1789年。とある初夏の1日の、オスカル・フランソワさまのモノローグ。

 

(※『☆新たなる地獄への旅立ち』の翌朝です)

 

意味深なタイトルで恐縮です😅

これは、山口百恵ちゃんの『愛の嵐』(ジェラシーをテーマにした曲)と、

ヒデキ(西城秀樹さん) の『情熱の嵐』(タイトルのまんまですぅ~😝)の

≪嵐≫つながりから思いついたお話です。

 

オスカル・フランソワさまと相思相愛であることを知ったグランディエさん、

十数年間 閉じ込めてきた想いを解き放って、けっこーグイグイきます🥰

 

ふんだんに注がれるグランディエさんの愛情表現に、相思相愛初心者(判明翌日)の

オスカル・フランソワさまは、いちいち、キュンキュンあたふた💗

そんな軍人オトメさまの、可笑しくてかわいいコメディとご笑覧いただけますと

幸いです。

 

※⑨でのテレパシーに続き、今回も、少々トホホな超常現象が入ってしまっており
 まして恐縮です。

 

 

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熱気を孕んだ嵐に息も絶え絶えに翻弄され、
やがて…嵐が静まるにつれ、高く透きとおる空が広がってきて……
まばゆく降り注ぐ金色の光の中、わたしたちは呪縛から解き放たれ、
清々しい朝の陽射しに包まれていた。

「ん…んっ。アンドレ、ここはどこだ?」
おまえに問いかける自分の声で目覚め、まわりを見まわしたが、
おまえはいない。
身を起こして、起き抜けの目をもう一度しばたたくと、そこは自分の
寝室だった。






今のは夢…?
これはまた、わかりやすくベタな象徴夢を見たものだ。
しかも、吹き荒れる風の轟音、叩きつける激しい雨に打たれる痛み、
嵐が去っておまえと見交わした心安らかな笑み、そんな細部に至るまで
くっきりと記憶に残っている。

髪をかき上げながら失笑する。
昨夕、馬車の中で見た夢は、目覚めるとともにまぼろしのように

ぼやけてしまったのに…な。
夢とは、そのように儚く消え去ってしまうものではなかったか?
叶うものなら、馬車の中で見た、あたたかな幸せに満ちたあの夢をこそ
思い出したいのに...


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庭に出ると、既に馬車が支度され御者が乗っていた。
あ…、今日はおまえと一緒に乗って行ける💓
足取りが軽くなるわたし。年齢を鑑み、スキップするのは差し控えたが。

馬車に乗る時... 差し出された介助の掌をぎゅっと握って離さずに

戸口をくぐろうとしたら、おまえが、わたしの手の甲をトントンと

つついて、「こら、つなぎ方が違うぞ」と耳打ちしてきた。
吐息がかかった耳のまわりがこそばゆい。
ふわりと揺れて頬を掠めた髪の感触にさえ胸がざわめく。
 

「なっ何が違うというのだ」

つないだ手をわたしの目の高さに上げ、「ほら、こうだろ」と、指を絡め
キュッと力を込めてくれる。
ああもう……なんて男だ💕 胸がうずいてキュン死しそうだ💓
わたしも即座に絡み合った指を曲げ、キュッと力を込めた。

わたしに続いて乗り込んだおまえは、空いた手で踏み台を拾って馬車の
床に置き、御者に「待たせてすまない。出してくれ」と声をかけて扉を
閉めた。

   🌹🌹🌹🌹🌹

馬車の中... 扉が閉まるとすぐ、わたしはつないだ手を、一旦、未練
たらしく離し、座った位置をスッと右寄りにずらした。
向かい側に座ろうとしたおまえは、常ならぬ その動作に、一瞬〖???〗
という顔をしたが、わたしの目線の動きをキッチリ読み取り、ふっと笑って

