「くちべにのあとは」作詞作曲 浅野和典 編曲 小谷充 歌 東京モナルダ
「青山午前2時」作詞 岡田憲和 作曲編曲 小谷充 歌 東京モナルダ
ビクターレコード SV-907 1969年
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一方、幕府の隠密で選ばれた7人の1人、片目はどうしていたであろうか・・・。
幽鬼を追って、式部と共に服部半蔵屋敷を飛び出したまでは良かったが、あっという間に幽鬼の隠形の術により撒かれてしまった。
さらに手分けして幽鬼を探すべく、式部とも分かれて、単独で稲荷が森に入っていた。
すでに夜は明けていて、影法師7人との戦いははじまっていたが・・・。
片目というのは、当然、本当の名前ではない。
彼の名は、甚作という、よくある名前であった。
ところが子供の時に、忍術修行のような真似事をしている時に、不慮の事故により右目が失明してしまったのである。
子供とは残酷なもので、遊び仲間の周りの子供たちが、そんな彼の外見的特長をからかった事から、何時しか片目と呼ばれるようになっていた・・・。
しかし、彼はそんな事には気にせず、忍者として体力、技量ともに、他の伊賀者よりも優れた力を有するようになり、服部半蔵からも信頼を勝ち得るまでになっていた。
さらに元来の温厚な性格も、仲間から慕われる要素の一つであった・・・。
そんな片目が、今は非常に激しく厳しい表情で幽鬼を追っていた・・・。
片目は意識していたのかいないのか、自然と稲荷が森に入っていた。
幽鬼・・・。
片目にとって、常に心にある名前であり、そして顔である・・・。何時からそのようになったのかは考えてもいない・・・。常に心の中にある。ただそれだけであった。
しかし、幽鬼得意の隠形の術の恐ろしさだけは、よく理解していた・・・。
「不意打ちのようなものだ・・・。俺は負けてない・・・。」
確かに片目は幽鬼の隠形の術により敗れていた・・・。
敗れた・・・?
忍者にとって負けは死を意味する。
だが片目は今こうして生きている・・・。
どうもおかしいと、少し疑問が生じた時に、片目には何時も頭痛が襲ってきていた・・・。
今は疑問どころではない・・・。幽鬼と戦える機会が来たのである。
片目は何が何でも幽鬼を倒さないと気がすまないのであった・・・。
そんな片目でも冷静に考える時はあった・・・。
「今も簡単に撒かれてしまった・・・。隠形の術・・・。その術を破る方法はないものか・・・。」
片目は常にそれを考えていたのだが、未だに見つけてはいない・・・。
稲荷が森はうっそうとしていて、しかも広大な範囲を有している。
今、片目がいる場所とはかなりかけ離れた所に、影法師がアジトとして利用している小屋があった。
すでに日は高い。幕府の隠密選ばれた7人との戦いは日の出からだ。すでに戦いははじまっていたのである・・・。なのに紫右近を除く影法師6人は今も小屋に留まっていた・・・。
6人とも無言である。
魔風など、何か話したいそぶりを見せるのだが、幽鬼の手前、遠慮しているようであった・・・。
「遅い・・・」
幽鬼がひと言呟いた・・・。
別に連絡の時間を決めていた訳ではないが、夜が明けないうちから戦いに飛び出してしまった紫右近から、何も連絡がないのが気になっていた・・・。
幽鬼は、前の9年前の幕府の隠密選ばれた7人との戦いで、自分が事実上率いてきた7人の影法師で敗れている事が心残りなのである。もう少し何とか出来なかったものかと、復活してから考え続けていた。
そして、やはり7人の団結こそが、隠密に勝つ要因だと思うようになっていた。
そもそも前の戦いでは、いきなり自分が推奨して連れてきた夜霧丸が、何の活躍もなしに倒された。これは最大の誤算であった。他の者ならまだしも、自分が推奨した夜霧丸である。何もならなかった訳であるのだから・・・。
そして、半蔵屋敷に忍び込ませていた死神の正体が割れたところから、歯車が狂いはじめたと分析していた。
そのような失敗は、今度は2度と起こしたくなかった・・・。
なのに自分の指示を無視して、紫右近が単独で行動を起こしてしまったのだ・・・。
幽鬼は、まず仲間の影法師6人に、戦う幕府の隠密、選ばれた7人の顔と名前を覚えさせてから戦いに望もうと考えていた・・・。
今の状況では、相手は自分たち影法師の居所が判らないはずである。隠密の方は半蔵屋敷の離れにいる。この事だけでも、自分たち影法師の方が断然有利だと幽鬼は思っていた。
「遅い・・・」
またひと言幽鬼は呟いた・・・。
それを聞いて、痺れをきかせて魔風が立ち上がった。
「よし、俺が様子を見に行く。」
しかし幽鬼がそれを制した。
「いや、半蔵屋敷は俺の方が詳しい。俺が行ってこよう・・・。」
さらに幽鬼は続けて言った。
「よいか、相手の顔形が全て判らぬうちは行動は起こしてはならぬ。」
さすがに幽鬼の言葉は説得力があったので、他の影法師たちは何も言えない。ただ静かに闘志を燃やすしかなかったのである。
幽鬼は1人で稲荷が森の小屋を出た。
一応、影法師全員に行動する時は目印を残すよう、魔風に指示は出しておいた。
紫右近の目印は、木の幹にはL字型の切り込みを、路上の場合はL字型の何かの細工をするという事に決めておいたのだ。
そんな目印を探しながら幽鬼は、稲荷が森の中を服部半蔵屋敷の方角に走っていた・・・。
すると、しばらくして目立つ大木の幹にL字型の切り込みを見つけた。
「ふふふ、右近の奴、それなりに動いているようだな・・・。」
