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彼らの歌の中には、確かに、深くて精神的な何か、見出されるべき何かがある。たとえば1988年のアルバム「SURFER ROSA」の中の"River Euphrates"や"Where Is My Mind"。



あるいは、称賛をもって迎えられた去年のアルバム「DOOLITTLE」に収録の"Monkey Gone To Heaven"、"Debaser"、そして"Wave Of Mutilation"。(このインタビューは1990年)

もし嘘をついているのでないとすれば、フランシスは少なくとも本当のことを隠 しているに違いない。

そして、あくまでこの問題にこだわるなら、ついでに言っておこう。彼の名はブ ラックではない。フランシスでもない。正しくはチャールズ・マイケル・キタリ ッジ・トンプソンIV世なのだ。友人たちはみな彼をチャールズと呼ぶ。

彼のホテルから公園まで歩いているうちにチャールズはだんだん人懐っこくなってきて、突っかかるような質問はしづらくなってきた。彼はちょっと厭世的にみ えた。見るものすべてに対して滑稽な皮肉を浴びせたがるのだ。

彼の発音は分かりやすくて正確だし、とても博識だ。なのに決まって田舎風の話 し方になってしまう。ぶち壊しだ。 "それら" と "あれら"を取り違えたり、時には"ではない" という言葉を落としてしまい、文法的に正確だったはずの会話を台無しにしてしまう。

ずんぐりした体、かなり擦り切れたフランネルのシャツ、破れたジーンズ、それに陽気な性格。25才のチャールズはヨーロッパのどこに行っても上品なメキシコ 料理にめぐりあえないことを呪った。「あいつらはメキシコ料理のコツってやつを掴めないんだよ」彼は決めつけると、頭を振って不信感を露わにした。「簡単なことなのに」

こんなにまでレフリートス(豆を煮込んだメキシコ料理)のことを真剣に考えている男がいるだろうか。そう思うと彼の喉から絞り出される叫びも深い悲劇的な感 じさえする。なにしろ彼は自分の音楽出版社に"ライス&ビーンズ・ミュージック "という名前を付けているくらいなのだ。

「いつか」彼は言う。「俺は自前のメキシコ料理レストランを開こうと思ってる んだ。たぶん此処か、でなけりゃオランダでね。いつか」