3.

ママが選んだのは

グラスにライム・ジュースをそのまま

ドボドボと注ぐほうだった。


オレンジ・ジュースを水で割って出すか?出さない。

グレープ・ジュースを水で割って出すか?出さない。

だったらライム・ジュースも水で割らずに出すべきだ。


ママの脳内には

こんな三段論法が駆けめぐったのではないか。

私はそう推察します。


瓶の中のライムはほとんどがグラスの中へ。


面白いことになった。

私は興味津々、文庫本を閉じて

事の推移を見守りましたよ。


ママはグラスにストローをさすと、

きっぱりとした手つきで

青雲青年のテーブルにグラスを置きました。

あとは野となれ山となれの心境

だったでしょう。


青雲青年はグラスを手に持ち、

ストローを口に入れ、

静かにひと啜り。


やがて青年の目尻には

うっすらと光るものが。


感動の涙?

違います。

ただただ酸っぱかっただけです。


そのあと青年も考えたんでしょうね。

グラスをテーブルに置いて、

しばらく手を出しませんでした。

氷が溶けてライムが薄まるのを待つ作戦に

出たわけです。


ほどなく私のガール・フレンドが現れたので、

私は心を残したままその喫茶店を出ました。


あの青年はライム・ジュースを全部飲み干したのか?


ジン・ライムなら20~30杯はとれそうな量の

ライム・ジュースをひとりの青年に飲まれたママは、

いったい彼にいくら請求したのか?


答えは神様しか知りません。


謎を残したまま

人生は過ぎゆく。


今はただ、

ため息をつきながら

筆を擱くのみです。

(完)