左隣に腰をおろしてくれた🎵

おまえと隣合う時、よほどの事情がない限り、わたしは右側に位置を採る。
そうしないと、おまえにはわたしが見えなくなるからだ。
そうすることがどんなにこの胸を刺そうとも、おまえと並んで真摯に共に
歩むためのわたしの決意の証だ。
...正直にいえば、目深に下ろされた髪に遮られることなく、おまえの
顔を見られるというのが、もう一つの本音なのだが。


「朝日がまぶしいな」
 聞こえよがしにつぶやいて、自分側の窓のカーテンを閉める。
〝そちら側のカーテンも閉めてくれるか〟と言おうとしたら、
既に閉め終わったおまえがこちらを向いたところだった💛
東洋の島国でいう、阿吽の呼吸というヤツだ。
おまえが、〝こうしろってコトだろ?〟と言わんばかりに右眉をわずかに

つり上げ、ふふっとふたり同時に共犯者の笑いを洩らした。

おまえの袖を引っ張って、「朝のハグ」と小声で呟いて睫毛を伏せる。
「はいはい、お待ちどうさま。 ...よっこらしょっ…と」
躰がヒョイと浮いたかと思ったら、わたしはおまえの膝の上に居た。
おおっ! こっ、コレは……世に言う、お、お、おっお姫さま抱っこぉ~✨

ああ…アンドレ... 何年か越しのお待ちどうさまだぞ、これは...
すぐ目の前に、おまえの横顔... もちろん髪に隠れていないほう💗

「〝よっこらしょっ〟とはなんだ! わたしはそんなに重くないぞ」
ぶーたれておまえの胸を叩くわたしの頭を引き寄せ、
「愛してる、オスカル。おまえは重いよ…どんな掟よりも、止めようもなく
まわっていく時の歯車よりも」と、まぶたに長い長いキス。

 

長い長い長い…キス... あー、えーーっと…長すぎ…ないか?💦

 

...次第に、まぶたに触れているおまえの唇と、わたしの頭を抱き寄せて

いる手が震え始めた。
昨夜の、歓びと希望に満ちたおまえが掻き消えていく気がする。
なぜ…だ!?
掟…? 時の歯車…?
おまえ、今度は何を思い悩んでいる?
いやだっ! また遠ざかっていったりしないでくれ!
おまえが言っている≪掟≫とはどういうことなのだ!?


「わたしが……どんな…掟よりも……重い…?」

 

「おれにとっては…だけどな。だが、おまえにとって掟が重いのなら…
破戒(はかい)の呵責でおまえを苦しめるくらいなら…、おれは一昨日迄のままに

戻…る。おまえの半身として、軍人ばかのおまえに ただ添い続ける。
今を限りに、おまえに触れることができなくなったとして…も………

それがおれの宿命だったというだけ…だ……」

 

その声は次第に苦渋に掠れていき、最後はかろうじて聞き取れるほどと
なって、わたしの髪の中に埋もれていった。

そんな宿命などわたしは認めない!
おまえは、自分自身を…わたしを生殺しにして、渇望で のたうちまわら

せることができるというのか!?

「わたしが破戒(はかい)の呵責に苦しむ、だと? どこのどんな掟だっ!?」


気色ばんで言い返してから、常に頭の隅を離れぬ想念が改めて浮かび上がった。


━━━ 知らぬ間に人の心を蝕んでいる階級社会の呪縛 ━━━ 

 

は…ん、そういうことか。

ばかやろう。わたしだとて、そんなものよりおまえのほうが重いぞっ!

 

だからといって、それらへのわたしの疑義を、今ここで おまえ相手に滔々と語っ

たとて詮のないことだ。わたしがそれについてどれほど問い 煩悶してきたか、

おまえとて百も承知なのだから。
昨夜、おまえは、気の遠くなるほどの年月 もがき続けてきたであろう その呪縛
から抜け出してくれた……筈だったのに...
ならば、今おまえに告げるべきは、≪わたしが その  もろもろの古きくびき  を

外せるかどうか≫なんぞではなく、≪これからの その先≫ そして ≪わたしたち
がどこへ行こうとしているか≫
だ。

 

やむを得ん。そうとなれば、まずは、おまえが今また陥ってしまった呪縛の(かげ)

から、ショック療法でおまえを引っ張り戻してやる。

 

 

「なるほど……。たいそうな知能犯だな、おまえは。手の込んだ色仕掛け…、
言い換えれば、(イロ)断ちでわたしを干上がらせ 耐えられなくさせることで、

わたしの採ろうとしている道の後押しをしようというわけか」

 

どうだ? こんな たわけたことを言われて、おまえ黙っていられるか? んん?


