ジョン「米国でツアーが決まって,もっとまともな恰好しろと言われた。それじゃアメリカで通用しないって。ビートルズはベロアの襟付きのスーツにモップトップ・ヘアだ。だから売れてるんだぞって。また例の調子で言いくるめられてしまった。ストーンズはアメリカで無茶苦茶やって話題になった」

バードン「逃げ出したい気持ちだった。マンハッタンの高層ビルの43階、外は氷点下の寒さだし、見渡しても壁ばかり。そして無表情な関係者たち。スーツ姿の彼らの青い目には$ サイン。僕は夜な夜なハーレムのアポロ・シアターへ通った。マネージャーと親しくなって入りびたりになり、色んな人に会った。BBキング、ルーファス・トーマス、ビッグ・マベル。チャック・ジャクソン。シュレルズ、ディオンヌ・ワーウィック。写真を撮ったり個人的に親しくなったりした。僕も初めは黒人のシンガーから入ったんだ」

サミー・ヘイガー「バードンもそうかも知れないけど、貧乏人の家に育つと生活が苦しい人の歌の方が共感できるんだ」

ジョン「他のバンドはもっとポップなカバーをやってたけど、僕等はもっと不透明なミュージシャンが好みだった。ジミー・リード、マディ・ウォーターズ、ジョン・リー・フッカー。ボ・ディドリーなんかだ。普通の人は聞いたこともない名ばかりだ」

バードン
「ニーナ・シモーンに憧れていた。初めて彼女の声を聞いた時、アメリカで最も誇り高く最も黒く最も優れていると確信した。いや世界一だ。僕にとっては女豹だった。

僕ら何人かでハンター・カレッジに女神様を聞きにいった。リンダ・マッカートニー、当時はまだリンダ・イーストマンが楽屋に入れるよう頼んであるって言うんで行ってみると、ニーナは僕の目を見てこう言った。あたしの歌で大儲けした白いマザー・ファッカーってあんたかい。

言い返したよ。あんたはアンゴラ刑務所の囚人たちの労働歌を無断で拝借してるのに著作権料を払わないだろ。僕がした事だって同じさ。僕がやった悲しき願いの御陰でイギリス中があなたを待っている。あなたのヨーロッパ・ツアーの道を開いてあげたんだよ。そしたら彼女。あら、それは失礼。あたしシモーン。あなたは? 」
「エリック・バードン」
「座れば」