あらすじ。
レインハウスという場所で黒猫レインと詩人は楽しく暮らしていました。ひなたぼっこをしたりふざけっこしたり同じ夢を見たり。ところがある日。レインは窓の外にプカプカ飛んでいるシャボン玉を追いかけてそのまま詩人に内緒で冒険の旅に出かけました。
目が醒めて詩人はビックリ。心配になった詩人は探偵を雇い世界中にチラシを配りました。
「黒猫レインを探しています!!! 体重4kgのグリーンの瞳の黒猫です。尻尾は長いです。にゃまままと自分の名前しか喋れません。発見者にはビッグな謝礼を。またひとりでは寂しいのでなにか事情があるワケアリの黒猫さんも大歓迎です。カツオフレッシュパック食べ放題です」
これはレインハウスを訪れた「ワケアリの黒猫たち」の物語です。
100匹の黒猫物語 No.2 ハリーとケーンの場合
ハリーとケーンがレインハウスにやって来たのは大雨の夜でした。
「おーい。詩人っているかー?」
「よーい。黒猫ハリーと黒猫ケーンがやって来たぞー」
詩人は門を開けました。
「どうした?こんな大雨の日に。
ずぶ濡れで風邪をひくから早く中に入んな」
「ふん。こんな雨ぐらいどうってことないぞ。
オレたちは嵐の夜に生まれたんだ」
「そうだよ。大雨なんてへっちゃらだよ」
「そうか。オマエらすごいんだな」
「なあ。詩人てアンタか?カツオフレッシュパック食い放題なんだろ?」
「20億円も食べ放題なんでしょ?張り紙に書いてあった」
「ああ。でもオレが探しているのは黒猫レインなんだよ」
「レインもハリケーンも雨降りという点では同じさ」
「そうだよ。おんなじ黒猫だしね」
「ふむ。オマエらは女の子かい男の子かい?」
「オレたちはオトコだよ」
「そうだよ。ボクらはオトコの中のオトコだよ」
「はははは。そうか。レインは女の子なんだぜ。
でもいいよ。かまわないよ。ずいぶん強そうな黒猫兄弟だ。いっしょに暮らしたらきっと楽しくなるだろうさ。ようこそ。レインハウスへ。みんなに紹介するよ。大歓迎だ」
ハリーとケーンは嵐の夜に生まれたせいか大雨なんかへっちゃらでワクワクします。水たまりで泥遊び。
泥だらけの脚でピカピカの外車の上をトコトコ。
「あー。悪い黒猫め。またオレのベンツを汚したな!」
ある金曜日の夜。
「ねえケーン。あそこのマンションがもうすぐ完成するよ」
「そっか。セメントがちょうどいいかもな」
「今夜はボクが最初にセメントぷにゅぷにゅしてもいいかなあ?」
「もちろんだよハリー。この前はオレが先だったからな」
3日後の月曜日。
すっかり固まった「ネコの足跡のコンクリート」を発見して親方はカンカン。
「ったく悪い黒猫兄弟め。シゴトが増えて困るじゃなか!」
「ねえケーン。夢川さんちの軒下にでっかいお団子があったよ」
「それは妙だな。夢川のジジイは大のネコ嫌いだ。罠だ」
「そうかなあ。おいしそうなお団子なのに」
「ハリー。オマエ先週さ。夢川のジジイの盆栽で爪ガリガリしただろ?」
「うん。見つかって将棋の駒を投げられた。よけたけど」
「それだ。きっと毒入り団子だぜ」
「じゃあおいしくても死んじゃうね」
「そうだ。ヤバいよ。絶対に剣呑だ」
「ねえケーン。最近エサくれるヒトが減ったね」
「そうだな。ネコ嫌いの夢川のジジイが町内会長で地主だろ。ノラ猫撲滅運動の急先鋒だからな。みんなアタマあがんないんだよ。逆らったら立ち退きだからさ」
「お腹空いたね」
「オレたち悪さバッカしてるからしょーがないよ」
ある大雨の夜。
電柱の張り紙をふたりは見つけました。
「黒猫レインを探してます。情報提供者には20億円とカツオフレッシュパック食べ放題。レインハウスの詩人へ連絡ください。(真夜中でもいいです)」
「おい。ハリー。ここへ行こうぜ」
「うん。行こう。20億円が食べ放題だね」
「カツオフレッシュパックも食べ放題だしな」
「でもレインじゃなくてもいいのかなあ?」
「いいんだよ。オレたちは黒猫だから」
「詩人てどんなヒトかなあ?」
「詩人てのは世界どこへいっても変人て相場がキマッテル。
でもな。詩人てのはなぜかネコが好きなんだよ」
「じゃあだいじょうぶだよね?」
「たぶんな。もしネコ嫌いの詩人だったら」
「だったら?」
「そいつはニセモノだ」
そんなこんなでハリーとケーンはレインハウスで暮らすようになりました。ふたりは用心棒のようにレインハウスをパトロールする仕事をやりました。
「おーい。ちび黒猫たちよ。ベンツで遊ぶ時は脚を綺麗にしてからだぞ!」
「よーい。ロボ君。セメントをぷにゅぷにゅしたら親方が困るからダメ!」
ふたりが「20億円というのは食べ物じゃない」と知るのは
ずっとずっとあとのコトです。レインも帰ってきて黒猫が100匹になったもっとあとです。
おしまい。