案の定...
今度はおまえが気色ばんで、わたしの顎に手をかけてクイッと自分に向かせ、
鋭い眼で見据えてきた。

ふっふ、してやったり😋
 

「大事な女を、色仕掛けで矢弾の中に飛び込ませる男がどこにいるっ!!
オスカル、自分でもわかっている筈だ。この軍服を脱ぎ去る日が来たら、
おまえは武官でなく一個人として武器をとることになる。大切な人たちと

たぶん永久に訣別して、注がれてきた愛情にも築いてきた絆にも背を向けて

戦い続けることになる。おまえの抱える苦しさはもっと重たいものになるん

だぞ!」

 

つまらん気煩(きわずら)いからの おまえの引っ張り上げ、大成功💗

そして、ムキになったおまえへの、わたしの返答は言わずもがなだ。

 

「わたしがそれに思い惑わなったとでも?
おまえがいちばんよく知っている筈だ。強い酒にいっときのに逃げ道を求め、
ギリギリ歯を食いしばって、採るべき道を必死に模索してきたことを」

そこでフッと唇をゆるめ、わたしと共に生きてくれる男を──わたしの男を、
軍人ばかにできる精一杯の媚態をこめて上目遣いで見やる。

「ふ…ふ、アンドレ。背負っていかねばならん苦難も、苦痛も呵責も何もかも…

わたしの存在ごと遠慮なくおまえに抱えてもらうからな💖覚悟しておいてくれ」



束の間、おまえの視線がわたしの目と唇を行き来した。
おまえは目元を和ませ、不思議な笑みを湛えて顔を下げ、唇と唇が触れる
スレスレで、背筋をぞくりとさせる低い声音で囁いてきた。

「おまえ…ずいぶん ものわかりがよくなったな。
ああ、おまえの重さを受け止められるのは おれだけだ」

痺れるような深い声音の余韻に身をゆだね、うっとりと目を閉じる。

...と。
「知能犯はおまえのほうだろ? ......メルシ💗愛してるよ」
まぜっかえすようなクスクス笑い。

 

見破られたか、ショック療法😊 さすが我が半身だな。

見破られてもかまわん、≪わたしのおまえ💗≫が戻ってきてくれさえすれば。


そのまま (やっと💕)唇を重ねてくるかと思いきや...
コヤツ、唇の端にチュッと音を立てて軽くキスし、さらに顔を下げながら、
わたしの顎を上向かせ、首筋に唇を寄せてきおった。
やりおったな、このキスけち男!
わたしはすかさず、コヤツの髪を掴んで頭を上げさせ、ねめつけてやった。

 

「そうは問屋がおろさん。唇を素通りしていけるとでも思ったか」

()っつっ! おまえ、なんでそんなヘンなとこだけカンがいいんだよ…もう」


シュンとした仔犬のようなつぶらな目、黒い髪から外したわたしの手を口元に
運び、手首の内側に押しつけてくる唇の熱さときたら... 一気に心を持って
いかれてしまう。

わたしに少々阻まれたからといって、そうあっさり断念するな!
強行突破するくらいの気概を持て、このヘタレっ!!

