中学生の頃、僕は学校に通わない系人間だった。
細かく言えば中2の頃。友達を作り方が分からず、馴染めず、というありきたりでしょぼい理由で。
今思えばそんな大したことがない理由だが、その当時の僕にとっては大問題であった。
その当時の心の支えは、アニメと漫画。
特にシャーマンキングが大好きで、学校をサボってアニメイトに行ったり、
主人公の葉くんのように自然と一体になりに河原まで向かったりしていた。
ビビりなので、夜の墓地には行けなかったけど。
初めて買ったCDも、シャーマンキングのCD。
「歌の万辞苑」というキャラクターソングのアルバム。
他にも関連のCDをいくつか買ってずっとずっと聴いていた。
買ったCDの中に「シャーマンキング コミックスイメージアルバム」というものがあった。
ドラマパートとイメージ楽曲が入っているものだ。
とてつもなく好きだった曲が、「りんごウラミウタ」
主人公麻倉葉の許嫁である恐山アンナの好きな歌手、あわやりんごが歌っているというものだった。
あわやりんごの名前から察するに椎名林檎さんをオマージュしたキャラである。
で、当時の僕は、J-POPやらの音楽シーンにめちゃくちゃ疎く、
「椎名林檎」という歌手の名前や、ヒットした楽曲「本能」のサビをぼんやり浮かべるので精いっぱいだった。
聴いてみたい。あわやりんごの元となった椎名林檎の楽曲を。
思い立った僕はCDショップで一枚の円盤を買った。
椎名林檎 「ギブス」
今思えば、聞き覚えのある「本能」ではなく、このCDを買ったのかは謎である。
買った理由は定かではないが、当時の僕はこのジャケットを手に取った時の衝撃は覚えてる。
林檎さんの表情と手に持ったナイフ。言葉にできないほど、心がざわついた。
余談だが、僕は刃物が大の苦手だった。きっかけとかはなく、とにかく危ないものという認識が強かったのだ。
そのジャケットに写っている林檎さんのナイフは自身の手を切り裂いていて、恐怖も感じた。
そして、それ以上に惹かれるものがあったのだ。
曲の内容も自分の知らない世界を歌っていた。
曲中の「あたし」の気持ちは、子供の僕には理解出来ないが、想像はできるような、不思議な感じ。
この時初めて大人になりたいと思った。
自分には、四月が来ても思い出すものはなにもない。ぎゅってしていて欲しいなんて気持ち全くない。
それでも椎名林檎さんの書く曲はとてつもない魅力を放っていた。
そこからは少しづつお小遣いでCDを買っては聴き、自分の中にない知らない気持ちを感じて、
自分も同じ体験をして同じ気持ちになったかのような気がして、大人になったような気がしてにやにやしてた。
気のせいの域に収まらないくらい気のせいなのだが。
そうそう、母に申し訳ないことをした記憶が一つあった。
母と二人で出かけたときのことだ。
確か、母が友人たちと食事をするとかなんとかで、それに着いていった、とかだった。
待ち合わせまで時間があったのか、たまたまCDショップに入り、
うろついていると椎名林檎さんの見たことのないアルバムを見つけた。
当時は音楽番組も滅多に見ないし、雑誌を読むなんてこともしなかった為、
CDのリリース情報なんて全く入ってこない状態だった。
お小遣いは持ってきていない。しかし、このCDは欲しい、絶対に欲しい!
僕の母は、厳しい…というか、怖い母だった。
しょっちゅう怒られるし、悪いこと(癇に障ることも含め)なんかしようもんならぶっ叩かれた。
我儘なんて言ったら怒られる。「買ってほしい」なんておねだり、言えない。言えるわけがない。
それでも、どうしても欲しかったので恐る恐る交渉にでた。
CDを持って一言「これ、欲しい」というのにめちゃくちゃ勇気を使った。
母はCDを見つめながら少し顔を顰めて、何か言いたそうだったが買ってくれた。
当時は、「我儘言ったのに買ってくれた!すげぇ嫌そうな顔だったけど!!よくやった自分!!!」と
大勝利ともいえる喜びを感じていた。
その後、嬉しさいっぱいで母の友人たちとファミレスに行った。
嬉しくて嬉しくて、「今日CD買ってもらった!」と母の友人のうちの一人で
たまにうちにも遊びに来てくれる方に報告をし、CDを見せると笑われた。
そのあとの僕はめちゃくちゃ不機嫌になったのを今でも覚えてる。
大好きな椎名林檎さんのCDを見て笑うとは。よくわからないことも言われるし。
と、当時は思っていたが、今になればわかる。
芋みたいな中学生である僕が、「加爾基 精液 栗ノ花」というアルバムを持っていたら、
笑うことはないとは思うが、母も顔を顰めるし、笑ったその人も少しからかいたくなったんだろうな、と。
当時の僕へ
今、僕は君が憧れた大人になったぞ
理想とはきっと違うだろうけどね。
