5月15日夜ブログの続き…
二人は、つかみかかったまま、外に飛び出して行く。そして、例の菜園の中へ。
ごろごろと転がり、どろんこになりながら、けんかを続けています。
しばらくして、やっと雨が止みました。
そのころには、日が暮れかかっていました。そこへ、主人が黒いレインコートのまま、菜園の前を通り過ぎて行きます。でも、菜園の出来事に気がついていないのでしょうか。
実際、彼は、気が付いていました。
ところが、彼の頭の中で、いじわるな風邪が足踏みをしていたのです。急いで家に帰りたかったのです。そのため、無視せざるをえなかったのです。
翌朝、主人は、病の体を押して、菜園の方に歩いていきました。
いつもは、朝から、人の姿など見ないのですが、その日は違っていました。
「ご主人、面白い光景がごらんになれますよ。見ていきませんか」
そこでは、もう一人のニセ主人が現れ、手のひらを差しだしました。見物代をせびっているのです。
風邪の主人は、頭がぼんやりしていたので、訳も分からず、ポケットの小銭をその男に渡しました。そして、人だかりの中に入っていったのです。
「おお」
主人は、驚嘆しました。
あの二人が、まだそこにいるではありませんか。そのうえ、彼らは、泥で体が硬直して、取っ組みあったままなのです。まるで、彫刻作品のようです。
誰かが口元に手を当ててみましたが、息は、ないようでした。
「二人は、田と絵を残してくれました」
群集の一人がそういいました。
こうして、『たとえ』という言葉が生まれたとか。
(この話も、もちろん、たとえ話の一つなのです)
(おわり)
【解説】
この作品、2008年に私の唯一商業出版された『あめ玉』(日本文学館)に掲載したものなんですが、漢字の誤字を発見してしまいました…(汗)。
なおしたついでに読みやすいように行間も開けました。
実は、この作品は、月刊誌「詩とメルヘン」(サンリオ刊)1990年4月号において、三枚劇場の最終候補に入った作品でした。(作品名・作者名のみ記載)
兼業農家の息子の父がモデル?