興味深く拝読いたしました。
先生がご経験された(居住用不動産処分を含む遺産分割における)処分許可の審判不要の運用をしている裁判所は、東京家庭裁判所でしょうか?ちなみに、大阪家庭裁判所でも同様の運用がなされているとの別のウェブページがありました。
(かもめ司法書士事務所https://ameblo.jp/je77/entry-11898602006.html)
記事は、2012年にお書きになられていますが、現在もその運用に変化はないのでしょうか? もしよければ、教えていただけると助かります。
この論点を調べていましたが、直接言及した文献は見つかりませんでした。先生のご報告により当該許可審判不要の運用の理由を知ったとき、何とも言えない、違和感が生じました。それは、遺産分割に遡及効があるとしても、その遡及効をもたらす遺産分割案の是非を問う段階で許可審判が必要かどうかを問題にしているのに、遺産分割を行ったその後の結果(効果)でその前提となる手続きの要否を判定していることに対してのものでした。
また、仮に当該運用が正当だとしても、換価分割の場合は、現物の取得がないため遡及しないと考えられており(潮見佳男編「 新注釈民法⒆相続⑴」有斐閣〔2023〕493頁)、 換価分割にかかる売却不動産については、遡及効は否定されることとなるため、許可審判のない当該売却は、無効になると考えられるのではないかと思いました。
さらに、他の共同相続人との間の遺産分割協議は、相続財産の処分行為と評価することができ、法定単純承認事由に該当するというべきであると判示した裁判例があります(大阪高決平成10・2・9家月50巻6号89頁、判タ985・257)が、 遺産分割協議が相続財産の処分であれば、859条の3の「その他これらに準ずる処分」に該当するとの解釈もあり得え、何より、当該運用の理由となる規範をこの例に当てはめると、法定単純承認をしているのに、遺産分割の遡及効により相続放棄が可能となって結論が逆になってしまいます。
居住用不動産の処分に伴う本人の居住環境の変化は、その心身の状態に多大な影響を及ぼします。許可制度は、その影響の重大さに鑑み、成年後見人の代理権の行使に一定の司法的規制が加えられたもので、 一般規定である成年後見人の身上配慮義務(民法858条)の特別の規定とされています。 売却、遺産分割のいずれにしても(遡及しようがしまいが)、本人が自宅に住めなくなれば居住環境の変化によりその心身の状態に大きな影響が生じることに変わりはありません。
許可審判が必要とされる不動産の処分とは、もはやそれを居住の用に供し得なくするような処分、もしくはそのおそれのある処分であるとされています。 売却、遺産分割のいずれにしても(遡及しようがしまいが)、もはやそれを居住の用に供し得なくするような処分、もしくはそのおそれのある処分に該当すると考えられます。
許可制度の実質的機能は、問題となっている不動産の処分の妥当性を家庭裁判所によってダブルチャックさせることです。つまり、裁判所からみてもその処分が妥当であれば、処分は実現できるわけですから、許可制度が適正な後見事務遂行の妨げになることは決してないわけです。したがって、許可制度の対象範囲は、対象不動産と対象処分行為のどちらの点についても、できるかぎり広く捉えていくべきです。 そうした観点から、許可制度に該当するか否か微妙な場合には、予防的に許可を得ておく(若しくは許可制度の対象としておく)べきだと考えられます。
もっとも、実務においては、江木先生を見習いたいと思いました。先生は、まず、遺産分割協議(案)について家庭裁判所と事前協議をしていらっしゃいます。そして、問題がないことの確認とともに許可審判の要否について尋ね、遡及効を理由とする許可審判不要の回答を得ていらしゃいます。許可審判を得ずにした居住用不動産の処分の効力は無効です。本人の居住用不動産の処分を含む遺産分割に許可審判を要するとする見解に立つとすれば、その遺産分割も無効になります。管轄家庭裁判所によっては、運用が異なっている場合もありますので、無用な紛争や注意義務違反(民法852条・644条)を避けるため、先生と同様のプロセスを踏むことが重要だと思いました。
なお、管轄家庭裁判所が許可審判不要の運用をしている場合でも、遺産分割協議において、その後に紛争が生じる可能性のある事案を担当した場合は、紛争予防(リスク回避)のために、同裁判所と事前協議のうえ、許可審判を申立てておくことも考慮要素になると考えます。協議内容に不満を持つ他の相続人から許可審判を得ていないことを理由に後から遺産分割協議無効を主張される可能性を完全に排除することはできないからです。