   🌹🌹🌹🌹🌹

そんなきわどいマネをしようとしたくせに、まだ唇にキスしようとしないとは
おまえはどこまで頑固なのだ...
切ない溜息をついて、おまえの背に腕をまわそうとしたら、
「あ、ちょっと待て」と、この男、隊士服のボタンを空いた片手で外し始めた。

えっ?えっ?ええーっ?
そっ、そんな……。今度は、いきなり そうくるのか!?
いくらカーテンが隙間なく閉まっているからといって、ばっ馬車の中で
何をするつもりだ!?
...イヤとは言わないが、それなら、ちゃんとした唇キスのほうを先に...
あっそれに、クッションもゆうべと違って通常量に減っているのに...
いや、多少、背中がゴツゴツするくらいは、軍人だから我慢できるが、
朝からそんな...

爆走するわたしの思考をよそに、ボタンを3つ外したところで、
おまえは内ポケットから紙片を取り出し、わたしの目の前に差し出した。

は? え? んん?
「これは?」


「あー、最初の恋文」
照れくさそうに視線を泳がせ、こめかみを人差し指でポリポリ掻くおまえに、

心臓がビクンと跳びはねた。
おまえから…わたしに……恋文!

口幅ったいが、恋文なら何千通も受け取ってきた。
だけど…、もらって心臓が跳びはねた恋文なんて初めてだ。
...くれた相手によるのだから、あたりまえと言えばあたりまえだが。

おやっ…、これは、子供の頃、母上がわたしたちふたりに下さった、
ばらの透かし模様入りの便箋...
まだ持っていたのか? 実はわたしもまだ大切に持っているが。

「今、おまえの前で読んでかまわないのか?」

 

わたしに視線を戻したおまえは、頬を紅潮させた少年になっていた。
「うん。読んでる時のおまえの顔を見たい…な」

 

ばっばか💦 そんな顔をされたら わたしまで赤面してしまうではないか💦💦
「お、おっ、おまえ、そのようにぬけぬけと…っ。こっ、この鉄面皮がっ😝」
「…というより、単におまえの顔をずっと見ていたいだけかも」

うあ、普通の女は、こういう時、〝うふふ、いやぁね💕〟とか言って、
シナを作るのだろうな💦
かなしいかな、三十過ぎた軍人ばかには、とてもできない芸当だ...
...でもでも。やってみたら、おまえはどんなふうに反応するだろう?
卒倒するのか、熱でもあるのかと額に手を当ててくるのか、デレデレと
ヤニさがるのか、ぎゅうっと抱きしめてキスしてくれるのか...
わたしとしては最後のパターンが望ましいのだが...
...だが、やはりムリだ。わたしにはできそうにない…と諦めて、
おまえの肩にコテンと頭をあずけた。

「おいおい、何やってる。読んでくれないのか?」
わたしのクセっ毛をひと房持って鼻のアタマをくすぐりながら、
すらりとした鼻をわたしのこめかみにすり寄せてくる。
ああ…そうか。これがおまえとわたしの形なのかもしれない。

   🌹🌹🌹🌹🌹

...折りたたまれた便箋を開く手が小刻みに震えた。
端正で落ち着いたおまえの筆跡。
うわ! おまえの好きなポエムの予感💦
警戒しつつも、なんだかドキドキする。


=== オスカル ──のっぽの天使── ===

オスカル。
おれの半身。
おれの中に愛という名の永劫の光を灯してくれた、ただひとりの(ひと)

強くて、かわいらしくて。
勇敢で、甘えたがりで。
熱くて、いじらしくて。
無鉄砲で、繊細で。
まっすぐで、ほっとけなくて。
石頭で、たおやかで。
皮肉屋で、涙もろくて。
あああ... 聡明で…鈍感で───

=====================

こっこれは……!!
ゆうべ、馬車の中で見た夢の...!
ぼやけて消えてしまっていた夢の光景がぱぁっと甦った。
あたたかさに満ちた幸せな夢。
あの夢でおまえが口ずさんでいたのと同じだ...

「おっおまえ、このクサいデレ甘ポエムを、いっ…いつ書いた!?」

 

「いつ、って……。書いたのはゆうべ部屋に帰ってからだが、
浮かんだのは、あー、親愛のハグをしていた時だ」

...ということは、あの夢より後に作ったポエム?
一体どういうことだ!?

