シド・バレット・インタビュー(サンバーン訳)
27/03/1971-Melody Maker

シド・バレットに関する噂話は山ほどある。

尊大なほど自己中心的になってしまって、一緒に仕事ができない。
彼はピンク・フロイドから放り出された。
精神的に崩壊してしまった。
かって午後のドライブに出て、そのままイビサ島(注:地中海西部、バレアレス諸 島南西部のスペイン領の島)に行ってしまったことがある。
精神治療の一環として、母親と一緒に暮らすためにケンブリッジに戻った。
時々、ピンク・フロイドを作ったリチャード・ライトの家に行っている、等々。

このうちのいくつかは真実だ。

ロジャー・ウォーターズ:

「彼が後半、まだバンドにいた頃さ。俺たちは、俺たちのうちの誰かが今にも彼 の喉を切り裂いてしまいそうなところまで行ってたんだ。なぜって、彼はそれく らい我慢ならなかったからさ・・・」

「"See Emily Play"がヒットして、俺たちは3週間、チャートの3位にいた。で、 俺たちはトップ・オブ・ザ・ポップスに出たんだ。このときの3週目なんか、彼はチャートにいるってことを知ろうとさえしなかった。信じられない状態でそこい らにかがみこんで、俺は行きたくないって言うんだ。俺たちはその理由をやっと 聞き出した。そしたらなんと、それはジョン・レノンがあの番組に出なかったか らってことだった。だから俺も出ないってわけさ」

過去2年間で彼は2つのアルバムを作った。ひとつは「Barrett」。もうひとつは 「The Madcap Laughs」だ。

「The Madcap Laughs」のジャケットには、がらんとした部屋の剥き出しの床板 のうえに、目を見張りながら屈んでいる彼自身が映っている。背景では女が一糸 まとわぬ体をこれみよがしに曝している。

この写真は彼の歌のムードを鷲づかみにして表しているようだ。皮を剥がれ、虚 飾を取り去り、流行に背を向け、洗練された作品の価値とは無縁の歌。

その結果、彼の歌を聴く者は言葉や意識の流れの効果に集中せざるをえなくなる 。彼の作品は優しく保護するような親密さの感覚を生みだす。ためらうような、 それでいて強力な知覚を。

先週、シド・バレットはロンドンにやってきて、彼の所属するレコード会社の部 屋で話をした。ここ1年ほどで初めてのプレス・インタビューだった。

彼の髪はいまはとても短く刈られている。ほとんどスキンヘッドのようだ。で? これは何かの象徴なのだろうか。

彼は自分の周りがどうなっているのか、実によく分かっている。だが彼の会話は しばしば曖昧になってしまう。それは常に一直線に進むわけではない。

音楽業界における自分自身の不確実な役割を彼は痛々しいほどよく知っている。 「僕は自分が間違ってると思ったことはないんだ。僕に必要なのは、自分が正し いことを証明することさ」彼は言う。

多分、彼はすべてよく分かっているのだろう。彼が"Octopus"の中で言っている ように、「向こう見ずは境界線の上にいる男を笑って」いるのだ。


●マイケル・ワッツ(以下W) - ピンク・フロイドを離れてからずっと何をしてたんだい?君が作った2枚のアルバムは別にして。

シド・バレット(以下S)

「うん、僕は画家なんだよ。画家として訓練を受けてたんだ・・。ほとんど可能な限りの時間を絵を描くことに費やしてたよ・・。分かるかい?絵に没頭するのは凄い解放感なんだ。とにかく僕は座って、ずっと絵を 描いてた。大学で美術を学ぶなんてのは回り道すぎてね。僕には考えられなかっ た。それよりアート・スクールでうまくなりたかった。でも、それはUFOでプレイしたり、ライトが当たる場所でプレイしたりする感覚を超えられなかった。し かもバンドがどんどんビッグになっていくっていう現実があったしね」

「今はケンブリッジに母親と一緒にいるんだ。なんだか沢山の子供たちを持ったみたいな感じだ。ある意味でね。叔父とかさ・・・だんだん家族がそばにいるこ とに馴れてきた。全体として言えばね。あまりわくわくすることじゃないけど。 仕事は地下室でやるんだ。下の地下室でね」

●W - 画家とミュージシャンのどっちに早くなりたかった?

S「さあ。最終的には自分は画家になると思うよ」

●W - 最近の2年間を自分を再び取り戻すプロセスだと思ってる?

S「ノーだね。それはたぶん、音楽に関してもっと上を求めてることと関係があるんじゃないかな。僕の仕事に関する限りね。僕には仕事が必要だということが分かったんだ。仕事がしたい。それが分かったのは初めてだ。なぜって、僕はそれを認めない人間だったからさ」

●W - 君は大学に戻ろうとしてるとか、工場で仕事を見つけたとかいう噂があるけど。

S「さあね。ケンブリッジに住んでると何かやることを見つけなきゃと思うんだ 。当然だろ。なんの仕事だってできると思うよ。仕事はなにもやったことないけどね。仕事を済ませて、そのあとで休むなんて生活には馴れてないんだ。でも僕にだって出来るさ」

●W - ピンク・フロイドがどんな風に始まったのか話してくれる?