幽鬼はその目印を頼りに進むと、枯れた下草が踏み荒らされた跡がある場所を見つけた。
付近の様子も見て回る。
そして自分たちが使うクナイを見つけた・・・。
「右近め・・・、ここで誰かと戦ったのか・・・」
さらに幽鬼は血の跡も見つけた・・・。
「もしや・・・」
嫌な予感が幽鬼の頭を過ぎった・・・。
そして古池で紫右近の姿を見つけた・・・。横たわって水面に浮かんでいた紫右近を・・・。
幽鬼は、またしても自分の計画が初めから崩れていくような感覚に襲われた・・・。あの時の夜霧丸が真っ先に倒された時のように・・・。
取り敢えず、鉤付きの縄で紫右近の死体を引き寄せる。
「幕府の隠密・・・。伊賀者め・・・さすがにやるわい・・・。」
しかし幽鬼は、逆に闘志が湧いてきた事も感じていたのだ・・・。
「右近、無念であったろう・・・」
そう紫右近の死体に語りかけようとしていた幽鬼であったが、思わず、その言葉は飲み込んでいた・・・。
紫右近の死に顔が、あまりにも安らかな笑みを浮かべていたからである。
そして、そんな幽鬼を気配を殺して隠れて見つめていた男がいたのだ・・・。
内面にある激しい怒りを堪えて、じっと見つめていた男は・・・。
片目と呼ばれていた男だった・・・。
「し、しまったぁ。」
式部は紫右近が古池に飛び込んだと悟った・・・。
爆発があった場所から池に向かって大量の血の跡がついていたからだ。
慌てて池全体を凝視した式部であった。
が、その時、
ザァーーーーッ
と、池の水面が持ち上がってきたのだ。
「いかん!! 奴の術だ!!」
その大量の水は、今度は一気に水面に叩きつけられ、あっという間に水しぶきとなり、そしてさらに湿った霧となって、あたりを覆いつくした・・・。
式部には、もう目の前の池さえ見えていない。勿論、紫右近の姿は見失っていた・・・。
いきなり右手より式部は襲いかかられる気がして、慌てて刀を抜いて切りつけた。
ガッ!!
咄嗟の判断だったが、霧の中から現れたのは、そこに立っていた杉の木だけであった・・・。
「前と同じ術だ。このままでは逃げられてしまう。」
そこに式部目がけてクナイが飛んできた。
しかし式部は、それは難なく刀で払い落とす。
「くそぉ~。奴は弱っているというのに、何てことだ・・・。」
クナイによる手裏剣攻撃に力がない事を見抜いた式部であったが、紫右近を見つける糸口が見つからない・・・。
また式部は攻撃を受ける気配を感じて刀を振りかざし身構えた。
しかし霧の中から現れたのは、またしても木立であった・・・。
「いけない!! このままでは、奴の術中にはまる!!」
式部は焦って大きく跳躍して、近くの杉の木の上部に位置を変えた。
このままでは、自滅する恐れを感じたからだ。
すると、意外にも上の方の空間は霧の密度は少ないようで、霧は薄らいでいて陽光さえ認められたのだ。
「しめた!! ここから様子を窺う事にしよう・・・。」
だが、下の方の地上には確かに池があって、そこには紫右近が忍んでいるはずなのであるが、それらは霧に閉ざされていて見る事は出来なかった。
式部は攻撃を受ける気配は感じなくなっていた。どうやら、この霧の中だけが、紫右近の何らかの術によって、気持ちが惑わされるらしい・・・。
しかしこのままでは、せっかく追い詰めた紫右近に逃げられてしまう・・・。
式部は迷った・・・。
このままここで霧が晴れるのを待つべきか、それとも瀕死の紫右近を仕留めに行くべきか・・・。
時間は過ぎていく・・・。式部はまだ迷っている・・・。
「俺の負けかもしれない・・・。」
式部とて、数々の修羅場を経験してきた優れた忍者である。このように迷った事など一度もなかった・・・。それが迷っている・・・。
「何とかしなくてはいけない・・・。」
式部は意を決して、杉の木から降りて、また霧の中に入る事にした。
式部は賭けてみたのである。
紫右近自身の術が勝るのか、それとも体力が破れるのかを・・・。
紫右近は、その時必死で「忍法天しぐれ」を繰り出していた。
何故、池の水を自在に操り、霧を発生させるのかは判らないが、体力がいる事だけは確かである。
式部による変形の手裏剣攻撃で、背中の上部がかなりえぐられていた・・・。
それだけではない。ほとんど自爆気味の爆発により、脚の方も多大な痛手を負っていた・・・。
もし「忍法天しぶき」が切れたら、まず助からない・・・。式部に今度見つかったら、それこそ最期だと思っていた。
しかし先ほどから、池の周りにいるはずの式部の気配がなくなっている事にも、紫右近は気がついていた・・・。
「奴め、天しぶきの中から抜け出しているのか・・・。」
しばらくしても気配はない・・・。
「よし、ここは一旦出直すとしよう。」
もう体力の限界であった・・・。
紫右近は術を解いて、池から上がろうとした時、血の気が引く思いがした・・・。
また式部の気配を感じたのだ。
「くそぉ・・・。何としつこい奴なんだ・・・。」
と同時に、全身を激痛が走っていた。
しかしなおも「忍法天しぐれ」の術をかけ続ける右近。
激痛は続いていた・・・。
そして、身体の芯から湧き上がってくる痛みとも戦っていた・・・。
式部は用心して、杉の木を降り、近くの木陰に隠れる。紫右近の姿も気配も感じられなかった・・・。
おそらくこの霧が、自分のあらゆる感覚を乱している原因だという事だけは確信を持っていたが・・・。
襲いかかられる気配も感覚もない・・・。
しかし霧は晴れない・・・。
その時、いきなり式部は物凄い殺気を感じた。
何かが覆いかぶさってくる恐ろしい殺気を感じていた。
ドドドドドォーーッ!!
