面白き こともなき世を おもしろく -4ページ目


夜を歩く。

高速道路を見上げながら環状線を歩き、住宅街へと曲がる。

風景の明るさが変わる。

夜歩くからこそ気づくことがある。

それは月や星や風や静寂に関することではなく、自動販売機の明るさだ。

夜の自動販売機は明るい。

夜歩くコースはそんなに沢山あるわけではない。

夜は道に迷うのを嫌い、知っている道を選びがちになるからだ。

それに伴って、飲み物を買う自動販売機もだんだんと決まってくる。






その自動販売機には『みかんゼリージュース』という飲み物があった。

俺は一時期それを気に入り、その道を通る度に買っていた。

缶の中にはゼリーが入っている。

表面には『5回ふって』と書いてある。

なので指示に従って5回振る。

するとゼリーが細かく砕けて飲みやすくなる。

そんな代物だった。

ところが何度も買ううちに5回では振りが足りないことに気づいた。

そこで俺は毎回振る回数を変え、丁度良い回数を探し始めた。

いつからか俺はみかんゼリージュースを買うためにその道を通るようになっていた。






そうしているうちにジュースが出てこなくなった。

『売り切れ』の赤いランプがついた。

次に行くとジュースは補充されたらしくランプは消えていた。

買う、売り切れる、補充、また買う、売り切れる、補充。

そのサイクルが何度か続いたある日、みかんゼリージュースが3缶並んでいた。

いつもみかんゼリージュースの両脇には乳飲料とスポーツドリンクがあったのだが、その3つが全てみかんゼリージュースに置き換わっていた。

つまり増えたのだ。

俺はすぐに売り手の思いを察した。






何故かはわからないがみかんゼリージュースが売れる。

他のものより明らかに売れる。

ほぼ毎日減っている。

もしかしたら流行っているのかもしれない。

いや、流行っているんだろう。

なぜならこれほど売れるのだから。

需要に追いついていない状態だ。

これは儲けるチャンスではないだろうか。

だとすると供給量を増やさなければ。

よし、みかんゼリージュースをもう2列足して3列にしよう。

買ってる人、みんな驚くに違いない。

そして喜ぶに違いない!






俺は突然見知らぬ人に距離を詰められた気がした。

会ったことのない人に「みかんゼリージュース増やしておきましたよ。どうです?よかったでしょ?」と言われている気がした。

「ほらほら!思う存分買いなはれ!」と変な語尾で歩み寄って来られた気がした。

すると自然と売り手の思い通りにはならないぞという天の邪鬼な考えが生まれた。

俺はみかんゼリージュースを買わなくなった。






季節は変わった。

自動販売機は変わることなく明るかった。

『あなたの好きなジュースありますよ。ほら、ここに!』という感じで。

あれからみかんゼリージュースは買っていないのに、まだ3列健在だった。

自動販売機が輝きすぎて虫が沢山集まっていた。

新聞配達のバイクとすれ違った。

乱暴な運転をしているゴミ収集車に気をつけながら、俺は別の自動販売機を目指した。




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