   🌹🌹🌹🌹🌹

...あの夢の中で、

おまえは、わたしの躰に食い込むほどの激しさで腕に力を籠め、苦しいくらいに

抱きしめてくれて…おまえの暖かくて広い胸がわたしの世界のすべてになった。

幾度も幾度も、蕩けてしまいそうなほど熱く甘やかに唇を重ねてきた。
やさしく押し包んだり、くすぐるように擦り合わせたり、軽く歯を立てて甘噛み

してきたり...

ふいに、気の遠くなるほど激しくわたしの唇を覆っておまえの口内にまるごと

含み、狂おしく吸い上げ……舌を…這わせ…内に滑り込ませ...

わたしとて、負けず劣らず熱心にくちづけ返したことは言うまでもないが💕


ふふっ…そして、いくらか妙ちくりんな愛の語らいと昔語りをした💞
「オスカル…愛している 愛している!! あ…あ、不思議なくらいだ」
「おまえが愛してくれるなら、悪魔に心を渡しても悔やまない」
「やめておけ。おれは悪魔に心を渡しかけたことを今も悔やんでいる。
それに……〝心は自由〟なんだろ。誰にも渡せるわけがない」
「心は自由…か。ふふ、その点では わたしは6歳児に先を越されたな」
「6歳児……。うわっ、アイツか」
「おチビの分際で〝わたしね…身分違いの恋でも気にしなくてよ〟とはな」
「聞いてたのか。舞踏会の主役がフロアの端っこでダンスしてるからヘンだ
とは思ってたが」
「監視を怠ると、女どもが秋波を送っていたり寄ってきたりしているからな。
油断ならんのだ。6歳のおチビまで寄ってくるとは予想外だったが」
「ははは。オトナにちょっかい出しておちょくるのが好きなチビっ子を数に
入れるな。オスカル……どんな女がおれを見つめたとしても、おれが見つめ

ているのはおまえだけだ」
「ならば、ずっとわたしだけを見つめていてくれ。ひとりにしないでくれ。
どこへも行かないと…アンドレ……」
「ふ・・・ どこへ?」

大きな掌が、わたしの鼓動が脈打つ場所に そっとあてられる。
「この命の響きと魂が息づく場所のほかに、おれの行くところがあるとでも?
おまえがついて来いというのなら、たとえ火の中でも恐れはしないぞ」 

そして、躰ごとじかに触れあい溶けあって肌のぬくもりを分かち合い...
その時におまえがわたしの耳元で低く口ずさんでいたのがこのポエムだった。

   🌹🌹🌹🌹🌹

...えええっ!?
〝躰ごとじかに触れあい溶けあって肌のぬくもりを分かち合い...〟!?

あまりに刺激的な映像に驚愕して思わず両手で口元を覆ったので、
恋文がひらひらと手からすべりおちた。

「これ…気に入らなかったか?」と、
落ちた恋文におまえが手を伸ばした。

心配そうなおまえの声で、わたしはハッと夢から覚めた。 

予知夢だろうと何だろうとかまいはしない!
わたしたちは互いの半身なのだから、そのくらいの摩訶不思議が
起こってもちっともおかしくはない!

おまえの手からバッと恋文を引ったくって両手で胸元に押し当てる。
「おまえ、贈る相手がアンドレばかのわたしで運がよかったぞ。
普通の女が最後の一語を読んだら、チーンと鼻をかんで、その場で
即、ゴミ箱行きだ」

「そ…うか。そんなに気に喰わなかったのか...
...なら、返してくれてかまわない。
恋文なんて青臭いことも、もうしないか…ら...安心しろ」


おまえは敷いているクッションの縫い目をブチブチいじり始めた。

「ばかもの、涙目になるな!
普通の女だったら受け取らないと言っただけで、わたしは違うぞ!
この恋文は、もう受け取ったのだからわたしのものだ!
書いた本人にだって絶対に渡すものか!
わたしは、おまえが贈ってくれるものなら何だってうれしい!!
恋文はもう書かないなんて、いっ言わないでくれっ」
わたしは必死になって言いつのった。

