誕生日に書いた短編その2
第3章
はやる気持ちを抑えながらハレオは病院に向かってクルマを運転していた。「いよいよ親父かぁ」運転しながら思わずつぶやく。
親父のユキオやオフクロのヤエにしてみれば、初孫になる。さぞ楽しみにしてる事だろう。
気の早い親父のユキオは、男の子が産まれると思い込み「坊の勉強机は俺が買ってあげなきゃな」「産まれたら坊とキャッチボールをする」と新しいグローブを新調してきたり気の早い行動を連発していた。
母のヤエは、働きに出てるハレオ。出稼ぎで家を空ける事の多い夫のユキオ。子供が産まれたら働きに出たいと言い出したアツコら三人に対して、奴らの居ない間は全て孫の面倒は私が見る事になる。と予想していた事が的中していく事に「ふっふっ、この私の脚本通りになってきたわ‥。脚本・小松ヤエ。主演・初孫‥。ふふ変な事を口走ってしまったわ。落ち着くのよヤエ。初孫が私に懐くのは時間の問題だわ!」とハレオはヤエが独り言を言ってるのを聞いたとか聞かなかったとか。
両親が初孫を喜んでると思うと、運転してるハレオは唐突に涙がこぼれそうになってきた。
ハレオは涙もろく、テレビを観ていると先の展開を思い描くだけで涙がこぼれてしまい、泣かせるシーンの前から鼻がぐずぐずになってしまいアツコに「一緒に観てると私が泣けないわ」と言われるぐらい涙もろかった。
助手席のテッシュケースに手を伸ばす。ハレオには似合わないレースのテッシュケースは手芸好きのアツコが付き合ってる時に手作りしたもので、親友?悪友?のタカシやヒサオに茶化されたものだがハレオは自分の事を想ってアツコが作ってくものなので気に入っていた。
手芸好きはオフクロのヤエも一緒で、よだれかけや、産まれたら私が作った座布団に寝かせるんだと、沢山の綿の詰まった座布団を作っていた。
繕いながら産まれてくる子供の名は「女の子ならアン、男の子ならエース」と言ったとか言わなかったとか。
座布団はいよいよ完成したのかな?鼻水をすすりながならハレオは考えた。
第4章
病院に到着すると、陣痛が治まったアツコが病室のベットに横になって雑誌を観ていた。
アツコは「まだだよ!次の陣痛が来たら分娩室に行くから、それまでここに居てってことで横になってるんだ」アツコは特に緊張している様子も無く、ハレオは安心したのだった。
そうこうしてると、アツコの兄シゲオが母のテツを連れて現れた。
アツコは家族が来てくれた事で、よりリラックスしたようで母のテツと話し始めたので、自然な形でシゲオとハレオは病室を出て待合室に向かった。
アツコは、大農家の末っ子の一人娘だ。現在は父から農家を継いだ兄シゲオが先頭に立って仕事を進めている。
そんなシゲオが仕事を投げ出して来てくれた事に、アツコは大切にされてるなぁと改めてハレオは感じた。
「いよいよだな」待合室の椅子に座るとタバコに火をつけながらシゲオが言った。
一瞬タバコを勧めようとしたシゲオが少し考えて「やめたんだったな」と小さい声で言いながらタバコをポケットにしまった。
「俺たちは、居ても何も出来ねぇけどな」とシゲオが言って二人で小さく笑い合った。もう少ししたらシゲオの奥さんのミワコさんも来るということだ。次第にお互いの口数も少なくなっていく。待合室のテレビを二人で見ていた。
皆アツコの出産を心配してるし、そして楽しみにしてる。親父やオフクロも。今頃家でやきもきしてるんだろうなと思いハレオは笑みをこぼした。
そうこうしてると、病室のあたりが騒がしくなって来た。テツが「ハレオさん」と呼ぶ声に、かぶせ気味に返事をしながら病室に向かうハレオ。
