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#1 世界が凍った日

その日は、あまりにも突然にやってきた。

 

 

事の始まりは、半年前の8月。 その年一番の暑さを記録した日の翌日であった。 

 

 

いつもと変わらぬ通勤電車に辟易しながらオフィスに辿り着くと、ここでも相変わらず効きすぎる空調にうんざりしたことをよく覚えている。またも最高気温を塗り替えることが予感された。そんな、いつもと変わらぬ夏の一日。

 

 

事態に気付いたのは、ランチを取りに、会社を出ようとした出た時であった。エントランスに立ち止まるざわついた塊の先には、一面に凍りついた世界があった。 

 

 

あれから半年。

 

 

人々につけられた傷口は、そのまま凍りつけられ、空虚な時間だけが過ぎ去った。あの日、10時を過ぎたほんの30分という時間の間に、外出をしていた誰もが、自分に何が起こったのか気づかぬままその活動を一瞬のうちに停止させられてしまった。

 

  

今、私の目の前には、氷に着けられた妻の姿がある。しかしながら、その1枚の、いかなる処方をもってしても解凍されない氷膜の先には、確かな生命を感じる。

 

 

専門家の話によると、人体のまだ解明されていないメカニズムにより、一種の冬眠状態に入り、命を繋いでいるらしい。

 

 

彼の学説がどうであれ、私には、目の前の彼女がまだ生命を維持するべく戦っている事は分かっていたのだ。

 

 

それと同時に、もう一つのことも。彼女は永遠の命と若さを手に入れたということを。

 

  

そして・・・・・・

 

 

私の目の前には、まだ彼女が60年前の姿のまま佇んでいる。 

 

 

60年の月日は、あの事件を解決させるに十分な時間だった。解凍液もとうに開発され、彼女を除く被災者はすべて生還を果たした。

 

 

ただ一人私だけは、彼女が目覚める事を、そして、私を拒む事をひどく恐れた。

 

 

 

あくまでも抵抗を続ける私に対し、ついに法的処置が下されることになったのも当然の成り行きで、彼女は明日蘇ることが決定した。

 

 

そんな決定通知を受けながらも、私はとても落ち着いていた。

 

 

もはや彼女の一部となった氷膜に最後の口づけをし、私は、用意しておいた灯油をおもむろに取り出した。