(1)

昨日の午前11時ごろ、ワタシは近くの公園に出かけた。恐ろしい運命が自分を待ち受けているとはツユ知らず。呑気にサンダルを引っかけ、自転車に乗って、6分34秒26の短い旅。

あっ、皆さん。上の数字はホントですよ。ワタシが50m走の鬼になってることはプロフィールにも書いてます。日々の進歩を確認するためのストップ・ウォッチ 。120円の投資を無駄にしないため、公園までの時間を正確に測ってみました。

6分ちょっとか。これも旅だ。人生はつねに旅だ。後悔だ、いや航海だ。おろそかにしてはいけない。

哲学的な感慨にふけりながらワタシは公園の入り口で立ち止まり、ストップ・ウォッチを胸のポケットにしまっ
た。

ホントはジャージのズボンのボケットに入れたんですが変えました。ジャージのポケットじゃね、重みがない。なんの胸のポケットかは、皆さん、勝手に想像してください。

鬱蒼と繁るプラタナスの巨木の群れ。ワタシは巨木の先の枝が競って指さしている空を見上げた。この世を今にも去ろうとする悲劇の男の目で・・・・万感の思いをこめて・・・


ピーター・オトゥール演じるロード・ジムの最後のシーンのように。

あっ、ロード・ジムはワカラナキャわからないでいいです。思いついたままを後先考えずに書いてるだけですから。

プラタナスもなんとなく書いただけです。なにしろ木のホントの名前を知りませんから。

で、散文的なワタシは自転車をおりてただ歩き始めた。1万歩への道も1歩から。100づつ数えていって、200,300となり、何時のまにか数が
わからなくなる。それがいつものスタイルだった。

普段通りのコースをたどって時計台の前まできた。春と一緒に何処からともなく現れた、コンガみたいな太鼓を夢中でたたいている馬鹿者、いや若者の姿がない。


ヨカッタという気持ちと物足りない気分。中途半端な思いでそこを通りすぎようとしたその時だった。

突然、空が真っ黒になるほどの鳥の群れがワタシ目掛けて襲いかかってきた。[続く]



(2)

空が真っ黒になるほどの鳥。これはよくある常套句ですね。決まり文句を使ってみただけです。実際は5,60羽の鳩だった。

それでも、これだけの数の鳩が空から突然舞い降りてきてですよ、ワタシの頭や肩にとまろうとするのもいる。いや驚いた。自転車に飛び乗って逃げました。

ヒッチコックの「鳥」。金髪のティッピ・ヘドレンの気持ちがわかりましたね。彼女は撮影中に鳥につつかれて目の下に傷を負ったらしい。鳥だからといって侮れない。

撮影は中止、じゃなくて散歩は中止です。ワタシはそのまま自転車をこいで家に戻った。自転車をこいでる間もワタシは考えました。なんで鳩に襲われたんだろう?

鳩は旧約聖書にも出てくる由緒ある鳥である。大洪水を生きのびたノアの方舟に一番先に飛んできて、エホバの神の怒りが静まったことを教えてくれた。オリーブの枝をくわえていたのは、もう安心だからゆっくりカクテルのマティーニでもお飲みなさいという印しだった(もちろん嘘です)。

人類を二分するのにもよく使われる。ハト派とタカ派とか。平和の象徴である。鳩は人類に好かれている。ちなみにワタシが好きなのは鶏です。唐揚げでもナゲットでも親子丼でもなんでもこいです。あっ、好きのイミが違った。

とにかく、いましがた味わった驚天動地の体験はいったいどういうことなのか。ワタシは鳩に恨みでも買っているのか。ワタシは自分自身の行動、来し方、行く末を考えました。

いまは地球規模で環境破壊がすすんでいる。その危険を人類よりも早く察知した鳩たちが、人類の代表と見なしてワタシに警告の脅しを与えたのか。

アリエマセンね。ワタシに人類を代表する四角も三角もない。3年2組の代表にもなれない。ではどうして?

今のワタシはもはや3カ月前のワタシではない。「映画探偵室」の読者になって3カ月。kees-popinga室長の顕微鏡的な分析技術をワタシも自家薬籠中のものにしつつある。


ワタシは余裕の笑みを浮かべながらゆっくりとコーヒーをすすった。(室長みたいにタバコはやらんもんで。ホームズ探偵のパイプにはコカイン入りのタバコの葉が入ってたらしいですね)


(3)

『最近はクロばかりでパクが少なくなりましたね』

これは「美味しい秘境倶楽部」というブログをやっているkoganeharaさんのコメントです。昨日のワタシのオハナシにコメントしてくれた。koganeharaさんはいまインドのタイチくんのお話を連載している。面白いですよ。

ほう、そうか。最近の鳩はクロばかりでバクが少なくなったのか。ワタシはうなずく。重要な情報が転がり込んできた。

で、クロばかりでバクが少なくなった鳩はなぜワタシを襲ったのか。鳩の外面に関する完璧な情報を得たワタシは、つぎに鳩の内面の考察にとりかかる。

ワタシはかって鳩を怒らせるようなことをしたことがあったか?

思い当たるのは東京オリンピックの頃のことだ。


オリンピックには大勢の外人観光客が訪れる。彼らは牛や豚や鶏や羊だけでなく、鳩も食べる。外国では食用の鳩がけっこうテーブルにのぼるらしい。そんな噂が広がって、日本中に養殖用の鳩舎が作られたことがある。

「チョコレートのソースなんかかけるとオイシイんだって?」


ワタシは子供の頃から食い意地がはっていた。で、学校の行き帰りに友達とそんな話をよくした。それを空から聞いていた鳩がいてワタシに悪感情をだき、子々孫々に伝えた。

うーん。この可能性、かなり薄い。ワタシは鳩がオイシイらしいという話をしただけで実際に食べたことはない。恨まれるスジアイはない。心に思っただけで罰せられるなら、日本中の人がワイセツ罪で捕まってしまう。

ワタシはコーヒーをまたすすった。ここで1口目のコーヒーのカフェインが効いたのか。ハッと思い当たることがあった。

そういえば最近、オレはあの公園で鳩を怒らせることしたなぁ。したした。

あの公園はけっこう広い。土曜や日曜には家族連れが大勢やってくる。子供たちがビスケットやパンをちぎって鳩たち
にあげている。周囲4キロ以上の公園ではフツーに見られる平和な光景だ。

幸運なことに、そんな公園から6分34秒26のところに住んでいるワタシは、オナカがすいた頃合いに公園に出かける。で、さりげなく鳩に混じってビスケットの拾い食いをやる。鳩何十羽ぶんに相当するビスケットの屑を拾って食べる。


頭を前後にヒョイヒョイと振りながら、拾っては食べ、拾っては食べ。鳩も人間も二本足なのでなかなかバレナイ。しまいに鳩が怒るのもアタリマエ、なーんて。これは冗談です。[続く]