アツコは、先ほどとは様子が変わって少し苦しそうにしている。
アツコの手を握るハレオ。
苦しそうだが、頑張って笑顔をつくりハレオに笑いかけるアツコ。
「元気な赤ちゃん、産んでくるから安心して」とアツコはハレオの手を強く握りかえす。
「うん」としか言い返せないハレオ。
手を離したアツコは分娩室に運ばれていく。
ハレオは心の中で「頑張れよ」と祈った。
もうすぐ産まれる俺。
34年前の6月8日、私はこんな風に産まれたかもしれない。
はやる気持ちを抑えながらハレオは病院に向かってクルマを運転していた。「いよいよ親父かぁ」運転しながら思わずつぶやく。
親父のユキオやオフクロのヤエにしてみれば、初孫になる。さぞ楽しみにしてる事だろう。
気の早い親父のユキオは、男の子が産まれると思い込み「坊の勉強机は俺が買ってあげなきゃな」「産まれたら坊とキャッチボールをする」と新しいグローブを新調してきたり気の早い行動を連発していた。
母のヤエは、働きに出てるハレオ。出稼ぎで家を空ける事の多い夫のユキオ。子供が産まれたら働きに出たいと言い出したアツコら三人に対して、奴らの居ない間は全て孫の面倒は私が見る事になる。と予想していた事が的中していく事に「ふっふっ、この私の脚本通りになってきたわ‥。脚本・小松ヤエ。主演・初孫‥。ふふ変な事を口走ってしまったわ。落ち着くのよヤエ。初孫が私に懐くのは時間の問題だわ!」とハレオはヤエが独り言を言ってるのを聞いたとか聞かなかったとか。
両親が初孫を喜んでると思うと、運転してるハレオは唐突に涙がこぼれそうになってきた。
ハレオは涙もろく、テレビを観ていると先の展開を思い描くだけで涙がこぼれてしまい、泣かせるシーンの前から鼻がぐずぐずになってしまいアツコに「一緒に観てると私が泣けないわ」と言われるぐらい涙もろかった。
助手席のテッシュケースに手を伸ばす。ハレオには似合わないレースのテッシュケースは手芸好きのアツコが付き合ってる時に手作りしたもので、親友?悪友?のタカシやヒサオに茶化されたものだがハレオは自分の事を想ってアツコが作ってくものなので気に入っていた。
手芸好きはオフクロのヤエも一緒で、よだれかけや、産まれたら私が作った座布団に寝かせるんだと、沢山の綿の詰まった座布団を作っていた。
繕いながら産まれてくる子供の名は「女の子ならアン、男の子ならエース」と言ったとか言わなかったとか。
座布団はいよいよ完成したのかな?鼻水をすすりながならハレオは考えた。
第4章
病院に到着すると、陣痛が治まったアツコが病室のベットに横になって雑誌を観ていた。
アツコは「まだだよ!次の陣痛が来たら分娩室に行くから、それまでここに居てってことで横になってるんだ」アツコは特に緊張している様子も無く、ハレオは安心したのだった。
そうこうしてると、アツコの兄シゲオが母のテツを連れて現れた。
アツコは家族が来てくれた事で、よりリラックスしたようで母のテツと話し始めたので、自然な形でシゲオとハレオは病室を出て待合室に向かった。
アツコは、大農家の末っ子の一人娘だ。現在は父から農家を継いだ兄シゲオが先頭に立って仕事を進めている。
そんなシゲオが仕事を投げ出して来てくれた事に、アツコは大切にされてるなぁと改めてハレオは感じた。
「いよいよだな」待合室の椅子に座るとタバコに火をつけながらシゲオが言った。
一瞬タバコを勧めようとしたシゲオが少し考えて「やめたんだったな」と小さい声で言いながらタバコをポケットにしまった。
「俺たちは、居ても何も出来ねぇけどな」とシゲオが言って二人で小さく笑い合った。もう少ししたらシゲオの奥さんのミワコさんも来るということだ。次第にお互いの口数も少なくなっていく。待合室のテレビを二人で見ていた。
