窓があった。
数多の本を、数多の歌を、数多の世界を集めた図書館に。
たった一つ、窓があった。
あまりにも異質な窓が。
採光の為のものではない。
なぜなら、この空間は、暗いようで、明るい世界だから。
なぜなら、この世界は、明るいようで、暗い世界だから。
不思議な、不思議な世界。
その中に、一つ、窓があった。
なぜそこにあるのか、誰も知らない。
知っていそうなのは、司書か、はたまた、「図書館そのもの」か。
ただ、唯一の窓が、どこかにあるという。
おっと、自己紹介が遅れたな
俺は「古賀 明」。
ごく普通の高校生だ。
バベルの図書館、といった物語を語ってる語り手、と言われてる。
今回は「バベルの窓」と呼ばれるお話になってるぜ。
どんな窓かって?
それはこれからの語りの中で知ってくれ。
それじゃ、どうか「いい夢」を。
ん?どういう事かって?
今になてそれを聞くのか。
ま、そのうち気付くさ。
case:5 「バベルの窓」
沢山の人がいた
沢山の世界があった。
沢山の物語があった。
本を読めば、それはあなたの中に映る。
詩を読めば、それはあなたの中に響く。
読み耽れば読み耽るだけ、本に飲まれる。
あぁ、こんな世界に行ってみたい。
そう思ってしまえば、きっと本に飲み込まれてしまう。
だから、ここでは本を読むのにコツがいる。
けれど、きっとそれはとてつもなく難しいことなんだ。
ようこそ、いらっしゃいませ。
バベルの図書館、へ。
ここは、多くの本が並び。
数多の歌が並び。
そして、
並びきらない程の人生がある場所です。
何か、お探しですか?
求めている物は、願えばその手に。
求めていない物はきっと、いつまでもあなたの目には触れません
出会いは、必然なのです。
それを、あなたが望むのなら。
なぜなら、ここはバベルの図書館。
本もまた、人生なのです。
ですから、きっと貴方の元に、届くでしょう。
けれど、お気を付けくださいませ。
終わりのない本を手に取れば、貴方は続きになるかもしれません。
終えることのない歌に気付けば、貴方も終えることのない歌になるかもしれません。
なぜなら、ここはバベルの図書館。
どうぞ、お気を付けくださいませ。
…本日も、バベルの図書館をご利用いただき、ありがとうございます。
バベルの窓。
この世界に唯一ある、窓。
その窓を、覗いてはならない。
あまりにも覗く人が多いので、注意書きがされているほどに。
この窓を、覗いてはならない。
そう、目の前にある窓。
ただの小窓。
なんの変哲もない、ただの小窓。
でも、それはこの空間の唯一の窓。
何が映るのか、知りたい。
知りたくなってしまう。
注意書きがされているせいもあるかもしれない。
あぁ、禁止されていると、それを知りたくなるという欲求が出てしまう。
恐ろしい、恐ろしい。
見たい、けれど見てはならない。
それはまるで、御伽噺や、古い民話の中の話のように。
開けてはならない箱や、開けてはならない扉のように。
知りたいという欲求。
好奇心。
駆り立てられる。
一歩、また一歩と近づいていく。
司書は近くにはいない。
見るなら、今。
そうして、私はそこを。
その窓を、覗いた。
数多の本が眠る場所。
数多の物語が眠る場所。
多くの人が、その窓を覗いてしまった。
未来が見える窓、とも。
過去へと続く窓、とも。
言われているその窓を。
覗けばどうなるのか。
それはきっと、誰にもわからない。
飲み込まれた人にしかわからない。
未来へ行くのか、過去へ行くのか。
はたまた、この図書館のどこかで、本になるのか。
それはきっと、覗いた人にしかわからない。
いや、探せばきっと、どこかにあるのだろう。
「窓を覗いた結末」という本が。
あまりにも広大で、あまりにも不思議なこの図書館のことなのだから。
あら、本日はお帰りですか?
では、当館はこれにて閉館させていただきます。
えっ?
あぁ、あの窓ですか。
どうか、あの窓は覗かないでくださいませ。
何が起こるか、私にも保証いたしかねます。
というより、私すらも知らないことがまだまだあるのですよ。
覗いていた方がいた?
そうですか…。
いえ、お客様は気になさらないでくださいませ。
され、それでは閉館させていただきます。
また、当バベルの図書館のご利用をお待ちしております。
ご利用の際は私、あ、名前の方は伏せさせていただきます。
バベルの司書、を御呼びくださいませ。
それでは、またのご利用をお待ちしております。