孝庵医師、棟梁、仕事仲間、お鶴らの支援を受け、熊五郎はパチンコ依存症からおおよそ抜け出せていた。完全ではないが、パチンコの誘惑に対する強い欲求が少なくなり、日常生活において平穏を取り戻しつつあった。熊五郎は、これが新しい生き方だと実感しつつ、仕事に励んだ。
そんな依存症から抜け出す過程で、熊五郎は家族との絆を取り戻すことがなにより大切だと気づいた。これまでの自分を変えようとする努力を、出て行ったきりのせがれへ示す必要があると思った。和解を試みることにした熊五郎は、長らく疎遠だったせがれに手紙を書いた。謝罪の言葉と共に「お前に何もしてやれないだめな親父だったが、一度会ってくれねぇか」と願いを込めた。最初は何の返事もなかったが、数日後、せがれからの返事が届いた。そこには「俺ももう一度話をしたい」と書かれていた。
ある日の夕方、仕事終わりに「熊五郎、お前さんにいい知らせがあるぞ」棟梁が熊五郎を呼び止めた。「さっき、日本橋の組合長が見えてな」棟梁は笑みを隠しきれないでいた。
「お前さん、『深川大工お客様満足度コンテスト』への出場権を獲得したんだ」
熊五郎は驚き、信じられないという表情を浮かべた。「あっし、あっしがですかい。コンテストに」熊五郎の声が震えた。
「そうだとも。お前さんの技と先日の大口の受注が認められたんだ。江戸中の大工で競うコンテストだ。出場だけでもえらいことだ」棟梁は誇らしげに言った。
そしてお天道様は見てるんだなと呟いた。
終わり





