9.ドーナツがラーメン5杯分

高校生の僕らでも持てたようなチャチなプレイヤーはほとんどドーナツ盤専用だった。


重たいLPなんか載せるとプレイヤーが沈む。そんな感じです。恐れ多くてLPなんか載せられなかった。


第一、LPなんて買って持ってるのは文化的マイノリティだった。少数派です。


と言っても経済的・社会的支援が必要な少数派じゃない。その逆。お金持ちの人たちです。


毎朝、雲丹の瓶詰めをあけていた僕の叔父さんなんかがそれに当たる。私のクラスメートで言うと医者や電器店のどら息子だ。


この電器店のどら息子は洒落でもなんでもなくドラムス子だった。大学に籍だけ置いてバンドに入ってジャズ喫茶に出ていた。特技は電柱をよじ登って女の部屋に忍び込むことです。医者のどら息子のほうはどんな奴だったかというと、もうここに話を書くのも憚るようなことばかりです。白日夢の世界だ。皆さんにはお聞かせできません。


ドーナツ盤でもラーメン5杯分くらいの値段がしたあの時代。みんながLP をそこそこ買いだすようになるのはビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』から。


ざっくり言うと1967~8年頃から。いわゆるトータル・アルバムの時代が始まり、オーディエンスもそれを受け入れた。高度成長が続いてみんなの懐が豊かになってきたのも一因だ。


若い人によく聞かれる。「ストーンズの初期のアルバムなんか出たときはよく聞いたんですか? あの黒っぽいジャケットのカッケエやつなんか」なんて。


もうリンダ困っちゃうだ。今の若い方たちにはワカランでしょうね。僕が高校生の頃は1 枚のSPでもお小遣いがだいぶ吹っ飛ぶ。LPなんて見るだけです。花電車だった。[続く]