何時間寝てただろうか…
まだ外は明るい…

妙な眠気と身体の気だるさで
なかなか起き上がる事が出来ない…

枕元にある時計を見る…

「2時半か…。」

手を伸ばしてTVをつける…


現実に引き戻されるのに大した時間はかからなかった。


「そうだ…水出ないんだっけ」
確認するように呟き、黙々と着替えを始める…


陽が落ちると肌寒い3月初旬だから迷わずダウンを羽織る


街の様子が気になって仕方ない…

鍵と財布と携帯をポケットに押し込み玄関を出る…


マンションのエントランスを出て
すぐに嫌な光景が目に入る…

泥だらけの地面に…
平行感覚が無くなるくらぃの凹凸…


「歩く…か。」

呟くと同時に帰宅途中に見た凄まじい光景の方角へ歩き始める…


車の中から見ていた被害より
強烈な被害だったという事に気付く……。

道路の亀裂…
液状化で出た泥…
飛び出したかのようなマンホール

信号機や街灯は沈み込み
バス停までもが傾いている…


数名が携帯にその姿を収めようと
被写体に向かい手を伸ばしている…


そんな姿を横目に
近くのコンビニを目指す…

「凄い砂埃だな…」

マスクが必要なくらぃに舞っている…


暫くして愕然となる…

目指したコンビニの下に70㌢程の隙間…

勿論、その周りは大量の泥。

コンビニは営業を断念していた…。

しかも
その目の前の交差点はグチャグチャな状態…


仕方なく
離れたコンビニまで歩く事に…

何年か前に建ったホテルの脇を通り駅の方へ歩き進む…


その先で更に不思議な光景に…

車道と歩道の間のガードレールは波打つように沈み込み…

一面水浸しで横断歩道の白いラインは微かにしか見えない…


水道管が破裂したのは容易に想像出来た…


あれだけの長い強烈な揺れ…
その影響はアチコチに現れている。

目指したコンビニは
何とか営業していた…

店内は殆んど品が無く、目当てのマスクすら無い…


煙草をワンカートンと電池だけを買う事にする…

愛煙家の自分には
煙草を手に入れられただけでも妙な安心感はあるのだが…

目当てのマスクと身体を拭く為のウェットティッシュが手に入らないのが残念で、更に駅の方へ歩き始める。

またすぐに
とんでもない光景が目に入る…

たまに呑みに行っていた焼き鳥屋が見事に沈み込んでいる!!


更にその通り沿いの電信柱は例外無く傾いている…


民家も小さなビルも全て同じように傾く光景……。

「酷すぎる……」

それしか言葉にならなかった


暫し愕然となりながらも
更に駅の方へ…


進む度に…
震災が遺した爪跡は目の当たりになり、ただただ歩く事に集中するほかなかった…。


たどり着いた大型スーパーは
出入り口を制限して営業していた…

店内は……人、人、人。

誰もがペットボトルの水や食料を手にしていた…


俺は目当てのマスクとウェットティッシュを手に入れるだけで他の物には興味を持たなかったのでスグに店を出る…


買ったマスクをして
周りを見渡すと……

やはり悲惨な光景………。


離れて暮らす娘達に状況をと思い携帯にその光景を収める…


目的を果たしたからなのか
見慣れたからなのか…


来る時よりも冷静になっていた。

何枚もの写真を撮り
歩きながら手紙を送る……


すぐに返信があった…

「友達から聞いてたけどホントに凄いね…」


彼女達も長く住んでた街だから、変わり様に偉く落胆していたのは想像出来た…。



帰り途中に…
たたずむ夫婦がいた…

液状化の起こった街に住んでる方ならよくわかるだろうけど…

とても重苦しい雰囲気が…
その夫婦の背中にあった…。





まだまだ
震災で街が傷付いたばかりの事である……



大震災の翌日…
自宅のある街に戻って呆然となった……。


まるで様子が違う街…

砂埃が舞い、道路のアチコチから吹き出た水…

電信柱や家は傾き、信号機すらもまともに動いていない…。


街を歩く人々の顔から笑顔が消えて不安な表情しか感じられない…

液状化…

言葉は知っていても
実際に目の当たりにした事はなかった……震災当日まで…。






私の勤める会社も…
埋め立て地にある。

震災当日、
今までに経験した事もない
激しい揺れの最中に

電信柱の周りや
道路の亀裂したところから

大量の泥水が吹き出ていた…


その水は暫くして
排水溝へ流れていったが
残された泥がそこら中に溜まっていた…。

まるで海岸にでも来たような砂と小さな貝殻…

そんな風景に恐怖と驚きを感じながらも、東京湾を挟んだ対岸のコンビナートの大火災に絶望的な不安を感じた…

電話は殆んど通じず
家族や友人と連絡がとれたのも手紙がやっと…

それもすぐに
繋がりにくくなり、また孤島に残されたような不安な時間を過ごす。

従業員の殆んどは
既に帰路についていたが…

震災の影響で帰って来ない部下のセールスを一晩中事務所で待っていた…

携帯のTVの映像と
アナウンサーの声、緊急地震速報とエリアメール…

夢なのか現実なのか
繰り返し繰り返し鳴る携帯の音に頭の中がおかしな感じになりつつも部下を待つ…


そして…夜明け。

何事もなかったような
静かすぎる夜明け……

見上げた空も…
無機質な感じでしかない。

一体どうなるんだろう…

眠気で思考能力が低下したのかそれ以上は何も考えられなかった。


その後、
部下も無事に戻って来たのでやっと自分も帰宅する事に…


海岸沿いの駐車場から
対岸を見るとまだ炎と黒い煙が上っている…

「帰ろう……。」

一言だけ呟き車に乗る…

会社からは車で15分かからない距離の自宅へ向かう…




橋を渡り…呆然

「なんだこりゃ…」


酷すぎる……

駅付近まで来て更に現実を思い知らされる…


液状化…
そんな言葉で済ませられないくらいの街の変わり様に…


道を進めば進む程に
被害状況が悲惨なものに…


「沈んでる……!?」


そう、街が沈んでいる…

傾くとか凸凹とか表現は色々あるのだか…

沈んでる…が
一番あってると思った。


泥まみれな街に自衛隊やら消防車やら……

壊滅的なダメージの中、人々達は何を目指すのか…

ただ黙々と歩いている…。


自分自身…
ただただ呆然と車を運転し帰宅してる…


うまく現実を受け止められず
放心状態になりかけながらも…無事帰宅。



両親に
「会社大丈夫だった?街は酷いでしょ?…大変な事になったょね、どうなるのかね…満月満月満月達は大丈夫なのかな?」

「会社はなんとか…街は凄いょ…満月満月満月とは連絡とれたょ…みんな無事だって。」

「無事なら良かった…。あ…水出ないから…トイレとかも流すの浴槽の水でね。」

そんな会話をしながら
自分の部屋へ……



部屋の中は
あまり変わってなく…

少しだけ安心感を感じ
強烈な眠気に襲われて…

倒れ込むように布団の中に…。