「死ぬことは、簡単だ。
だが、永遠の命を持つことの方が難しいのだ。
それを試してみたいと思わないかね」
まさに、悪魔のささやきだった。
「どうすればいいんです?」
「肉体は、どうしても滅びてしまう。
だが、人々の記憶はどこかで残っているものだ」
「具体的には、どうすればいい?」
「世界中を旅して、すべての人と触れあうか…」
「あるいは?」
「いろんな役をして、記憶に残るかだな。
そのためには、舞台だけではなく、テレビやラジオなど、様々な媒体に露出しないといけない!」
「俺は、やりますよ!」
それから、数十年か経ち男は、死神に再び出会った。
「みんな俺のこと、いつまでも覚えてくれますかね」
「おまえの名前は忘れ去られても、おまえが演じた役に似た人物を見かければすぐ思い出すはずさ」
「よかった、これで俺も未練を残さないであの世に行ける」
「私が来たということは、未来永劫みんなに記憶させる事が、無事成功したと言うことだ」
「昔話の主人公のように、語り継がれていくんですね」
「人間が滅びなければ、だがな」
二人はまるで、友だちのように大笑いをした。
男は、文字通り一生懸命だった。
今や永遠の命など関係なかったのだ。(終わり)