今しがた、式部が乗っていた杉の木が倒れてきたのである。
ただそれだけなのだが・・・。
式部なら、そのような物は難なく避けられるはずである。それがやっとの思いで避けられたのだ・・・。
「うう~む。これも奴の術なのか・・・」
式部は混乱していた・・・。
紫右近の姿は見えない・・・。
気配もない・・・。
「?」
「いや、気配はある・・・?」
その時、式部の周りの霧が急速に消えていき、あたりの景色が見え出したのだ・・・。
「むっ、右近の奴、また何か・・・」
しかしその言葉を言いきらぬうちに、式部は目の前に紫右近の姿を見ていた・・・。
霧が晴れた池の水面には漂うものがあった・・・。
紫右近の動かぬ姿であった・・・。
「奴の最期の術だったか・・・」
式部は一か八かの賭けに勝ったのだ・・・。
紫右近の体力の方が負けたのである。
式部は鉤が付いた縄を投げて、紫右近を岸に引き寄せた・・・。
確かに紫右近は死んでいた・・・。もう奇襲を受ける事もなかった・・・。
式部はその時、急速に疲れを覚えた・・・。これだけの戦いをしたのだから当然といえば当然である。
「疲れた・・・」
忍者がこのような事を言うのは珍しい・・・。
式部は半蔵屋敷に戻ろうと、その場を立ち去ろうとしたのだが、何故か思いとどまり、今一度紫右近の死に顔を見ていた・・・。
そこには、壮絶な痛みと戦っていた男の顔はなかった・・・。
穏やかな笑みを湛えた死に顔であった・・・。
紫右近はなおも式部に対して切りかかった。
やはり難なく刀は空を切っていた・・・。式部の動きが早いのである。
「どうした右近。それだけか。」
右近にとっては、この式部の態度は憎々しかった・・・。しかし刀は空を切るばかりである。
「はぁーっ!!」
刀での勝負は分が悪いと判断したのか、ここで紫右近は思い切って木立に跳び移った。
虚をつかれた式部だったが、すぐに右近の後を追って、自分も木立へと跳んでいた。
その一瞬、式部の態勢が崩れた瞬間、クナイが飛んできた。
カッ!! カッ!!
と小刀様の手裏剣が傍の枝に突き刺さった。
「おぉーっと、油断が出来んぞ。」
式部は今の紫右近の攻撃で、右近の姿を見失っていた・・・。
「遠くに行っているはずはない。」
式部は耳もすませて相手を探っていた。屈んだ態勢のまま木立の上で・・・。
「いた!!」
紫右近は、今度は地上を走り去っていく。
追いかけざま、式部は手裏剣を投げた。伊賀者がよく使う十方手裏剣である。
しかしこの程度の攻撃では、難なく紫右近もかわしてしまう。
さらに追いかける式部。
その時、式部に嫌な記憶が頭を過ぎった。
「まずい! 確かこの先に古池があったはずだ。」
式部には、この紫右近には、ほんの小さな小川を利用されて、あの”忍法天しぶき”なる術をかけられた経験がある。
「水はまずい!!」
当然、このあたりの地理に詳しくない紫右近でも、その古池は目ざとく見つけているかもしれない。右近があのような術を使う以上、水場を見つける特殊な能力があるのかもしれないのだ。
「いやぁーっ!!」
式部は思い切って、木立を大きく飛んでみた。態勢が崩れる事は承知でも・・・。
あっという間に、式部は紫右近の前に出ていた。その古池の前に立ち塞がったのである。
「むむ~っ!!」
紫右近は一瞬ひるんだ・・・。
「ふふふふ。影法師・・・。そう思うようにはさせないよ。」
焦った右近はクナイを投げたが、これは簡単に式部は避けていた。
「ふふふふ。ようやく俺の得意の術を披露出来そうだな・・・。」
そう言う式部の態度に、警戒する右近であったが、劣勢は否めない・・・。
「何とかしてあの池を利用せねば・・・。」
右近とて、まだ水の中に入れさえすれば戦える自信があった。
しかし式部はジリジリと紫右近との距離を詰めにかかっていた。
右近は、またしても刀を大上段に構えて、式部に切り込んでいった。
その時、式部の手がわずかに動いたかと思えた瞬間、いきなり2本の十方手裏剣が飛んできたのである。それも少し大きめのものが・・・。
慌てて右近は1本の手裏剣から身をかわし、もう1本の方は刀で受け止めていた。
「ぐわぁっ!!」
右近にいきなり激痛が走った。背後、肩の下あたりだ。
「???」
紫右近は何が起きたのか理解出来なかった。
そして目の前には式部が立ち塞いでいた。
「ふふふふ。忍法飛燕・・・」
紫右近の背中に刺さっていたのは、確かに避けたはずの、式部が投げた手裏剣であった・・・。
「ど、どうして・・・?」
「ふふふふ。なあに、戻ってきただけだよ・・・。」
右近は刀で受け止めた方の十方手裏剣を見てみた。それは微妙な角度で刃先が削られていた・・・。
投げ方によって、いろいろな方向に飛ぶように細工された手裏剣だったのである。
「影法師・・・。残念だが、お前の方が最期のようだな・・・。」
式部はそう言うなり、慎重に紫右近に近づいていく。前の時のような不覚はとりたくない・・・。
そして、今度は普通の十方手裏剣を、紫右近目がけて投げていた。
ドカッ!! ドカッ!!
