川沿いの桜並木
暖かい春の日溜まりの中、
香に寄せられた多くの花見客から 少し離れた場所に女性がひとり座っていました
とても綺麗な装飾が施された 小さな箱を両手で包むように持ちながら‥
そこに大人達のいつ終わるとも知れぬ宴に飽きた2人の女の子が近付き話しかけました
『きれいな箱‥』
‥ありがとう
『なにが入ってるの?』
亡くなった姉の
形見なの
姉の想いが詰まって
いるのよ
『想い‥?』
あなた達は好きな
男の子は‥いる?
おそらく姉妹であろう2人の女の子はお互いの顔を見たあと 女性のほうに向き直り、揃って首を横に振りました
女性は柔らかな笑顔を湛えながら少女たちに頷き返すと 姉の想い出を語り始めました
‥すべてを語り終えると じっと聴き続けていた女の子達にもう一度口を開きました
もう少し大きくなっ
たら あなた達も好き
な男の子と一緒に‥
桜の木の下で二人だけ
の時間を過ごしたいと
思うようになるでしょ
う
そのときは
照れずに自分から
誘ってみて
いつ止まってしまうか
もわからない人生の時
の中でね
それはとても‥
とても大切な時間なの
同じ時間の中で
言葉さえもいらないと
そう思ったとき
あなた達は
子供から大人になるの
女性の優しい視線に包まれながら聴いていた女の子達の横顔に 2人の名前を呼ぶ声が届く
手を振り踵を返した2人が家族の元に戻ったことを見届けると 女性はその柔らかな表情をまた箱に向け直しました
ほどなく彼女がその場所を離れた頃、
夕刻を告げるかのような ひんやりとした風が
花びらを道連れるように
吹き始めていました
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