転職エージェントという仕事も大変だ。
転職志望者が企業から内定を勝ち取り、それを受諾するまで、基本的に売り上げが得られない。
エージェントは、たしかにこちらの気持ちをくみして協力してくれるし、たくさんの求人案件を紹介してくれる。
それは、応募者の気持ちを考え、その人の今後の人生を豊かにする手助けがしたいという真摯な気持ちからくる部分も多少はあるだろう。
しかし、エージェントも人間であり、エージェント企業に雇われている従業員である。自らの売り上げを増やし、成績を高め、自分の給料を上げたいという気持ちは少なからずあるだろう。
だから、こちらが応募を渋っていると、「この会社は将来性があります」、「幅広い仕事ができます」、「中途採用でも新卒と分け隔てることなく評価し、実績に応じた給与が支払われます」など、言葉巧みに応募を推奨してくる。
転職活動は、自分の将来を真剣に見つめることができるという意味において、意義深い。漠然と「この会社のこの求人案件は面白そうだ」と思っていても、いざ応募すべく書類を作成し、面接の準備をし、想定される問いに対する答えを考えるというプロセスを経るに連れ、「果たして本当にこの仕事は自分がしたい仕事なのか」、「本当にこの会社は自分に合う会社なのか」、といった疑問から、「そもそも自分は会社に向いているのか」、といった本質的な疑問まで色々と生まれ、それに対して、限られた時間内ではあるが自分なりの答えを見つけようとする。
そのような行為は、転職活動というプロセスを経ないと、なかなか真剣には行わないものだろう。
我々のような士業の人間は、いわゆるスペシャリストとして事務所に勤務している者が多い。だから、そのような人間が企業への転職を考える場合には、一般的な「企業」に勤務している人間ではおよそ考える必要もないであろう問題点、「そもそも自分は会社に向いているのか」という問いに対しても向き合う必要がある。
私は、別に初めからこの仕事を志したわけではない。多くの人と同じように、新卒で企業に就職したが、未熟な私にはどうしてもその企業が肌になじめず、2年もたたないうちに退職してしまった。当時は、退職するということが後の人生にそれほど大きな影響を及ぼすなどとはあまり考えてもいなかった。こんな会社のために自分の人生を犠牲にすることはできない。その思いだけで、あまり後先考えずに退職をした。
その後、紆余曲折あり、士業の世界に飛び込んだ。
企業と士業の大きな違いは、求められる仕事内容である。企業では、問題点に気付き、それを解決するような提案を考えても、それだけでは何の評価もされない。そのような提案内容に対し、多くの人間の賛同を得るべく、「根回し」が不可欠である。ただ一人で突っ走っていても、場を乱す分子としか見なされず、やがて企業の中での問題人間と扱われ、干されていく。
それは、企業の仕事は、一人ではできず、企業内の多くの人間の協力があって初めて成り立つものであるからだ。
士業の仕事は違う。たしかに、複数の人間で仕事を行うこともあるが、あくまで、専門家としての人間が、クライアントに対していかにサービスを提供するかにつきる。なにか問題点があっても、それを解決するような提案内容は、クライアントに直接提案すれば良い。
もっとも、事務所内での問題に対する提案については、事務所に投げかける必要はある。しかし、企業と違って、事務所の多くは一人の意見が一時に全員に届く程度の規模の組織である。また、それぞれが専門家であり、全く畑の異なる人間が所属していることは少ない。つまり、同じような問題点を感じながら業務を行っている場合が少なからずあり、根回しなど行わずとも、意見を一致させることができる場合があるのだ。
更にいえば、もともと論議をすることに抵抗のある人間が少なく、自分の意見をぶつけやすい環境だともいえる。
私の場合、もともとは企業に転職することを希望して、今の転職活動をスタートさせた。しかし、今はどうだろう。まだ結論は出ていないが、やはり自分は企業という水には合わない人間なのではないか、自分らしく働くにはこの士業という世界で専門性を高める方が合っているのではないか、という気持ちが固まりつつある。
転職エージェントの方には申し訳ないが、私の場合は、エージェントから紹介された企業には行かず、自分で見つけた別の事務所に転職することになりそうだ。