手ごたえがあった。
ドカァーン!!
いきなり紫右近の周囲で爆発があった。
一瞬とまどう式部。
あたりは煙で満ちている。
「ぬっ!! 自爆したのか!?」
いや、地面には血の跡が続いているのが見られた・・・。
「あっ、しまった!! 逃げられたかぁ!?」
ドボォ~ン!!
その時、古池に何かが飛び込む音を式部は聞いていた・・・
朝日は陽光を強めて、稲荷が森の木々の若葉を照らしていた。
幕府の隠密、選ばれた7人の1人、式部が半蔵屋敷に現れた幽鬼を片目と共に追いかけていたのが、まだ夜も明けない暗いうちであった。
すぐさま幽鬼の隠形の術にて撒かれてしまったが、諦める式部ではなかった。
その後も片目と分かれて、手分けして幽鬼を探したが、とうに幽鬼の方は、稲荷が森の奥にあるアジトの小屋に戻ってしまっていた・・・。
「まあよい・・・。幽鬼とか言ったな・・・。なかなかの奴だが、あとで奴も俺が倒してやる。」
痩せ型で面長、頬がかなりこけていて実直な性格の式部は、幽鬼という忍者とは初対面だった。そして隠形の術で消えていくところや、何という術かは判らなかったが、松の木の枝先に身をおく、何とも身軽な技には驚いたが、何れは自分が倒す相手と考えていた・・・。
何れは、というのは、式部にとって、7人の影法師の中で、何としても倒さねば気が収まらないのが紫右近だったからである。
あの時、紫右近の目を毒薬で潰して、あと一歩というところで、不用意にも右近の含み針を喉元に受けてしまい、ほぼ相討ちとして倒れた式部であった・・・。
「あの時・・・」
式部はまたも軽い頭痛を感じた・・・。
しかしそれはすぐに引いていた・・・。
「あれから紫右近の奴、どうなったんだ・・・?」
式部の刀は、かなりの手ごたえで紫右近を切り裂いていたから、奴は死んでるはずである・・・。
「死んでる・・・はず・・・?」
また頭痛が襲ってくる。
すでに夜が明けていて、影法師との戦いがはじまった訳だが、式部には幽鬼を追いかけた段階で、とうに戦いははじまっていた・・・。
あまりにも頭の中から痛みが湧き出てくるので、式部は訝ったが、それでも紫右近の顔を思い描くと頭痛は治まりはじめた・・・。
式部にも、何故自分がここにいる事などの矛盾が気になっていたが、今はそれどころではない・・・。何しろ、またあの7人の影法師、それも紫右近と戦える事になったのである・・・。式部は何としても紫右近だけは倒したかったのだ・・・。
今彼を戦いにかきたてているものは、どうも紫右近個人への憎しみ怒りというよりは、あの時の、紫右近との戦いでの自分の不甲斐なさを、何とかして払拭したかったという事なのかもしれない・・・。
式部は今も稲荷が森の中をさまよい、そして影法師を、特に紫右近を探していた・・・。
影法師と戦うために自分はいるのだから、相手もいるはずだと・・・。
一方、影法師の1人、紫右近の方も稲荷が森の中をさまよい、幕府の隠密、選ばれた7人を探していた・・・。
影法師の中でも、彼1人だけは、武家様のいでたちをしていた。彼は忍びという身分が嫌だったのである。
紫右近の方は、今ここに自分がいる事などの矛盾はほとんど感じていないようだ。
彼が知っている、死んだはずの夜霧丸に野火、死神とも、アジトの小屋で会っていたが、ほんのつかの間であった事もあるが・・・。
紫右近は、今も9年前の戦いの続き、つまり9年前そのものだと思っていた。だから、自分の含み針がはたして式部に効いていたかは分かっていない。幽鬼が助けに来てくれた事までは覚えていたが、それからは自分が運よく助かったと思っていたのだ。
とにかく幕府の隠密は倒さねばならない。それも特に式部という奴は、自分の手で始末しないと気が収まらなかった・・・。幽鬼にはすまないと思いつつも、その衝動には、幽鬼の単独行動を戒める指示をも破る力があった・・・。
そんな行き当たりばったりで飛び出した紫右近の前に、何と、偶然にも式部が現れたのである。これにはさすがに紫右近も驚いた。
「奴だ!!」
それは本当に偶然であった・・・。
すぐさま木陰に隠れる右近。
あの時の5人の隠密の1人だ。妙に出しゃばっていた奴で見覚えがあった。
とその時、紫右近の方に走ってきたと思われた人影がいきなり消えた。
「ふふふふっ。影法師。こそこそ隠れているとは臆病風に吹かれたか。」
右近の背後で声がした・・・。
身構える紫右近。
「奴だ。間違いない。あの声は式部だ。」
右近には式部の姿や顔はぼんやりとしか思い出せなかったが、目を潰されてから戦った男、その男の声ははっきりと覚えていた・・・。そう式部の声は・・・。
「いた!!」
