📖今回読んだ本
『生殖記』
著:朝井リョウ

 

※本記事にはプロモーションが含まれます。

※内容に触れるため、軽いネタバレがあります。

 

読後の結論

読み終えたあと、気持ちはスッキリしませんでした。

共感できるのに、理解できるのに、疑問も残る。

だから複雑でした。

 

でも、この”複雑さ”こそが、この作品を読んだ意味なのかと思います。

 

 

■概要(私の理解)

 

同性愛者の主人公は、そのことを隠しながら30数年生きてきて、世の中に対して不満を通り越してほとんど「無」に近い状態にあります。幼いころから共同体から”立ち入り禁止”を叩きつけられきた彼が、自分の中の”しっくり”について考え続けます。

 

異性愛者なら普通のことを、何もかも諦めた彼が、”次”を選ぶためにひたすら考える物語。

 

 

■物語の語り手が特殊で、そこが一番おもしろい

 

この作品が面白いのは、ただ主人公の内面が描かれるだけじゃないところです。

物語は、主人公に備わる「生殖本能」目線で進みます。

 

この生殖本能は、これまで様々な生物に宿ってきた経歴を持ち、人間に宿るのは2回目。

「生殖して次世代に個体を残す」ことが仕事の生殖本能にとって、主人公が生殖を諦めた(諦めざるを得なかった)状態は、強烈な想定外です。

 

だからこそ、生殖本能は興味を持つ。

「この個体の生涯については語り続けておいたほうがいい」

その行く先を観察したい、記したい。その意味がタイトルの「生殖記」に繋がると私は受け取りました。

 

この視点があることで、話が一気に「社会」の問題に留まらなくなるんですよね。

個体の幸福、共同体が求める役割、次世代を残すという圧、そして、”種”としての在り方。近年の生物多様性にも一石を投じるような切り口で、私はそこが本当に面白かったです。

 

 

■共感したこと

 

私は、近年になって同性愛者が認められつつある社会に対して当事者が抱く、

・「今更遅い」

・「今まで散々拒絶してきたことを謝れ」

という感情はとても理解できます。

 

「認められないこと」は、気持ちの問題だけでなく、人生の選択肢そのものを削っていく。

失われた時間や、避けた場所、諦めた未来は、後から社会が変わっても戻らない。

そこに怒りや虚しさが残るのは自然だと思いました。

 

■同時に湧いた疑問

 

一方で、私は途中から心のどこかでこう思っていました。

 

「認められるようになってきているのだから、いいじゃないか」と。

 

これは、悪意ではなく、これからは少しでも楽にってほしいという願いのようなものです。

 

でもこの本を読んで思ったのは、その”善意っぽい言葉”が相手の痛みを雑に終わらせてしまうことがある、ということです。

 

私が「いいじゃん」と言いたくなるのは、おそらく”今”しか見えていないからです。

過去に奪われたものや、苦しかった経験を、想像しきれていないからでしょう。

 

この作品は、読者側の都合のいい正しさまで照らしてくれます。

だから私は共感しながらも、どこか居心地の悪さも感じていました。

 

■まとめ

 

私はこの本に大きな衝撃を受けました。

共感する一方で、自分自身にも疑問が残りました。

だから読み終えてからは本当に複雑でした。

 

でも、割り切れないものを割り切らずに、考え続けさせる。

それが本書の強さだと思います。

 

 

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