S「ロジャー・ウォーターズは僕より年上だった。彼はロンドンの建築の学校に いたんだ。僕はケンブリッジで勉強してた。たしかキャンバーウェル(美術大学) に入る前だな。ロンドンにはちょくちょく行ってたんだ。ハイゲートに彼と一緒に住んでたんだよ。部屋を分け合ってね。それでバンを手に入れて、奨学金の大半はパブとか何かに注ぎこんでた。




僕たちはストーンズのナンバーを演奏してた 。ギターを弾くことに興味があってね。それで僕はかなり早い時期にギターの演奏を始めたんだ・・。ケンブリッジじゃあまり演奏しなかった。なぜって、僕は アート・スクールの出身だったからね。わかるだろ?でも僕はすぐにプロとしてプレイするようになった。そして、そのあたりから曲も書きはじめたんだ」

●W - 君が書くものは常に歌に関係してたけど、ピンク・フロイドのほかのメ ンバーが書くのはどっちかと言うと長いインストルメンタルの曲だったよね、そうじゃない?

S「音楽の素材を選ぶってことになると、彼らが考えることは建築の学生だったことと大いに関係があったろうね。どっちかと言うと面白くない連中なのさ。僕は最初からそう思ってた。アート・スクールに行くってのは、そうだな、なんかペテ ンにかけられた感じだった。入学するのに作品なんか作らなきゃならないんだから 」

「素材の選びかたは自由じゃなかった。限定されてたね。ロジャーと僕は両方と も違うタイプの曲を書いてたからね。僕たちはそれぞれ自分の歌を作って自分の音楽を演奏してたんだ。彼らは僕より年上だったろ?たしか2つぐらいね。僕は 18か19じゃなかったかな」

「メンバーとの衝突が一杯あったなんて僕は思ってないんだ。演奏を始める方法が気に入らなかったとか、そんなことを別にすればね。僕が思ってるほど充分な インパクトがなくてね。かなりの程度までやれてはいたんだけど。なんというのかな、エキサイティングってほどじゃなかった。僕が求めたことは夢物語だと人は思うんだろうけど」


●W - 彼らがやろうとしてたことは好きだった? 彼らの音楽は徐々に「See Emily Play」みたいなものから離れていったけど。

S「シングルはいつだって簡単なんだ・・・でも演奏用の機材が全部ぼこぼこに なったり、使えなくなったり。スタートしたときは機材はどれも自分たちのだっ た。ギターは僕たち自身の財産だったんだ。電子音のノイズはおそらく必要だっ たんだろうね。あれはすごくエキサイティングだった。本当さ。当時はステージ で演奏することがすべてだった」

●W - シングルを作ろうとしてたのは君だけだったのかい?

S「たぶん僕だけだったね、僕の記憶だと。ポップ・グループであるってことは シングルを持ちたいってことなんだ、当然だろ。"See Emily Play"は確かヒット ・チャートの4位だったかな」

●W - 君はどうして彼らと袂を別ったの?

S「本当のところ、諍いなんかじゃなかったんだ。いろんな事をめぐる、ちょっ とした咄嗟の出来事だったのさ。当時、なにか決断しなきゃならない大事なこと があるなんて僕たちは感じていなかった。みんなはこう思うんだろうな。俺たち は別れた、だからトラブルが一杯あったはずだって。僕はね、ピンク・フロイド がトラブルを抱えてたとは思ってないんだ。ひどい場面はあったけどね。おそら く自分で自分に課したものだろうけど。ミニを手に入れてイングランド中を回っ たりとかね・・・それでも・・」

●W - 君はなにかに魅惑されてしまったのかな、それに支配されてるとか?

S「さあね。君は多分、何かが僕の頭を混乱させてると思ってるんだろ? それが 当たってるかは僕には分からないな」

●W - 君がピンク・フロイドを離れたのはLSDを飲んでトリップしておかしくな ったからだって噂があるけど。

S「さあね、どうだろう。それとはあまり関係ないと思うよ。僕に分かってるの は、演奏すること、ミュージシャンであること、それがとてもエキサイティング だってことだけさ。鏡やなんかを一杯つけた銀のギターを持ってるほうが、床の 上やロンドンの何処かに寝転がってるよりましだろ。あたりまえのことさ」

「周りの多くの若者が考えることを僕が意識してたかというと、僕はそうは思わ ない。そうあるべきだったほどにはね。つまりさ、ロンドンの若者たちの中のひ とりとしての立場というのかな。君がそれを何て呼ぶのか、僕は知らないよ。ア ンダーグラウンドじゃない。それは必ずしも理解され、感じられてるとは限らな い。特にグループの観点から見てね」