後方のくぬぎの大木の又の部分に人影が見えた。
「ほほう紫右近か・・・。これはこれは、俺はついていたな。」
と言いながら、大胆にも式部が紫右近の目の前に降りてきたのだ。
そこまで挑発されれば、さすがに右近も頭に血が登った。
「くっ、馬鹿にするなよ。幕府の犬めが・・・。」
紫右近はもう隠れてなどいない。立ち上がり刀を抜いていた。
式部と右近。お互いの距離はわずかだ・・・。
紫右近は刀を上段に構えた。
式部はまだ刀は抜いていない。
「奴の変な術にはかかりたくないからな・・・。」
式部は前に”忍法天しぶき”なる紫右近の不思議な術を受けた経験がある。まだ何か違う術があるかもしれないと用心していた。あの時も、含み針などという単純な反撃で不覚をとっていたから・・・。
2人がいる場所は、周りを木立に囲まれたほんの狭い空間である。陽光がわずかに差し込むような場所であり、足元には、昨年のなごりの枯れ草などが蔓延っていて、けっして動きやすいところではない・・・。
「いやぁーっ!!」
紫右近が踏み込んで刀を振り下ろした。
しかし式部は難なく後方に飛びのいた。
だが、もう後がない。後ろは木立と藪である。
「ふふふ。式部。いよいよ最期のようだな。」
どうやら刀の扱いは紫右近自身は自分の方が上のようだと思った。武家様の衣装をまとっている以上、かなり剣の修行は積んでいたからである。
「いやぁーっ!!」
右近はさらに踏み込んだ。
刀は式部がいた後ろの木立に突き刺さった。式部は寸でのところで右近の刀をかわしていた。
「危ない危ない・・・。なかなかやるな・・・。」
実は紫右近は式部の実力を甘く見ていたのだ・・・。
これは先の戦いの時でもそうだったが、右近は自信過剰なところがあるのである。そして、自分が相手より劣ると判る場面であっても、相手の実力を評価するより、その他の原因を探す傾向があった。
先の戦いの時でも、自分が負けたのは5人対1人の差と考えていたのだ。そもそもは、そのような不利な戦いの条件の場を自分自身が作ったとも考えないで・・・。
その時、半蔵屋敷は大騒ぎであった。
幽鬼は今しがた、自分が殺した幕府の隠密の辻堂善兵衛の死体が運び込まれるのを見ていた。夜も明けきらない半蔵屋敷の庭には、玄関番の弥平が慌ただしく動いていた。
勿論、幽鬼は隠形の術を用いての忍び込みであるから、そう簡単には見つからない。まして慌ただしい雰囲気が立ち込めている半蔵屋敷である。人の僅かな気配など消し去っていた・・・。
服部半蔵が青い顔をして、鹿戸丈助とかいう隠密を呼んでいた。
幽鬼にとって、その鹿戸丈助と名乗る忍者は初めて見る顔である。
半蔵屋敷の庭にて、服部半蔵と鹿戸丈助は何やら話していたのだが、幽鬼の忍んでいた場所からでは、少し彼らの話が聞きにくかったので、幽鬼は忍ぶ場所を、気配を消して半蔵の近くへと移動した・・・。
その時、鹿戸丈助から意外な言葉を聞いたのである。
「は。どうも私には、あの9年前の事件が思い出されるのですが・・・。」
その9年前という言葉に、幽鬼は全身に電気のようなものが走るのを感じた・・・。続いて襲ってくる頭痛の波・・・。忍んでいる幽鬼は、必死で隠形の術をかけたまま、痛みを堪えて気配を消していた・・・。
さらに鹿戸丈助の話は続く・・・。
「7つの影法師とかいう者たちが、われわれに挑戦してきた事件ですが・・・。」
幽鬼は愕然となった・・・。
頭痛を堪えつつ、幽鬼はようやく半蔵屋敷から忍び出た・・・。
少し休まねばなるまいと思った・・・。
人目を気にして、隠れるように、人通りがほとんどないお堂に辿り着いた・・・。情けない事に幽鬼には、隠形の術を使う気力が残っていなかったのだ・・・。
お堂の中で、横になって頭痛が引いていくのを見計らって、また幽鬼は考え始めた・・・。
「9年の月日がたっているらしい・・・・・。」
これは幽鬼にとって、まったく想像もしていなかった事であった。
また頭痛が襲ってくる。このような事を考えねばよいのだが、それでも考えてしまう。その度に頭痛は襲い掛かってくる・・・。
「おれは9年もの間、いったい何をしていたのだろう・・・?」
しかし考えるのはそこまで・・・。どうにも頭痛が激しくなって、幽鬼はそのお堂の中で眠りこけてしまっていた・・・。
しかし、幽鬼がただの忍者でも、ましてや常人でないのは、度重なる頭痛に勝った事である。
彼はだんだん頭の痛みが小さくなっていたのを感じていた・・・。痛みに慣れたとも言えたが、明らかに痛みは小さくなってきていると感じていた・・・。
そして、その合間に考えてみた。
「やはり俺は死んでいたのだろうか・・・。」
