2.

青雲青年に

「ライム・ジュースください」

きっぱり言われてしまった喫茶店のママは、

一瞬、棒を飲んだように突っ立つと、

「ライム・ジュースですか?」


当時はジン・フィズやジン・ライムといった

カクテルが流行っていて、

透明で四角いジンの瓶と

緑色で丸いライム・ジュースの瓶は

どこの喫茶店でも置いていた。




とはいえ、

あの酸っぱいライム・ジュースを

コップ一杯飲み干してやろうという豪の者は

東京広しといえどもそういません。

流石は青雲青年だ。


私は期待でワクワクしながら事の推移を

観察しておりました。


カウンターの中に戻ったママは

ライム・ジュースの瓶を棚から下ろすと

一瞬迷ったあと

ジュース用のグラスに氷を入れました。


カクテル用のグラスを使ったほうがいいか、

迷ったんでしょう。


そのあと、

ママには更なる迷いが。


私にはママがなにを迷っているのか、

手にとるように分かりました。


ライム・ジュースを瓶からドボドボ、

グラス一杯に注いだものか、


それとも、


ジン・ライムの作り方を応用し、

ライム・ジュースに水を足したほうがいいものか、

迷ったわけです。


[つづく]