「えっ? おれが贈るものなら何だってうれしい、って言ったか?
なら、次のはあまり上出来とはいえないんだが、贈ってもいいか?
実は〝アンドレばかに捧ぐ〟って詩が、さっきひらめいたんだ」


コイツ……立ち直り早すぎる。
...そのくらいタフな神経をしていなければ、四半世紀もわたしの
お守りなどして来られなかったろうが。

...と思ったら、んっ? おまえ、口元が笑いを噛み殺している?
もしかすると…涙目のフリ作戦だったのか?
こんちくしょう、また、してやられた!
おまえ、新しいワザを編み出したな!


「このクッション、縫い目が綻び始めてる。取り替えておかなくては…」と、
おまえがブツブツ独り言を言っている間に、わたしは便箋を丁寧に細くたたんで
サッシュに巻き込み、落ちないようにサッシュも幾重かに折り返して結び直した。
すぐに大容量の鍵付き専用箱を用意しよう🎵

「但し、最後の一語だけは、いつか破り取って おまえに突き返してやるからな!」
ふふ…いつか、な。

「どうぞどうぞ。何回でも書いて自覚を促してやるから、別にかまわん」

屈託のない笑顔にチラと軽い殺意を覚えてしまう。

「ほざけ。 ...それと、だ。 あり得んと確信しているが、
万が一、ほかの女にポエムなんぞ贈りおったら、二度と文字が
書けんよう、その長い指をヘシ折ってやるからな!」

くそっ、起こり得ないことまで妄想してジェラシーとは...
心の貧しい女だな、わたしは。

「ははっ、3行目をちゃんと読み返しておけ」

ふっと悪ガキ顔になって、わたしの口マネをして続ける。
それと、だ

 

「ヘタクソなモノマネはやめろ。ちっとも似ていない」
実を言えばかなり似ていたのだが、悪ガキ顔にドギマギして、
つい、そう口走ってしまった💦

くっ、どうしてこうも その悪ガキ顔に弱いのだ、わたしは😖

 

不服げに子供のように口をとがらせてみせるおまえ。
ああ、そんな表情を わたし以外にみせてはならんぞ💗
悪ガキ顔をもっと見ていたかったのに、おまえはするりと大人の男の
顔に戻り、穏やかなまなざしをまっすぐわたしに注いできた。

 

「この体はおまえのものだ、オスカル。

おまえが望むならこの命もくれてやる。指くらい何本でも持っていけ」

あ…あ、アンドレ...
その指はもちろん、腕も、胸も、髪も、まなざしも、ほほえみも、
声も、温もりも、何もかも... おまえのすべてがほしい!
命をくれるというのなら、どんなことが起こってもわたしのために
生き抜いてくれ!

そして…おまえが、こんな扱いにくい女をほしいというのなら、
何もかもすべて、その腕の中に受け止めてくれ…っ!

昨夕の退勤時、わたしは衝動にかられておまえの指に唇を押し当てたが、
今度は、確固たる意図をもって、おまえの頭をグイと引き寄せ、
おまえの唇に自分の唇を押し当てた。

あ…熱っぽくて弾力があって...
...これが、長い長い間、
惹き寄せられる想いを胸の奥に封じ込めてきた唇──
おまえの唇──

それから...
〝すうようにしっとりとわたしの唇を押しつつみ...〟
 少し唇を開いて吸ってみた。
うぅ…ん...? あの時と何か微妙に違うような気がする...
なぜだろう...?

わたしに唇をふさがれて呆然としていたおまえが、
やっとモゴモゴ言い出した。

「おふはふ! はんほふだほ!」 
   (おそらく〝オスカル!反則だぞ!〟)
チャンスだ! おまえが口を開けた!
 