皆アツコの出産を心配してるし、そして楽しみにしてる。親父やオフクロも。今頃家でやきもきしてるんだろうなと思いハレオは笑みをこぼした。
そうこうしてると、病室のあたりが騒がしくなって来た。テツが「ハレオさん」と呼ぶ声に、かぶせ気味に返事をしながら病室に向かうハレオ。
アツコは、先ほどとは様子が変わって少し苦しそうにしている。
アツコの手を握るハレオ。
苦しそうだが、頑張って笑顔をつくりハレオに笑いかけるアツコ。
「元気な赤ちゃん、産んでくるから安心して」とアツコはハレオの手を強く握りかえす。
「うん」としか言い返せないハレオ。
手を離したアツコは分娩室に運ばれていく。
ハレオは心の中で「頑張れよ」と祈った。
もうすぐ産まれる俺。
34年前の6月8日、私はこんな風に産まれたかもしれない。
誕生日に書いた短編
第1章
「もう、そろそろ産まれるわ」と連絡があったと、事務所に戻ってくると電話番の女性に告げられた。
その場にいた皆から「いよいよだね」「パパ頑張って!」「女の嘘は、許すのが男だ」など冷やかされた。実際のところ何て言われたかは正直、上の空で覚えていない。それだけハレオは動揺していた。
頭の中では、以前産婦人科で働いていた事のある妻のアツコが言った「安心して!何人も出産に携わってきたの、初めての出産だけど不安はないわ!」の言葉にその時は、頼もしいなとさえ思ったものだが、いざ陣痛が始まっていよいよ産まれるのかと思うと、それでも妻は不安なのでは無いかとハレオは気持ちは落ち着かないのであった。
仕事を早退させてもらい、クルマを走らせる。自分が行ったところで出来る事なんて無いのは分かっていても、アクセルを踏む足に力が入ってしまう。
結婚当初、車を買おうってことになり選んだのは赤のミラージュ。
独身時代にアツコが乗っていた車種だ。こちらは単独事故で電信柱に突っ込んで廃車にしたのだった。
このときアツコは怪我一つ無く、二人の中では「ミラージュの奇跡」として年を重ねても時々二人の会話に登場する。
ハレオは違う車種にしようと提案したが、アツコが丸っとした形が私に似てるという事と、「ミラージュの奇跡」の一件もあり、とても気に入っておりミラージュに落ち着いたのだった。
前方の信号が赤になった事で、ブレーキを踏み、ギアを切り替えサイドブレーキを引いたハレオは少し落ち着きを戻した。
結婚を機会に辞めていたタバコが今は無性に吸いたいと思った。ダッシュボードを開けたところでタバコなんて無いのは分かっているのに、ダッシュボードに手が伸びる。
ハレオは手を止めて「フーッ」と一息ついた。何かしてないと落ち着かないなぁと苦笑してしまった。
第2章
信号が青に変わったので、ギアをニュートラルからローに切り替え、ゆっくりと発進させた。軽トラのゆっくりした速度とは裏腹に気持ちは焦っている。アツコの兄シゲオは、母のテツを乗せて妹アツコの居る病院に向かっていた。1人娘さんのアツコの初産とあって母のテツも、心中穏やかでは無いらしい。言葉は発しないものの、膝の上に置いたカバンを何度も握り直している。やはり心配なんだなとシゲオは感じた。
田んぼで作業中に、家の方から呼ぶ声がして、ハレオの母のヤエさんから連絡があったと母のテツに呼ばれたのは30分前だったか。
六月に入りアツコの出産がそろそろかもしれないと聞いていたので、母のテツを病院まで連れて行くのはおれの役目だなと思っていた。
シゲオはタバコに火をつけて「さあいこーか」とつぶやいた。
シゲオは、作業服のままクルマに乗り込んだ。