その頃幽鬼は、頭痛とは逆に、本能に赴くままに、幕府の隠密を3人殺して、例の影丸を江戸に戻せ、という紙を置いていく行動をとっている時が一番安らぐ事をはっきり認識していた・・・。
隠密相手とはいえ、人殺しである・・・。本来、幽鬼という男は、そのような非道な男ではない。しかし、何故か心が休まるのであった・・・。特に影丸を江戸に戻せという文字を書いた時が・・・。
そして、何が何でも無性に影丸をはじめとした、当時の幕府の隠密、選ばれた7人ともう一度戦いたくなっていた・・・。その思いは日増しに高まっていった・・・。
さらに幽鬼は考えた・・・。
もう9年も月日がたっていれば、影一族とてどうなっているか判らない。ましてや、今さらノコノコと薩摩に戻ったとて、先の戦いを放棄して逃げ出した裏切り者という扱いになっているやもしれない・・・。
幽鬼は、今ここで、本能赴くままに、行動をとった方が良いような気もしていたのだ・・・。
そんな時、もう一つの考えが幽鬼に浮かんできた・・・。
「何故、俺だけが生き返ってきたのだろうか・・・?」
もう生き返ったらしい事は疑ってはいなかった・・・。何処かで眠っていたというのは、9年という歳月では考えにくいからである。
そして、幽鬼には、何故かかつての仲間の魔風が現れるような気がしていた・・・。それがどのような根拠で思った事かも判らないまま・・・。
「そうだ、魔風は生きているのだろうか・・・?」
この時幽鬼には、まだ影法師対幕府の隠密の戦いの勝敗の結果は判っていなかった・・・。9年前の出来事という事しか判っていなかったのだ・・・。
幽鬼はその夜、鹿戸丈助と戦っていた・・・。そして、その時に現れたのが魔風だったのである。
魔風の態度から、幽鬼は即座に自分と同じように生き返ってきたのだと感じとっていた・・・。やはり普通の人間とははっきり何処かが違っていた・・・。
しかしその事は、未だに魔風には話していない。魔風は魔風で考えるかもしれない・・・。
そして、どうやら自分たちが、また幕府の隠密、あの時の選ばれた7人と戦わなくてはならない何かがあると感じとっていた。まったく謎であるが、そこに何かがあるらしい事は感じていたのだ・・・。
ここまで単独で推理していくのであるから、それがたとえ間違っていたとしても、この幽鬼という男は、並々ならぬ恐ろしい頭脳を持った男と言えるだろう。
幽鬼はその後も度々半蔵屋敷に忍び込んでいた。
そして、9年前の戦いで生き残ったのは、僅かに影丸1人であった事と、それにより我が影法師が敗れた事を確かめていた。それは残念な事であったが、すでに9年も前の事である。幽鬼は素直にその事実を受け入れた・・・。
その間にも、幽鬼には、かつての仲間が蘇るという予感も日増しに高まってきていた・・・。いや、かつての仲間、影法師だけではない。あの選ばれた隠密のうち、死んだとみられている天鬼以下の6人もまた、日増しに蘇るような気がしていたのだ・・・。
もう今までの自分の常識では考えられない世界にいるのだという事を、幽鬼は感じていた。
そして、嫌がおうにも、かつての幕府の隠密選ばれし7人と戦わなくてはならないと感じていた・・・。
「そうだ・・・。あの時の影法師7人は、俺が選んで連れてきたようなものだ・・・。もし、もう一度戦える機会があるのなら、今度は隠密を、そして影丸を倒したいものだ・・・。」
その頃から幽鬼には、かつての精力逞しい勢いが戻りつつあった・・・。
そしてあれだけ悩まされた頭痛からも開放されていた・・・。
今、幽鬼はまもなく始まろうとしている、幕府の隠密、かつての選ばれた7人との戦いに挑もうと、静かなる闘志を燃やしていた・・・。
この事件は、影法師の1人、幽鬼の意識が戻ったところから始まったように思う・・・。
幽鬼は目が覚めるように気がついていた・・・。それは目が覚めるという表現で間違いなかった・・・。そして江戸の服部半蔵屋敷の傍の茂みに隠れていた・・・。何故隠れていたのかは判らない。
そして白い忍び装束を身にまとっていた・・・。何時もの影法師特有の装束であった。頭には覆面様の頭巾を被り、顔は判らないようにしていた・・・。
何時もと変わらないと幽鬼は気にも止めなかったが、ふと一瞬だが、何故白い忍び装束という思いが頭を過ぎった・・・。
「確か俺は黒い忍び装束を着ていたのでは・・・?」
その時、激しい頭痛に襲われた。それは激しいものであった。
幽鬼は忍者らしからぬ、その場に頭を抱えてしゃがみ込んでしまっていた・・・。
しばらくして、その頭痛は引いていた。幽鬼は黒い装束の事は忘れていた・・・。
そして今自分は半蔵屋敷の傍にいる。何故に・・・?
