朝の通勤電車。

彼は今日も人に押されながらスマホを見つめる。

SNSのタイムラインには、笑顔で並ぶ同僚たちの写真が並んでいる。

昨日の飲み会で、彼も同じように笑って写っていた。

 

――「本当は、楽しくもなかったのに。」

 

上司の冗談に合わせて笑った。

同僚の愚痴に「そうだよね」と相槌を打った。

そのたびに自分の心が小さく声を上げるのを、聞こえないフリをしてきた。

 

「気づかないフリ」。

それは摩擦を避けるため。空気を壊さないため。

ずっとそう思ってきた。

でも、今になって気づく。

 

――それは賢さじゃない。ただ、自分が傷つくのを恐れていただけだ。

 

窓の外に、早咲きの花が見える。

艶やかで、鮮やかで、まるで全てが美しく見える。

けれど、その根は泥に埋もれている。

 

「俺も同じだ」彼は思う。

笑顔で飾った外側の下に、本当の自分は泥の中で息をしている。

 

もし声をあげたら嫌われるかもしれない。

でも、このまま黙り続けたら――生きていながら死んでいくような気がする。

 

次の駅に着いたとき、彼は深呼吸をしてスマホを閉じた。

今日も笑顔を貼り付けるのか?

それとも、小さくても「自分の声」を出してみるのか?

 

電車のドアが開く。

艶やかな花の下で、彼は小さくつぶやいた。

 

――「叫び生きる、私は生きてる。」