読売新聞で連載されていた「新・精神医療ルネッサンス」。
筆者の佐藤 光展記者の著書、「なぜ日本の精神医療は暴走するのか」から。
一郎さんは「自閉症」と「知的障害」を併せ持つ「重複障害者」と診断されたものの、両親の愛と周囲の理解で順調な子供時代を過ごします。
青年になった一郎さんは時折手に余るような落ち着きのなさを見せるようになり(子供時代から飲み始めた精神薬の影響かもしれません。)、ご両親は母親の具合が悪くなったことでやむなく一時的に施設に入所させることを決断。
そこで「睡眠を安定させるために精神病院に入院して薬剤を調整してください」と言われます。
ご両親は一郎さんを「隔離しない」と約束してもらい、A病院に入院させます。
「隔離はしませんよ。」
病院側は言いましたが、精神病院がそんな約束を守るわけがありません。
一郎さんは初日から隔離され、精神薬の大量投与を受けたのでした。
こちらが精神病院に入院する前の一郎さん、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58808
こちらが 入院3か月後の一郎さんです。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58808?page=3
今までの一郎さんの面影はなく、老人のように老け込み、やせ細り、背中は薬の影響で曲がってしまっています。
背中の湾曲について病院側は
「痩せたのは糖尿病のカロリー制限のためです。痩せて胸の前の脂肪がなくなり、支えがなくなったので、もともと短い首が前に傾いたのです」
と答えました。
そんなバカな話があるわけがありません。
これはどう見ても精神薬の副作用の錐体外路症状です。
精神病院というのは自分たちの都合が悪くなるとなんだって言うところなんですよね。
「信じた私がバカだった。」
お母さんはそう仰っています。
これは精神医療ユーザーの中で、多くの人が経験することでしょう。
4か月にわたって隔離と多剤大量投与を受けた一郎さんは、退院したその月に、亡くなっています。
死因は急性心筋梗塞だったそうですが、もちろんその原因は精神薬の投薬、精神病院での「治療」であったことに間違いありません。
ご両親は病院を相手に裁判を起こし、今でもそれは続いています。
しかし裁判で勝つのは難しいでしょう。
多分医師は一郎さんが薬にあまり強くないタイプだということを考慮せず、どんどん薬を足していったと思われますが、世の中にはもっとたくさんの量の薬を投与されている人がいますので、その医者が決めた薬の種類や量が「間違っている」と判断されることはないからです。
精神病院の惨い治療でまた一人の人が亡くなりました。
串山一郎さん、38歳。
お気に入りのバッグを取り上げられ、弱った体で 「家に帰してください。」 と言った一郎さん。
問題行動のある人間を薬で弱らせて大人しくさせる。
これが精神医療の本質です。
一郎さんは子供のころに「てんかん」の診断を受け、抗てんかん薬を飲み始めています。
そして徐々に、少量ではありますが、種々の向精神病薬が増えていきます。
一郎さんがたまにイライラしたり落ち着かなくなったりするようになったのは、そんな薬の影響もあるのではないでしょうか。
精神薬は長い期間飲むと、副作用が大きくなってくることがよくあります。
一郎さんはまた一つ、精神病院での「治療」というものがどういうものなのかということを、私たちに教えてくれました。
一郎さんは死という形で精神薬から解放されましたが、
このような人間を死に追い込む、治療という形の殺人が、
早くなくなるように切に願います。