753720さんのブログ

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ローチが次に取った行動は、正解とは程遠いモノだった。

この津波の中、ローチが生き延びるには、一切動かずにこの体勢を保つ事が絶対条件であるが、逆にローチは一歩前に踏み出たのだ。

ローチは、何か作戦があってそんな行動を起こしたのではない。そう、何も考えず一歩踏み出したのだ。

『パズルの顔面に一撃を入れてやろう』それしか、ローチの頭に浮かんだ事がなかった。

だが、その行動は、ローチが考えている以上に不味かった。

ガゴッ!という大きな衝撃音が、頭部のヘルメットに響き渡ったのだ。まるで頭だけ大砲で撃たれた様な衝撃に、ローチは思わず、また一歩踏み出していた。

また一歩動いた事により、今度は左肩に壮絶な衝撃が襲う。

ヘルメット内に表示されていた赤いモニターが、点滅を繰り返し、ビシッビシッ!とモニターに亀裂が入る。

『想定外行動により、自動修復が強制中断されました。ただちに現在地から離れ、安全なセフティーゾーンに移動して下さい』

女性アナウンスの意味は、ローチが動いた事により修復が中断されたので、この津波から逃れ、安全な場所に移動しろ・・・ということだ。

しかし、この津波から出る事など、ローチに出来る訳がなかった。そう、修復が中断された事により、体の自由を奪う程の衝撃から、身を守る方法が無くなり、ローチは今にも、津波に体を持っていかれても不思議ではない状況に置かれたのだ。

「おいおい!お前バカなのか?!動かなきゃ~お前の勝ちだったのによお!」

確かにパズルの言う通りだった・・・一歩踏み出したりしなければ、ローチの勝利は間違いなかっただろう。その失敗がローチを冷たく、突きつめる。

だがローチは、諦めていなかった。体中のフレームが崩れてゆく中、パズルの視線を真直ぐに睨みつけたのだ。

「僕は、戦友と約束した・・・『必ず守る』と!」

ローチはそう言って、また一歩前に踏み出す。いや、もうローチはパズルを殴るつもりで前に出ていた。



激しく流れる小石の津波の中、ローチは右腕に違和感があるのに気づいた。

その違和感とは、何かが右腕に絡みついている様な感覚で、それによりギシギシとフレームが悲鳴をあげている。

ローチがそんな事を気にかけた事に、パズルは再び嬉しそうに声をあげる。

「やっと気づいてくれたかぁ!俺のムチちゃんはそんな簡単にゃあ~諦めねぇのさ!」

そう、その右腕に絡みついていたのは、パズルが自分の片腕を落として変形させた、あのロープだったのだ。しかもロープはこの津波の中、何一つビクともせず、パズルの腕からローチの腕へと繋がっていた。

そしてローチは、さっき見せられたパズルとロープの力を思い出した。そう、ローチの体を意図も簡単にこの津波にへと放り込んだあの力だ。

もし、この状況で少しでも引っ張られて体勢を崩され、レフトアーマーの修復が中断してしまったら・・・そんな不安がローチの脳裏を横切った。だからローチは更に警戒を強める他、出来る事はない。

デフェンスを固めたローチを見て、パズルは自分のロープを強く握り締めた。

「へぇ~分かってんじゃん!なら、いま俺に本気で来られちゃマズイって事をわかってんだろぉ!」

そう叫びながらパズルは、勢い良くロープを引っ張る体勢に移った。まずいと感じたローチは、体を持っていかれない様、足に力を入れる。

しかし、そんな事をしても意味がないのをローチは知っている。それはそうだ・・・パズルは片腕だけでローチを投げられる程の力を持っている。そんな相手に幾ら本気で挑もうが、結果は見えているのだ。ローチはその現実が冷たく、諦めろと・・・語りかけてきた様に感じた。

その時、ローチは『自分が貫かねばならない事』を思い出した。それは、機械的な任務ではなく、兵士としての任務でもなく、短い間『ともに戦った仲間』と交わした任務であった。

業火と交わした、B103という敵だった『子供を守り通すという責任』を、再びローチは体に焼付ける。

確かに恐れてはいる・・・だが、もしローチがパズルに破れ、B103がパズルに目を付けられたら、どんな目に遭わされるのか?残酷すぎて想像すら出来ない。

「いいだろう、やってみろ。僕は負けない・・・逃げないぞ!」

「ほっほ~!チミ面白いねぇ!!悪い結果を望むなんてさぁ!」




ガゴッ!ガゴ!と、ローチのヘルメットに小石のぶつかる音が伝わってきた。

そしてそれと同時に、ヘルメットのモニターに赤い警告の表示が広がった。それは当然だ。何故なら大量の小石の津波に、体の半分を浸からせているのだから・・・

この津波はそこまで深くはなく、せいぜい下半身が浸かる程度だ。

しかし問題は、この津波が硬い小石で出来ている事と、その勢いが凄まじく、力を抜いたら足を持っていかれる恐れがあるということだ。

もし足を持っていかれたら最後、津波に体を飲み込まれ、レフトアーマーもそれにより破壊され、ローチの体は耐え切れずバラバラになるだろう。

『緊急修復に移ります。この定位置から移動するのは、修復の妨げとなりますので、出来るだけこの位置を維持して下さい』

女のアナウンスが言うには、この津波の中でじっとしてれば勝手に直してくれるらしい。大量の小石による衝撃を受けながら修復するとは、やはりこのレフトアーマーは桁外れの性能を持つらしい。

今までもそうだった。普通は直るはずがない損傷を、当たり前の様に修復し、ローチの命をここまで繋げてきた。それはローチにとって恵まれた事なのだが、そんな性能をローチは、不気味に感じていた。


パズルが言っていた通り、パズルとローチの戦いは、再生と修復の対決となっていた。

「へえ~!やっぱすげぇな!レフトはよお!!」

修復により耐え切るローチを見て、パズルは更に楽しそうに歓喜する。

だが、二人の戦いには、大きな性能の差が存在した。それは、ローチのレフトアーマーはこの津波の中であっても、新品同様までの修復を可能とするが、パズルの再生には、そんなハイテク機能はなく、ただ衝撃を耐え切る程の再生で持ちこたえるしかない。

つまり、ローチが体制を崩し、位置をずらし、修復を中断させない限り、パズルが先にお陀仏となるということだ。その現状はローチでも理解出来た。しかし、パズルは何一つ恐れる事なく、歌うように、笑うように、この津波に耐え切っているのだ。いや、耐え切るというより、わざと自分を追い込んでいるように見えた。