時も判らなかったが、どうやら夜中のようであった。満月に近い月が出ていた・・・。
そこに真夜中というのに、人一人が歩いてきたのだ。
幕府の隠密でお庭番の与之吉であった。
何故か幽鬼は与之吉の名前を知っていた・・・。幕府の隠密の、今まで顔も合わせた事がない与之吉の名前を・・・。
「幕府の隠密、与之吉で間違いないな・・・。」
自然に幽鬼の口から言葉が出ていた。
「えっ!?」
当然のように与之吉は驚き身構えた。背後を警戒して土塀を背にして小刀を抜いていた。
「ぐぇーーーっ!!」
隠形の術である。
与之吉は背後から一突きで殺されたのだ。
それを見て幽鬼は懐から紙と筆を取り出し、ひと言書いて、それを残して消え去った・・・。
”影丸を江戸に戻せ”と。
幽鬼はその後、稲荷が森の小屋で寝泊りしていた。
何故自分が、幕府の隠密の与之吉とかいう男を殺したのかさえ分かっていない・・・。だがそうしなければならない何かがあったのだ・・・。そして、”影丸を江戸に戻せ”と書いた紙を、そこに残さねばならない事も分かっていなかった・・・。
「影丸・・・?」
ここで幽鬼は影丸という名前が気になった・・・。何処かで聞いた事がある名前である・・・。
「選ばれた7人・・・。」
そんな言葉も思い出してきた・・・。
しかしそれと同時に、また頭痛が襲ってきていた。
幽鬼はその頃から、何かを考えようとすると頭痛が襲ってくる事が分かってきていた・・・。従ってなるべく物事を考えないようにしていたのだが、どうにも気になる事が、そして言葉や名前が頭を過ぎっていった。
「選ばれた7人・・・。幕府の隠密か・・・?」
しばらく頭痛と戦う幽鬼。
「すると俺は何者・・・?」
その時幽鬼は初めて、自分が影一族の忍者で、影法師7人の1人である事を認識したのだ。
それが分かると、急速に記憶が蘇ってきた。
自分たち影法師7人が、選ばれた7人の隠密と戦っていた事を・・・。薩摩藩に仕えるために、影一族の実力を認めさせるために・・・。
しかしそれでも頭痛は時々波状的に襲ってくる。
一番頭痛が激しくなるのは、何故黒い忍び装束でなく、白い忍び装束を着ているかという事を考えた時であった。確か自分は隠密の1人の、式部とかいう男の黒い忍び装束で戦っていたはずである。そうだ、天鬼とかいう隠密と・・・。
火傷で焼け爛れた醜い顔の男と・・・。
そして隠形の術が破れた・・・。
「隠形の術が敗れた・・・?」
またしても頭痛が襲ってきた。
今度は激しい。幽鬼は小屋の中でのた打ち回った。
ようやく頭痛が治まった時、幽鬼は思い出していた・・・。
「俺は天鬼に負けた・・・。あれから何も覚えていない・・・。意識がなくなっていた・・・。」
幽鬼は考えた・・・。またも波状的に軽い痛みの頭痛が襲ってくる。しかしそれくらいの頭痛には、もう耐える力がついていた・・・。
そして幽鬼は一つの結論を出した・・・。
「もしかしたら俺は死んだのかもしれない・・・・・。」
死んだ・・・。
分からない・・・。
幽鬼は、今こうして生きていて、物事を考えている。夢ではない・・・。
その間にも、幽鬼は、もう1人、幕府の隠密のお庭番を殺していた・・・。”影丸を江戸に戻せ”と書いた紙を残して・・・。
そして幽鬼は、その頃から何故か判らぬが、またあの幕府の隠密の選ばれた7人と無性に戦いがしたくなっている自分に気がついていた・・・。影丸をはじめとして、片目と言われていた文字どおり片目の忍者とも、そして自分が不覚をとった天鬼とも・・・。
そういう事を考えている時は、不思議と頭痛がしなくなり、むしろ心休まる気がするのであった。
「そうだ。俺はそのために影丸を江戸に呼び戻すよう、隠密を殺し、半蔵に注意を与えているのかもしれない・・・。」
幽鬼には、未だに何故自分が、隠密殺しをしているのかが分からないでいた・・・。そして”影丸を江戸に戻せ”と書いた紙を残しているのかも・・・。
そうこうしているうちに、幽鬼は、どうにも我慢できない衝動にかられるようになってきていた・・・。
「戦いたい・・・。奴らと・・・。」
奴らとは、かつて戦った幕府の隠密、選ばれた7人の事・・・。当然、影丸も含まれる・・・。
そして幽鬼は自分でははっきりとした感覚はなかったが、これもかつての仲間たち、影法師の残りの6人からも後押しされているような気がしていたのだ・・・。
そして服部半蔵の前にも現れたという事なのである・・・。
しかし、それでも疑問は解けない・・・。
もしかしたら自分は死んでいたのかもしれない、という疑問である。
そこで幽鬼は、自分だけで考えていてもラチが開かないと考えるようになり、そして一つの行動をとる事になったのである。それは一歩間違えれば、かなり危険な事ではあったのだが・・・。
3人目の隠密 辻堂善兵衛を殺した翌朝、まだ夜も明けきれないうちに、幽鬼は大胆にも、単身、幕府の隠密の総元締めで首領の服部半蔵屋敷に忍び込んだのである。隠形の術を使って・・・。
