処理水　その３　トリチウムの存在量

こんな表があります。

順番に検証してみます。

（１）「日本全国の原発からの排出量合計」＝約３８０兆ベクレル／年

第１回でこんな資料を紹介しました。
＜日本のＢＷＲ型の平均値＞
排出量：　３１６億～１．９兆Ｂｑ（液体）
（２００８～２０１０の平均）
＜日本のＰＷＲ型の平均値＞
排出量：　約１８～８３兆Ｂｑ（液体）
（２００８～２０１０の平均）

平均値に大きな幅があるのは稼働率が関わっていると判断して、１基あたりＢＷＲ型では１兆ベクレル、ＰＷＲ型では４０兆ベクレルの放出量と考えます。
ＢＷＲ型とＰＷＲ型が半々だとして、５０基の内４０基が稼働していたとすると、
　１ｘ２０＋４０ｘ２０＝８２０
稼働状況がわかりませんが、大雑把な計算ですから間をとって日本の年間放出量は５００兆ベクレルくらいかなと考えてみても、上記の３８０兆ベクレルは少ないように思えます。

（２）「タンクに貯蔵されている量」＝約１０００兆ベクレル

「日本全国の原発からの排出量合計」＝３８０兆ベクレルの３倍弱のトリチウムがタンクに収容されていると言うのです。
フクシマはＢＷＲ型ｘ３だと言うのに、ハハハ・・。

（３）核実験由来＝（１．８～２．４）ｘ１０＾２０Ｂｑ

水素爆弾は重水素と３重水素が核融合してヘリウムと中性子が作られます。
水素爆弾の実験で地上に撒かれるトリチウム（３重水素）があるとすれば、融合し損なったトリチウムなのでしょうか？
どれだけの燃え残りが生じるものなのか？
液体のトリチウムは高温下ですぐに気体になりますが、そのままでは「ヘリウムより僅かに軽い気体」ですから空に昇って行ってしまいます。
高温化でトリチウムが酸素と結び付くにしても、核の坩堝の中に十分な酸素があるのでしょうか？
超高温の中で燃え残りが生じた時の話です。
核融合でＨＴＯが作られる事は殆どないと思います。

原爆実験ではどうか？
ウランやプルトニウムの核分裂では何回かに１回、三体核分裂が起きます。
このうちの一体がトリチウムです。
作られたトリチウムは熱球と共に空高く昇り、軽い物質ですから地表に降りて来る事はありません。
「核実験由来」のトリチウムはあったとしても空の彼方です。

広島原爆で核分裂を起こしたウラン２３５原子の量は１．６３２ｘ１０＾２４個。
５回に１回は三体核分裂だとして作られるトリチウムの量は、
　１．６３２ｘ１０＾２４÷５＝３．２６ｘ１０＾２３個
これが一塊になっていたとしたら崩壊量は崩壊定数が１．８ｘ１０＾７ですから、
　３．２６ｘ１０＾２３ｘ１．８ｘ１０＾－７＝５．８７ｘ１０＾１６Ｂｑ

核実験由来２ｘ１０＾２０ベクレルと言うと、
　２ｘ１０＾２０÷５．８７ｘ１０＾１６＝３．４１ｘ１０＾３
広島原爆３４１０発分に相当します。

１９６３年にまとめて核実験が行われたとして、２０２０年にこの資料が作られたとしたならば、５７年が経っています。
トリチウムの半減期は１２．２年ですから、当時作られた量は現状の１６倍以上になります。
　３４１０ｘ１６＝５４５６０

水爆は起爆に２個の原爆を使用するとは言っても原爆５４５６０発の核実験が行われたとは考えられません。
行われたとしても気体のトリチウムは空の彼方です。
核実験由来のトリチウムがこれ程大量に存在することは考えられませんし、大半は空の彼方に昇ってしまっています。

（２）も（３）もとんでもない出鱈目です。

（４）日本全国の降水中の存在量＝約２２３兆ベクレル／年

日本の１㎡当たりの降水量は１７１８ｍｍ／年、日本の面積は３７８０００ｋ㎡。
年間の降水量は、
　１．７１８ｘ３．７８ｘ１０＾５ｘ１０＾６＝６．４９４ｘ１０＾１１㎥
地表の水には１リットルあたり１ベクレルのトリチウムが崩壊しています。
　６．４９４ｘ１０＾１１ｘ１０＾３＝６４９ｘ１０＾１２ベクレル
６４９兆ベクレルの崩壊量になります。
これまでの出鱈目に比べればまだマシですが、どのように計算すると約２２３兆ベクレルと言う結果になるのでしょうか？
降雨の中のトリチウムは海水より僅かに少ないのだそうですが、少なすぎると思います。

（５）宇宙線等による生成＝約７京ベクレル／年
（６）宇宙線等に由来する存在量＝１～１．３ｘ１０＾１８ベクレル

１２．２年間の間に７京ベクレルのトリチウムが降下していると半減期の１２．２年間の降下量は、
　１２．２ｘ７＝８５．４京ベクレル
最初の頃に降下したトリチウムは半分近い崩壊量になっていますから、８５．４京ベクレルのトリチウムは５９．２京ベクレルにまで減っています。
１２．２年間に５９．２京ベクレル分補充されて、１リットルあたり１ベクレルの崩壊が長い間維持されて、増えも減りもしていないということは、地上のトリチウムの存在量はこの２倍だと考えられます。
１１８．４京ベクレル＝１．１８４ｘ１０＾１８ベクレル
出鱈目だらけの表ですが（４）と（５）の辻褄はあっています。
但し（４）が正しいとの前提です。

「約７京ベクレル／年」は正しいのか？
我々が普段付き合っている水にはトリチウムが１リットルあたり１ベクレルの崩壊しているのですから１１８．４京ベクレルでは１１８．４京リットルのトリチウム含有水が存在している。
地球上に存在している水の量は１４億ｋ㎥です。
１４億ｋ㎥＝１．４ｘ１０＾９ｘ１０＾９ｘ１０＾３＝１．４ｘ１０＾２１
＝１．４ｘ１０＾５京リットル
　１１８．４ｘ１０＾１６÷１４００００ｘ１０＾１６＝０．０００８４６
地上の水の０．０８４６％がトリチウム含有水と言う事になります。

上空でトリチウムと酸素が結びついてＨＴＯが地上に降ってきます。
ほぼ均一に海の水に溶けて、海流や潮の満ち干でかき混ぜられます。
マリアナ海溝の底にある水にまでトリチウムが溶ける事は考えられません。
海面下１００ｍ以下には殆ど届かないのではないでしょうか？

地球の海洋面積＝３．６ｘ１０＾８ｋ㎡＝３．６ｘ１０＾１４㎡
１０ｍの深さであれば３６ｘ１０＾１４㎥＝３６ｘ１０＾１７Ｌ
３６０京Ｂｑです。
１１８．４京ベクレルでは３ｍ程にしかなりません。
こんな浅い部分にだけトリチウム含有水が分布しているとは考えられません。
「約７京ベクレル／年」の１０～５０倍のトリチウムが降下しているのではないでしょうか？

上に掲げた表は（１）～（５）の考察からして、全てが出鱈目と言えるでしょう。
「トリチウム水タスクホース参考資料」なのだそうですが、「タスクホース」と言うと選抜チームのような組織なのでしょうが、メンバーにはトリチウムに関する基礎的な知識が欠けているようです。
核実験由来の甚だしい誇張からして、「そういう人たち」が集まったチームのようです。

一言）
更新は一日置きの予定です。

処理水 その３ トリチウムの存在量

処理水　その３　トリチウムの存在量