アオミミガメのアオエはイチゾーと暮らしている。

アオエは司法試験の専業受験生でイチゾーに衣食住を提供してもらっている。飼われていると言われても否定はできないが、専業受験せいでいさせてもらえるのは残り1年である。今年の受験までの間、すでにイチゾーだけが働く生活の困難さを経験しており、あと1年という判断も周りに迷惑をかけつつのぎりぎりの決断であった。イチゾーや周囲の人たちには感謝しかない。

 

ある日、イチゾーが夜勤の前であったため、アオエはトマトパスタを作ろうとした。パスタを作るのは久しぶりだから、パスタのレシピ本を2冊持ち出してきて、ざーっと流し読む。

Aの本では、本場の味を出すには余計な調味料は入れない。オリーブオイルでニンニクと唐辛子を温めて、そこにトマト缶を入れ30分くらい煮詰める…と書かれていた。

Bの本では、プロのテクニックとしてトマトの種は取り出し、トマト缶だけでなくフレッシュトマトを加えるという手法が載っている。

アオエは、「(私が)前につくったレシピ(Aをベース)にしたのって凝ったやつだったんだね。あんなに煮詰めなくてもよかったんだ」とイチゾーに話しながら、まあ今日はAとBのレシピを軸に簡略化すればいいか、くらいに思って本を閉じる。そして家にはトマト缶、ツナ缶、玉ねぎとキャベツがあるからそれを具材にしようと決める。

ソファで休んでいたイチゾーも動き出す。夜勤前に仮眠をしたいからとのことだ。二人の共同作業が始まる。

 

イチゾーが食材を切り分けてくれたので、アオエはまず玉ねぎをオリーブオイルで炒め始める。

しかし、途中で同時にお湯をわかさねばと、火を止めて鍋にお湯の準備をする。すると、イチゾーは「じゃあ炒めるほうやるわ」と言う。アオエは自分で段取りを考えていたからもやもやとしつつ、「いいよ、やるよ」という。これに対して、イチゾーは「夜勤前で気が急いているから、アオエちゃんのこだわりのトマトソースはまた今度にして」とすこし怒ったようにいう。

アオエはむっとしながら「そんなつもりはないって!」と反論するとともに、あれ?…このこだわりのトマトソースってロースクールでの私と一緒じゃん…と頭をよぎる。その後はだまって作業を続け、アオエはパスタを完成させる。

 

「いただきます」と水の入ったグラスで乾杯し、食べ始める。

「おいしい」とイチゾーは笑顔で言う。アオエも「おいしいね」という。

だが、アオエはしばらく食べていて、少し物足りないなぁと気が付く。

なんでだろうと味わっていると、そうか、塩気が足りないんだと気づく。トマトソースの段階で塩や胡椒を入れ忘れていたのだ。アオエとしては、パスタをゆでるお湯をソースに加えるからいいかと思っていたが、今回のお湯は塩分を減らしていたのだ。またAのレシピにはほとんど塩を入れる話はなかったが、具材はアンチョビであった。

そう。アオエはトマト缶の裏に載っている主婦のレシピもマスターしていないのに、AやBやと手を出して、どれも中途半端なものになってしまったのだ。

 

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と、ここまで書いてみて、この文章自体が何について書かれているのかものすごーく読みにくいし、読み返してみてなんとも気持ちが悪い。

二人の日常について書きたいのか、レシピのたとえで学説を使いこなせない自分を表したいのか…。

 

でも、悲しいけれど、このぐちゃぐちゃがいまの私の頭の中であり現在地だということにようやく気が付いた。

だってこの日の勉強時間はゼロ。

そして私がやりたいことはブロガーになることじゃない。読者になることでもない。私小説を書くことでもない。

司法試験に落ちて悔しい。合格したいんだ。

 

こんな文章は個人的にものすごく恥ずかしい。

けれど、書き出してみるまではなぜか受験生を名乗っているけれど実態は二人暮らしで全く試験のための勉強をしていないという現在地すら見えていなかった。だから、いつか振り返った時にこのときの自分を笑い飛ばしてやりたい。それまでは自戒のために残しておこうと思う。