしく単刀直入に さらに切り込んできた。
「あの子がいるからこそ、あなたは生きていられるのでしょう?」

 

「……はい」
低いが迷いのない答え。

 

「あの子だって、あなたがいるからこそ生きていられるのですよ」
「……」


「どちらかひとりが輝きを失えば、ふたりともが輝きを止めてしまう。
ふたりがともに輝くことで、あなた達の光は何倍にも強さを増し、

まわりの者をも照らしてくれているのです。
光を放つあなた達がいるからこそ、この邸の者たちは…だんなさまも含めて、
心救われ、生きる力を搔き立ててもらえているのですよ。
いえ、邸の者だけでなく、きっと、あなた達を知る人の多くがそうでしょう」
「……」

 

ジョルジェットはアンドレの腕に手を添えて、彼の目を覗き込んだ。
「どうか、命を削るような生き方をして自分をすり減らさないでください。
あなたも……オスカルも。
そのように心することが、自分自身だけでなく…お互いを…みなを救うこと
になるのですよ」

 

「奥さ…ま……」
敬慕と呵責がないまぜになって、アンドレの頬にぽろぽろと大粒の涙がこぼれた。

 

 

「まあ。こんなに大きくなったというのに、泣き虫は治りませんね。
我が家のたったひとりの男の子は」
ジョルジェットがハンカチを取り出そうとした時、
アンドレは耳慣れた足音に気づいて、急いで濡れた頬を拭った。
「オスカルが来ます!」

 

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かどを曲がったオスカルは、意外なツーショットに一瞬足を止め、
それからすぐ血相を変え、脱兎の如く ふたりに駆け寄った。


アン……  母上! アンドレ! ばあやに何か!?」

 

「あらあら、そんな騒がしい足音を立てて大声を出したりして。
ばあやの安眠を妨げてしまうではありませんか」


たしなめる母の後ろで、アンドレが先ほどと同様、静かにドアを開けてみせる。
 

さすが軍人だけあって、オスカルは足音もなく寝台に近づき、ごく普通に
寝息を立てているマロン・グラッセに安堵の息をついて、再び足音を立てる
ことなく、母とアンドレのもとに戻ってきた。

 

「ほら、ね?  偶然、アンドレとわたしがここで鉢合わせただけですよ。
ほほ。あなたまで来合わせるなんて、今夜のばあやは大人気だこと。
これで お父さままでいらしたりしたら、ドアの開け閉めで、アンドレの細腕・・
筋肉痛になってしまうかもしれませんね」

くすっと笑って歩き出したジョルジェットが、ふと振り返ってふたりに声を

かけた。
 

「若さを過信して夜更かしするのはよくありませんよ。
あなた達も早くお休みなさい」

 

「はい、母上」
「お休みなさいませ、奥さま」

 

子供たち・・・・は素直ないい返事をして、ジョルジェットに頭を下げた。

 

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廊下のかどで もう一度ふたりを振り返って微笑みかけ、数歩進んでから、
ジョルジェットは大きく息をついて肩の力を抜いた。
思い切って、言ってしまった…。あれが今のわたしに言える精一杯だけれど。
見守るしかない。祈るしかない。
あの子達の母・・・・・・として わたしができることは、ただそれだけ。

 

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母の姿が見えなくなると、オスカルはアンドレの前にまわり、彼を見上げて
その頬を両手で包んだ。
「おまえ、目が赤い」

 

涙目(の跡)を見咎められ、彼は一瞬ことばに詰まったが、咄嗟に言い繕った。
「……うれしいんだ。
おばあちゃんが、奥さまにもおまえにもこんなに案じてもらえて」
もちろん、それも偽らざる本心である。

 

「大事なばあやだ。あたりまえだろう」
そう言って彼の胸にもたれかかろうとしたオスカルから、涼やかで甘い香りが
立って彼の鼻腔をくすぐり、力任せに抱きすくめてしまいたい衝動を誘う。
〖だめだ! ここはおばあちゃんの部屋の真ん前だ!〗
歯を食いしばって誘惑を退け、彼はそれとなく体を引いた。


オスカルの両肩に手を当てて向きを変えさせ、背を軽く押して一緒に歩き出す。
「奥さまがおっしゃっていただろう、夜更かしはよくない。早く休め」

 

 

しぶしぶ歩を運ぶオスカルから、またしても、甘く涼やかな香りが漂う。
「おまえ…ずいぶんいい香りがするな」

不覚にも、つい、そう言ってしまった。

 

オスカルは目の縁をうっすら染めて睫毛まつげを伏せ、彼のシャツの袖を掴んだ。

「湯浴みしたばかりでまだ髪が乾いていないからだ。乾くまで付き合え」
「へ? もう湯浴みを終えたのか? すごい早業だな」
「ここへ来ようとしたら、部屋の前でシュクレに出くわして、むりやり
湯浴みに引っ張って行かれた。仕方ないから、カラスの行水で飛び出して、
そのままここに来たんだ」

 

「はぁん。おまえとシュクレの攻防が目に浮かぶな」
ざわめく胸を押し隠してふるふると震える左手を拳に握り、アンドレは

ことさら呑気そうにクックッと笑ってみせた...がっ!