〝しのびこみ...〟
おまえの唇の内側に舌で触れ、おそるおそる なぞってみた。
...やわらかくてしっとりしている。
ああそうか…さっき なぜ何だか違う気がしたのか、わかっ…た。
殊更に吸ったりしなくとも、あの時おまえはこのやわらかい内側で
わたしの唇を押しつつんでくれたから……吸うようにしっとりと…
やさしい安らぎをわたしにあたえてくれたのだ...

あ…あ、これがわたしの知っているくちづけ...
ずっとずっとほしかったもの...💗

まちがいない!✨
...おまえが意固地なキスけち男になったりするから、
待ちきれなくてわたしが実行してしまったではないか。

ちなみに、〝反則〟だと言った割には、
おまえも、いっこうに唇を離そうとしていないぞ💕


懐かしくも胸ときめくくちづけに酔いしれていると、
わたしの舌の裏側に何かかが触れた。
あ... うわ、おまえの…舌!? ど、ど、ど、どうしよう!?


「おふはふ……おふはふ…」
おまえの舌がこらえきれないように動き出し、
わたしの舌はキュッと絡み取られ、強く吸い込まれた。

ズキっと甘い痛みにも似た衝撃が胸から全身に走る。
「……んどへ…っ」
離れそうになったおまえの舌を夢中で追いかけ、逃がさないように
自分からぎゅぅ~っと絡み合わせた💕




アンドレ、わたしのアンドレ…この唇の動きが読めるか?


━━━ は・ひ・ひ・へ・ひ・ふ ━━━

おまえが、わたしの唇の動きを反芻し、一音一音復唱しているのが
ぴったりと押しつつんだ唇からじかに伝わってくる。

数秒後...
「おふはふ!」
はっきり発音できないことに焦れたおまえは、わたしの両肩を掴んで
唇を引き剥がし、検証するように、わたしの顔をじっと見つめてきた。
いくらでも検証するがいい。おまえに見えている通りだ。
わたしのベタぼれ具合をしかと確かめろ。

わたしの睫毛に溜まった涙をふぅっと息で吹き払い、
散った涙を指でぬぐいながら、おまえはほほえんだ。
子供の頃から大好きだった、やわらかなほほえみ。
「反則女だってかまわない。おまえを愛している。愛してるよ」

「そんなこと知っている!あとでゆっくり言わせてやるし、
わたしもしっかり言ってやるから、今はコレに集中しろ!!
もたもたしていると兵舎に着いてしまう!」

それを聞いたおまえは見事な集中力を見せた。
「オスカル! おれのオ…」
最期まで言い切れずに、飢え(かつ)えた者のようにわたしの唇に噛りつき…
わたしの頭に片腕をまわしてきつく抱え込んで閉じ込め…わたしの唇を

割って深く攻め入ったかと思うや、わたしの内を隅々まで容赦なく甘く

掻き回し…味わう。 さらには、わたしの舌をおまえの内に誘い込み…

奪い合うように絡め、表へ裏へと互いに這わせ合い…息もつけないほど

熱く激しい波状攻撃をしかけ合う。
ああ…ふたつの心臓が早鐘のひとつ鼓動を打っている。

おまえにくちづけの主導権を奪われ、砕けんばかりに抱きすくめられて、
も…う 体のどこにも…力が……入らな…い...


   🌹🌹🌹🌹🌹


愛している……愛している、アンドレ…

鈍感なわたしも漸く悟った。
これは、紛うことなく恋。
これが、わたしの奥深くに眠っていた女が求めていたもの。
長い歳月をかけて互いに育みあってきた、深くゆるぎない愛。


意識が白んで弾け飛ぶ前の最後の力を振り絞って、
わたしは心の中でおまえに告げた。
わたしの半身のおまえなら、きっと聞き取ってくれたよな...

🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹
熱く燃えるばらが 我とわが身を焼き尽くしてしまわぬよう
おまえの大きな掌で包んでずっと見守っていてくれ。
我が最愛の半身にして、『オスカルばか』認定証付きの、
わたしの、わたしだけのアンドレ・グランディエ───
🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹





≪完結しました💖≫