「UFOのことで思い出すのは、1週間はあるグループ、次の1週間は他のグループ っていうふうにグループがどんどん入れ替わって、いちいちセットを組まなくち ゃならなかったことかな。もっとアクティブなやり方があったんじゃないかと今 になって思うけどね。

でもUFOがお終いになったときは本当に驚いたよ。先週、あの店はやめないって 記事を読んだばかりだったのに。あそこはジョー・ボイド が仕切ってたんだ。 彼があそこを離れたときは本当に驚いたよ。僕たちがやろうとしてたことは、あ らゆる種類の哲学を盛り込んだ小宇宙みたいなものだった。だけど、ちょっと安 っぽくなってしまう傾向があったね。ショーには纏まりがなきゃならない。そう そう。実際は僕たちは贅沢な場所に暮らしたり、贅沢なものに取り巻かれていた わけじゃないんだ。僕はいつも、ある種の贅沢な生活ってものを擁護してきた。それはたぶん僕があまり働かないからだろうな」
●W - LSDはまったくやらなかったの?あの頃、つまりロック・バンドの間でそれが流行ってた頃。

S「ノーさ。それはロンドンに住んでたことと関係してるんじゃないかな。運がよかったんだろうね・・。お茶を飲んだり絨毯の上に座れるような場所に帰りたい。僕はいつもそう思ってたんだ。幸いにも僕にはそれができた。ずっとね・・・そうだ。おかげで思いだしたよ。あれは楽しかったな、The Soft Machine。ほんとに楽しかった。"Madcap"をずっと演奏してくれてね。Kevin Ayersはいなかったけど」

●W - 君は曲のなかでストーリーを語るってことより、むしろ、あるムードを作ろうとしてるんじゃない?

S「そう。まさにその通りさ。ムードみたいなものを作り出すのは凄いことなんだ。それはとても純粋なんだよ。分かるだろ? 言葉っていうのは・・・なんか僕は訳のわからないことを言ってるみたいだな」

「僕が言いたいのは、すべてはギタリストとしての僕自身から出てるってことさ。最後に演奏したのはイングランドとヨーロッパか。アメリカなんかをグループとして回ってた2~3年前になるのかな。戻ってきて・・・それからはほとんど何もしてこなかった。だから何を言うべきか分からないってのが正直のとこさ。そうだな。たぶん僕は余計者に近いって言われるんじゃないかな、人から見るとね。自分がアクティブだとは思わないよ。それでも僕は人の中にいて完全な満足感を感じててるんだ」

●W - みんなはまだ君を覚えてくれてると思うかい?

S「ああ。そう思うべきだろうね」

●W - それならどうして何人かミュージシャンを集めて、ツアーに出たりギグをやったりしないんだい?


S「けどさ。僕がやるべきことはレコードだって思ってるんだよ。で、ツアーや演奏をやってるとレコード作りができなくなるかもしれないからね」

●W - 2年ぐらいたったらまたライブをやりたいとは思わない?

S「ああ。とてもやってみたいね」

●W - それなら障害は何なんだい?適当なミュージシャンが見つからない?

S「そう」

●W - 一番重要なことは何なの?彼らが素晴らしいミュージシャンかどうかってこと?それとも君がほかの人間とうまくやっていけるかってこと?

S「うまくやっていかなきゃって思うとこわいね。やるならいいミュージシャンでなきゃ。見つけるのは難しいだろうな。仲間は活動的なほうがいいね」

●W - じゃ、君はほかの人間とうまくやっていくのがへたな人間だったと思う?

S「思わない。おそらく唯一の問題は僕に忍耐力がなかったてことだろうね、なぜって、そんなことは簡単なことだろ。クラブみたいなとこでギターを弾くのはいいんじゃないかな。分かるだろ。髪の毛ももっと長くなるだろうし。大学やなんかをツアーして回るより演奏することのほうが大変なんだ」

●W - アコースティック・ギター弾いてみれば?君ならきっと成功すると思うんだけど。

S「ああ・・、そりゃいいね。けど僕はエレキしかやったことがないから。僕は黒のフェンダーを持ってるんだけど、代わりが必要だし・・・ブルー・ジーンズも持ってないしね・・。僕はホントにエレキの音楽のほうが好きなんだ」

●W - どんなレコードを聞いてる?

S「さあ。あまり沢山は買ってないんだ。最近はMa Raineyなんかを買ったけど。これは凄い。ホントにファンタスティックだ」

●W - これからはブルースの方面近づいていくのかな?そして何か書くとか?

S「ああ、そう思ってるよ。色んなグループが色んなことをやってるよね・・、Sladeなんか聞くと面白いんじゃないかな。そうだろ?」

●W - 3枚目のソロ・アルバムはできる?

S「ああ。スタジオで何曲か録ってるよ。今もね。それで何本かテープもある。シングルが12曲あるのかな。楽しくて良いシングルだよ。自分のプロデュースで出来るはずだ。それをやるのはいつだって簡単だと思ってるんだ」[完]


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