わたしには、史上最大に苦手なものがある。
『それ』を見ると、足の指が全部きゅーっとなり、鳥肌が立ち、心臓がバクバクしてきて顔がピクピクし始める。
『それ』の名前を聞くだけでも、見た時ほど酷くはないにしても、全身がぶるっとして背骨が脳天から飛び出そうな気分になる。
『それ』の写真も、もちろんダメなのに、季節柄、夏になると百貨店からのダイレクトメールなどに大きなインパクトをこれでもか! というほどアピールすべく、『それ』の写真が印刷されている葉書が郵便受けに入っている。
だから、わたしは郵便受けを開けない。
誰かに頼む。
夏の風物詩のような存在ではあるけれど、何かの間違いで『それ』の葉書やチラシが入っているかと思うと、秋でも冬でも春でも郵便受けは開けられない。
だから、お祭りに行く時は『それ』がいるのかいないのかを誰かに確認してもらってから行く。
『それ』とはお祭りにいる、『すくうアレ』である。
お祭りの『アレすくい』の主人公である。
史上最大苦手歴40年超えなので、『それ』に関しては独自のセンサーを身につけた。
このセンサーは、自分でも本当に驚くけれど
1000%の力を持つ。
大きいお祭りに行けば、
あ! こっちに行くといる、とわかる。
はい、正解。
昔ながらの中国料理店などにもたまに存在しているが、そういう時はお店の前に着くと足の指ピクピク、顔がピクピクとセンサーが作動する。
人が持っているうちわが近くに来てもピクピクセンサーが作動。
なんなら、道を歩いていても『それ』がいる民家が近づくとピクピクセンサーが走る。
前置きがかなり長くなったが、実はもう一つピクピクセンサーが作動したのだ。
仕事の打ち合わせで日比谷にある椿屋珈琲店に出向いた時のこと。
都心部に行くことが皆無に近いわたしは、電車で日比谷駅を降りたあと、どの出口が椿屋珈琲店に近い出口なのかが分からずに、人が多く歩いて行く出口から地上に出た。
そして、待ち合わせまで少し時間があったので、椿屋珈琲店の場所を探しながら日比谷の街を徘徊していたところ、微弱のピクピクセンサーが作動した。
でも、いつものピクピクと違う。
なんだか、叱られているような、見張られているような、でも少し笑ってしまいそうな初めてのセンサー。
何かいる……
というより、見てはいけないものがわたしを見ているような気がする。
そっちの方を見たくない。
でも、怖いもの見たさも否めない。
でも、見たくない、いや、見てはいけない。
わたしが知ってはいけない……
そんな風に頭の中が忙しくなってきたわたしは、ついに、怖いものを見たい気持ちが勝利した。
そして、センサーの鳴る方へ。
そして、目撃してしまった。
そして、固まる。
そして、息を吸いながら声を出す。
こいつ!
なにやってんだ!?
・・・( ゚д゚)
本邦初公開。
レディースかつらのシニアモデルで、日比谷シャンテにポスターが。
こんなことをやっているなんて、誰も知らなかった。
っていうか、気持ちが悪い。
しかし、いいことを思いついた。
これは、遺影にすればいい。
笑えるお葬式になるだろう。
その後、わたしの胸の中だけにしまっておいた、この仰天ニュース。
妹 1 から『かつらモデルのポスター見た? あれ遺影にしちゃおうぜ! 』と、電話があり。
妹 2 から『シニアモデルのポスター見た? 遺影にするでしょ、あれ!』と、LINEがきた。
父は 『まったくいい年こいて。遺影に使ったら楽しい葬式になるな!』
妹1よ。わかるよ、わかる。
妹2よ。わたしも同じ気持ちだ。
父よ。母より長生きする気まんまんなのは実に素晴らしい。あなた、一応病人ですが。
わたしは、やはり、この家を選んで生まれてきたんだ。
それにしても、妹たちと同じことを考えていたのは面白い。間違いなく父から受け継いだものだろう。
母よ。
何も言うことはありません。
あなたは自由です。
長生きしてください。
長女。