 

「話を逸らすなっ!」

伏せていた目をキッと上げて睨んだオスカルが、彼の袖を掴んだまま、

今度は自らズンズン歩き出した…自分の部屋に向かって。

 

彼的には、困ったようなうれしいような……だがやっぱり、袖をぎゅっと
握り締めるオスカルがかわいくて愛しくて抱き締めたくて、いつしか早足
になっていく。
ふたりはほとんど駆けるような勢いでオスカルの部屋へと急いだ。

 

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部屋に入るなり、ソファへと大股で踏み出したオスカルの鳩尾みぞおちがグイと
引かれ、慣性の法則で、彼女の躰が "くの字" に折れ曲がった。

 

「うわっ! 何をするっ!!」


上半身をねじって振り向こうとするオスカルの肩に、アンドレのもう片方の
腕が巻きつき、掠れ声が灼熱の吐息とともに黄金の髪を揺らした。

「動かないでくれ…! 頼む、しばらくこのまま抱き締めさせてくれ!」

オスカルの肩に顔を埋め、胸の中いっぱいに満ちる甘美な香りに、こらえに
こらえてきた熱い思いをほとばしらせる。

 

「オスカル…! オスカル……オスカル…

おまえを愛している! 愛している 愛している 愛している……!!
頭がおかしくなりそうなくらい、おまえを愛しているっ…!!」

 

うわごとのように繰り返すアンドレに、オスカルの鼓動が胸を突き破りそう
なほど激しく打った。
躰中の力が溶け去り、硬質な胸と強くまわされた腕に くったりと全身を預け、
目を閉じて、めくるめく光彩の中を漂う。
 

これが……これが、ふとまなざしを交わすだけで苦しいほど胸うずく男に、

愛され抱き締められる甘やかな至福というもの…なの……か…?
このような時が自分に訪れるなど……かつてのわたしにどうして予想しえた

だろう。

 

アンドレ……アンドレ…アンドレ……
おまえがいなければ、わたしは一秒たりとも生きてはいられない……

 

オスカルの唇からもれた切なげな溜め息に、アンドレがやっと顔をあげて
少し腕の力をゆるめた。
「あ…… 苦しかったか? 悪かっ…た」


愛しい声に、オスカルはうっすらと目を開けた。
「息が…苦しい。何かが……いや…おまえが足りない…」
 

顔をわずかにめぐらすと頬に彼の唇が触れ、オスカルは気づいた。
足りないのは、おまえの…唇……だ。
さらに顔をずらすとアンドレの唇の片側と自分の唇の片側がこすれあった。
渇望のままに、互いの唇の半分を幾度も強くこすり合わせ、その感触に酔い
しれながら、だんだんと唇全体を重ね合わせていく。
完全に重なり合った唇を少し開くと湿り気を帯びたその内側がぴったりと
密着し、吐息が混じり合う。
ああ…でもまだ足りない……

 

オスカルが躰をよじると同時に、アンドレが彼女の華奢な躰を素早く反転させ、
寸分の隙も残さず躰を引き寄せ合い、互いの背に もの狂おしく腕をさまよわ

せる。

口を大きく開いて押し当て合い、吸いつき合い、そのあわいを、薄桃色の生き物が

つがいの相手を求めて行き交い絡み合う。

呼吸は余計に苦しくなったが、彼らはそんな些事・・・・・に頓着せず、時を忘れて

右へ左へと顔を傾けて唇をくまなく貪り合い、掌が互いの髪を首筋を肩を

背を、絶え間なく探り合い続ける。

オスカルの洗い髪はとっくに乾いていたが、熱気で、また湿り気を帯びて

いった...

 

 

賢母ジョルジェットの忠告にも関わらず、彼女の子供たちは、燃えさかる

情熱に任せて、ドアの内側に立ったまま 夜更かしをする羽目になった。

果たして何時にアンドレがそのドアを開けて部屋を出たのやら……、

翌朝、ふたりともが どうしても思い出すことができなかった。

 

 

 

 

『さらば! もろもろの古きくびきよ -7-』に続きます

(次こそ、ちゃんとストーリーが動きます💦)