ビデオに何千ドルもの資金を注ぎ込むバンドは少なくない。 常識的に見れば分不相応としか思えないやり方だ。チャールズの決断はこうしたバンドとピクシーズとの違いを際立たせる一方、彼らのアルバムが出るときのイ ンパクトを薄めてきたのも確かだ。

この問題はバンドにとって無視できないものになってきた。 「Velouria」は当然のように今夏のイギリスのポップ・チャートに乗ってきたが、人気のテレビ番組「TOP OF THE POPS」は彼らの曲を取り上げるのを拒否した。BBCの規則ではビデオが作られているシングルしか放送できないからだ。

「それだけじゃないんだ」チャールズは告白する。「MTVは去年、俺がハマっちまったお粗末な苦境から助け出してくれたんだよ」

「それはこういうわけさ」チャールズは事の顛末を話し始めた。「俺はエルパソ から車を走らせてたんだ。俺が初めて買った大きな黄色いキャデラックでね。で 、まさにエルパソを後にしようとしていた。そしたら朝の2時頃だったかな。国境パトロールの警官が俺の車のプレートに目を止めたわけだ。マサチューセッツ州から貰ったプレートにね」

「俺の車にはCBもあった。メンフィスで取り付けたんだ。トラック野郎たちと交信できるようにね。無線用のハンドル・ネームはビッグ・キャディー・ダディーにするつもりだった。まだ実際には使ってなかったけどね」

「警官たちは俺の車を止めた。麻薬を持ってると疑ったんだろうな。なぜって、 俺たちは国境の近くを走ってた。それにプレートはこの辺の州のものじゃないし CB無線も持ってる。おまけに車高は低いときてたからね」

「ご丁寧にさ、そのとき俺たちはメキシコのピーニャータ(キャンディー入りの 容器)も持ってたんだ。そいつはさ、信じてくれようとくれまいといいんだけど ボストンから持ってきたものだった。姪っ子たちにあげようと思ってね。容器は壊れてたんだけど、それをトランクの中に入れといたんだよ」

「そういうわけで彼らは俺がメキシコに行くと思いこんだわけさ」彼は頭を揺すりながら笑った。それで、そう、こんな感じだったな。「"誓うよ。俺は本当に ボストンから来たんだ"。そう言ったんだ。そしたらさ、警官の一人が急にこう言い出した」

彼は南部の白人の真似をしながら言った。「"ヘイ、俺はあんたを知ってるぜ。 あんたはピクシーズにいる人だろ!俺はMTVであんたを見たよ!」

「ってわけでさ。気がついたら彼らはポラロイドで俺の写真を撮ってた。ショッ トガンなんかを持ったままね。助かったよ。まさにTVのおかげさ」