「あの居酒屋にもう一度行ってみようかしら 」かず子は少し遠くのあの居酒屋に行ってみたくなった。その店にはもう、五年以上も訪れていないのだ。しかも一度きりだ。
その時はお母様と一緒に行ったのだ。勇気を出して家を出てみた。
里芋畑の横の道を歩く。かず子は歩きながら、「ひょっとしたら、あの店はもう無くなってしまったかもしれない。」と考えた。道路を拡張しているって噂も聞いたし。
左に曲がり、その居酒屋が見えてきた。店はまだあった。しかし、行ってみたら臨時休業の貼り紙がしてあった。かず子は残念でならなかった。
しょうがないので、気持ちを入れ換えた。別の居酒屋を探したのだ。思い当たる店があったので、行ってみたら何やら怖そうな土木業者のいかつい輩達がいるのが外から見てわかった。行ったら酷い目に合うのがわかっていた。ぞっとした。かず子は、まるで悪い夢を見ているようだった。
そうしたら、通りの向かいに一軒のコジンマリとした外観の居酒屋があった。Fという店。ここで飲む事にした。やっと、かず子は安息の地を見つけたのだ。
全て美味しかった。居心地も良かった。
かず子はまたこの店を再び訪れてもいいかなと思った。
大きな公園の横の道を通って帰った。
かず子はお母様の事を思い出した。
つづく