ふんわりシフォン -19ページ目

ガンバレ

「今日は塾長からお話があります」


授業終りに長身のセンセイがそう言ってドアに視線を向けると、タイミングを計っていたかのようにドアが開いて小柄で丸っこい塾長が入ってきた。

年は40代後半、額がだんだん広くなっていく奇病に侵されている。お世辞にもカッコイイのカケラもない。

せかせか歩いて教壇に立つと、お疲れさまとねぎらってから本題に入った。



アタシの通う塾は、市内では下の方に位置付けられている。

市街地と郊外型の商業施設を取り巻く新興住宅地は、学力レベルが高くそれに伴って塾のレベルもハイレベルになる。

それに対して、ここは郊外。ぶっちゃけ田舎だから、学力レベルもぐっと低空飛行になる。もちろん中にはスッゴく頭のいー子だっていて実力テスト市内一番の成績はウチの学校の子だったりする。



「テレビでセンター試験の報道を見たかと思いますが、皆も私立高校の受験を22日に控えているので塾長はプレゼントを持ってきました」


どん、と教壇に紙袋が置かれる。まわりがざわめいて中味を覗こうと、伸び上がる子までいる。



「塾長ね、これちゃんと学問の神様である文珠様で拝んでもらったから。こっちから回すから、二個っつ取ってね」

ふたつ?

合格!とかって鉢巻きじゃなく?
文珠様で売ってる鉛筆じゃなく?
お守りだってふたついらない……



塾っていったら、そーゆーものをくれるものだと思っていた。

袋が回ると男女共に、キャーキャー嬉しそうな声があがる。

やっと番がきて袋を覗くと、お得用パックの真っ赤なキットカットがたくさん入っていた。



「これは試験会場で机の上に置いておいてください。きっとご利益がありますからね」

まわりから一斉にブーイングが起こる。試験会場の机にお菓子を置いておける訳なんてない。

慌てて塾長が言い足す。

「じゃあお腹に入れていって下さい。試験前に食べるといいよ。ちゃんと拝んでもらったからね、力になってくれるよ」



アタシはキットカットをふたつ取って、後ろの人に紙袋を渡した。

何気なく取ったキットカットには、メモを書き込める欄があって『ガンバレ!』と『合格!』と書いてあった。

バカみたい、こんな一生懸命で。字だって、こんな断末魔のミミズみたいなのに。

でも、じっと見ていると
ほんのり手のひらが温かくなって、その温かさが胸にまで染み込んでくるようだった。



「わからない問題があったら、塾長の笑顔を思い出して頑張って下さい」

また一斉にブーイングが起きる。


「キモっ」

「ハゲ」

皆から何を言われても、塾長は笑っている。もしかして笑いを取りにきてた、とか。



もう一度、手のひらのキットカットを見た。

『ガンバレ!』

その言葉は、上から目線ではなくて力強い励ましの言葉だった。

初めて、自分の力で自分の生き方を考えて学校を選んだ結果が、もうすぐ出る。
自分の人生は自分でガンバラないと切り開けない。




ガンバレ!




頑張るのはアタシだけど、アタシはきっと多くの人に支えられてる。

想う

僕のなかに

君がいるって

あたりまえになってて

普通になってた



君は僕の一部分

だから

離れていても

君を想う

痛み

ガラスの破片が刺さると痛いのは異物だから

言葉のかけらが刺さって痛いのは受け入れられないから



君のなかには ないものだから


君が持っていても 認めたくはないものだから


だから 痛みがあるんです



痛みは君の心を守ろうとするシグナル

痛くて痛くて

たまらないなら休んでいいよ



休んで

また向き合えたなら

ほんのすこし

心が強くなる

ほんのすこしだけ

深く広くなる