そして幽鬼は思いもよらない事を半蔵の部下の口から聞いたのである。
幽鬼は、幕府の隠密の片目と式部が追いかけてきている事は知っていた。しかし、隠形の術の使い手の幽鬼にとって、そんな2人を撒くのは簡単な事であった。
すでに片目と式部の姿も気配もない・・・。完全に2人を撒いたようだ・・・。
「影丸の奴、何ゆえ寝込んでいたのか・・・。よく判らぬが病気のようだったが・・・。」
幽鬼は影丸との戦いを、ある意味楽しみにしていた忍者である。少し気になっていた・・・。
今、幽鬼は稲荷が森の奥にある小屋に向かっていた。今頃は自分を除く影法師6人が集まっている頃であった。幽鬼には何となくそれが判っていた・・・。
そう9年前に江戸に出てきて、選ばれた隠密7人と戦った、その影法師7人が揃うのである。死んだはずの影法師7人が・・・。
稲荷が森にある小屋は、影法師がアジトとして使っているのである。ここには、まず誰も近づいてこない。それほどうっそうとした森の奥深くにあったのである。
そこに幽鬼が着いたのは、もうすぐ夜が明けようとしていた頃であった。
「今帰ったぞ。」
一斉に振り向く白装束の忍者たち5人・・・。
「幽鬼、どうであった。幕府の隠密は?」
魔風である。
「うむ。いよいよ決戦だぞ。すでに選ばれた7人は半蔵屋敷に揃っていたわ。」
すると他の影法師たちも色めきたってきた。
「夢麿もいたのか。幽鬼。」
死神と雪風である。
「もちろんいたぞ。」
そういうなり幽鬼はあたりを見回して1人足りない事に気がついた・・・。
「紫右近がいないようだがどうした? まだ来ていないのか?」
5人の影法師は気まずい顔でお互いを見回したが、代表した形で魔風が話し出した。
「それが幽鬼・・・。止めたのだが聞かずに、すでに戦いに出かけてしまったんだ・・・。皆で止めたのだが・・・。」
魔風も他の影法師もすまなそうな顔をしていた・・・。
「そうか・・・。」
幽鬼は一言、そう言っただけだった・・・。
9年前の幽鬼は、影法師の母体、影一族の次期首領候補であった。非常に人望が厚く、忍びとしての実力も当然抜けていた。しかし幽鬼の優れていたのは技そのものよりも、むしろ仲間をまとめる能力の方が抜けて優れていたと言っても良かった。
それゆえ、実力者の十四朗よりも、やや実力は劣るとはいえ夜霧丸を影法師7人の一人に推薦したのである。仲間の連帯を重視していた訳である。
ところが、その時の7人の中で、もう1人紫右近という男も、どちらかというと単独で行動したがる面を持っていた・・・。それは1人、白い忍び装束をとらず、武家風の服装をしていた事でも表れていた。
そして、今ここに、再度影法師7人が集まり、7人の団結で幕府の隠密に挑もうとしていた矢先に、幽鬼の思惑とは裏腹に、紫右近が単独行動を取ってしまっていたのだ・・・。
「無理をして自滅せねばよいが・・・。」
幽鬼は嫌な予感が頭をかすめた・・・・・。
いよいよ影法師7人対、幕府の隠密、影丸を含む選ばれた7人の戦いは、火蓋をきって始まろうとしていた・・・。
それにしても判らないのは、何故、影丸を除く13名の忍者が、今、ここにいるのかという事である・・・。彼らは明らかに、確かに死んだはずなのである・・・。なのに、今ここにいる・・・。
そこで決戦前に今一度、時を戻して、その何故の疑問に迫りたいと思う・・・。
「未練町港町」作詞 ふじあきら 作曲編曲 柳刀太 歌 藤野弘とナイトエコーズ
「みなと恋唄」作詞 ふじあきら 作曲編曲 柳刀太 歌 藤野弘とナイトエコーズ
DSR-1015 1978年 デラレコード
A面は「未練町港町」。各番の出だしが軽くていいね。全体は演歌がかるムードコーラスなんだけど、なかなかいいぞ。
B面は「みなと恋唄」。海の男と港の酒場の女の恋物語。すでに去って戻ってこない男を想い続ける酒場女の気持ちが歌われている。こちらも演歌がかるけどかなりいい。
藤野弘とナイトエコーズというグループは、ほとんど知られていないけど、このレコードを聴いてみると、なかなか良かったので、このまま忘れ去られてしまうには惜しいグループだな。
「愛してくれますか」作詞作曲 小栗重司 編曲 バク藤田 歌 小栗重司&ブルーインパレス
「さよならするわ」作詞作曲 小栗重司 編曲 バク藤田 歌 小栗重司&ブルーインパレス
アテネレコード 自主製作盤
A面は「愛してくれますか」。いけない男に恋している女心が歌われている。いかにもムードコーラスらしい題材の歌で、歌声もムードコーラスそのものだ。いいぞ。
B面は「さよならするわ」。夜の女と浮気心の男の客・・・。そんな関係で運命としてさよならを受け入れる夜の女心が歌われている。やはりムードコーラスらしくていいね。
自主製作盤でまったく語り継がれていないけど、このグループはいかにもムードコーラスらしくていい。