「釣りに行こう」
誘われて即答できなかった。
思い返すとあの人はいつもいつも怒ってた。
「もう帰るぞ」と言われたら直ぐに支度をしないといけなかったし、わたしも娘たちも竿を仕舞う時必ず糸や針が絡んで、舌打ちされた。一番子供らしい娘は、まだ帰りたくないと駄々を捏ね、一度愚図愚図した私達の目の前でクルマが発車された。
「え、置いていかれたの?私達」
不安げに娘が呟いて、私は明るく言った。「きっとジュースだよ!今のうちに片付けよ」
上の子が下の子を叱り、綺麗に竿を束ね、黄色のバケツを洗いゴミを纏めた時には手元が暗くて、私は携帯のライトをつけた。
「帰ってこないね」
最悪荷物は捨ててでも帰ろう。近くの民宿を探して、と思ったら見覚えのある黒い車が戻ってきた。娘たちは「ごめんね、遅れて」と言った。「私たちが遅かったから」と。
最後にわたしが釣ったヒラメを一瞥し、「ママスゴイんだよ!」とはしゃぐ娘に笑いかけ、助手席に乗り込んで直ぐに運転席に移動した。
「なんで?」
彼はたちまち不機嫌になったけど私はまだ死なせたくなかった。車の中は、もう充分に酒の臭いがしていたから。
何年後かに元夫が「あの時はいつもいつも腹が立っていた」と言っていた。
子供らしさを無くした娘を見る度に、何故もっと早く決断しなかったのか、何故あんな小さな箱に居たのか、大きな海へ出たとき、私は孤独だったけれど自由であり湧き上がる気持ちに叫び出したいくらい、幸せを感じていた。