直ぐに出発出来たが、母のテツが色々とカバンに詰め込んでいたため、たっぷり20分は待たされ、タバコを三本も灰にした。
ようやく出てきた母に「遅いよ母さん、少しは急げよ!」
待たされた事で少々イラついていたシゲオは言うと、「まだ、慌てるような時間じゃない」とテツはシゲオの目をみて笑顔で言った。
シゲオは母テツに母親の強さをみた。
「出発~!」と言う母の掛け声と共にクルマをシゲオは発進させた。
「もう、そろそろ産まれるわ」と連絡があったと、事務所に戻ってくると電話番の女性に告げられた。
その場にいた皆から「いよいよだね」「パパ頑張って!」「女の嘘は、許すのが男だ」など冷やかされた。実際のところ何て言われたかは正直、上の空で覚えていない。それだけハレオは動揺していた。
頭の中では、以前産婦人科で働いていた事のある妻のアツコが言った「安心して!何人も出産に携わってきたの、初めての出産だけど不安はないわ!」の言葉にその時は、頼もしいなとさえ思ったものだが、いざ陣痛が始まっていよいよ産まれるのかと思うと、それでも妻は不安なのでは無いかとハレオは気持ちは落ち着かないのであった。
仕事を早退させてもらい、クルマを走らせる。自分が行ったところで出来る事なんて無いのは分かっていても、アクセルを踏む足に力が入ってしまう。
結婚当初、車を買おうってことになり選んだのは赤のミラージュ。
独身時代にアツコが乗っていた車種だ。こちらは単独事故で電信柱に突っ込んで廃車にしたのだった。
このときアツコは怪我一つ無く、二人の中では「ミラージュの奇跡」として年を重ねても時々二人の会話に登場する。
ハレオは違う車種にしようと提案したが、アツコが丸っとした形が私に似てるという事と、「ミラージュの奇跡」の一件もあり、とても気に入っておりミラージュに落ち着いたのだった。
前方の信号が赤になった事で、ブレーキを踏み、ギアを切り替えサイドブレーキを引いたハレオは少し落ち着きを戻した。
結婚を機会に辞めていたタバコが今は無性に吸いたいと思った。ダッシュボードを開けたところでタバコなんて無いのは分かっているのに、ダッシュボードに手が伸びる。
ハレオは手を止めて「フーッ」と一息ついた。何かしてないと落ち着かないなぁと苦笑してしまった。
第2章
信号が青に変わったので、ギアをニュートラルからローに切り替え、ゆっくりと発進させた。軽トラのゆっくりした速度とは裏腹に気持ちは焦っている。アツコの兄シゲオは、母のテツを乗せて妹アツコの居る病院に向かっていた。1人娘さんのアツコの初産とあって母のテツも、心中穏やかでは無いらしい。言葉は発しないものの、膝の上に置いたカバンを何度も握り直している。やはり心配なんだなとシゲオは感じた。
田んぼで作業中に、家の方から呼ぶ声がして、ハレオの母のヤエさんから連絡があったと母のテツに呼ばれたのは30分前だったか。
六月に入りアツコの出産がそろそろかもしれないと聞いていたので、母のテツを病院まで連れて行くのはおれの役目だなと思っていた。
シゲオはタバコに火をつけて「さあいこーか」とつぶやいた。
シゲオは、作業服のままクルマに乗り込んだ。
直ぐに出発出来たが、母のテツが色々とカバンに詰め込んでいたため、たっぷり20分は待たされ、タバコを三本も灰にした。
ようやく出てきた母に「遅いよ母さん、少しは急げよ!」
待たされた事で少々イラついていたシゲオは言うと、「まだ、慌てるような時間じゃない」とテツはシゲオの目をみて笑顔で言った。
シゲオは母テツに母親の強さをみた。
「出発~!」と言う母の掛け声と共にクルマをシゲオは発進させた。





