心のグラス
とある、小さな場末のバーでカップルが言い争っていた
たわいのない喧嘩のように思えたが、彼氏は帰ってしまった
残された彼女はゆっくりとバーボンを飲み干した
やるせない表情を浮かべて頬に手を当てる
「何かお飲みになりますか?」バーテンが声をかける
「あっ、それでは、ソルティドッグを」彼女は驚いて注文した
「かしこまりました」バーテンは、すばやくグラスを取り出した
「よくお二人でお見えになりますが、今日はお一人ですか?」
バーテンの気遣いに彼女は、「彼と言い争いになってしまって、」
気まずそうに言う彼女にバーテンは微笑んで
「なぁに、若い人は、ちよっとした事で言い争いになるものです」
クルクルパーマのこのバーテン、ちよっとコロンボに似ている
「そうなのでしょうか?」彼女は、不安そうに答える
「もちろん、うちのかみさんと何度喧嘩をしたのか、覚えちゃいません」
ゆっくりと出されたソルティドックを思わず、飲み干す彼女、
「お客さんは心の中にグラスがあると言うことをごぞんじですか?」
「えっ、どんなグラスなんですか?」彼女の目が輝く
「あっ、これは、かみさんの友達の話なので、詳しくは知りませんが、
人の心にグラスがあって、悲しみ、涙、絶望、などのエッセンスを
入れると死にたくなるらしいです」
「えっ、怖いですね」彼女の顔が青ざめる、
「でも、そのグラスに希望と未来、幸福、などのエッセンスを入れたら、
どうでしょう、心のグラスに七色の虹が見えると言われています」
バーテンは話を続ける、
「お客さんに一杯、カクテルを奢らせてください、あっ、でも、これは、かみさん
には、内緒と言うことで、何しろかみさんが嫉妬深かくて、」
バーテンが作ったカクテルは、炭酸が小雨のように降っていたが、止むと
青空のような青色に、その中に七色の虹が確かに見えた
