「どうしたの?」
私の質問には、やっぱり答えず
ユノはキョロキョロと小動物のように頭を動かして
「外に出ます」
と言って、私の腕を引っ張り駆け出した
私は不思議に何も不安にならなかった
そんな事より、ユノが掴む指の優しさが、すごく嬉しかった

外は薄明るく、朝が始まる空

新鮮な濃い空気に一瞬クラクラとした

ユノは何故、私も一緒に外に出させたのか、今でもわからないけれど、あの時確かに、私たちは同じ空気を感じていた

同じ思いをしていたのかもしれない

大事な人が側にいない寂しさ

空気のように、存在していた当たり前の大事な人

私は、あの時、ユノの周りに起きた事を知らなかった

今なら、声をかけれたのに

大丈夫、5人はいつかまた揃う

お姉ちゃん見てる?
私もいつか、お姉ちゃんとまた生きたい
ユノの速度と合わせて走った

夏の青い匂いが、今でも胸をしめつける
どの位走っただろう
公園のような広い芝生、キレイな緑色、ユノが走るのを辞めた
そして「気持ちいいですね!」と瞳をキラキラとさせた

不思議だった
2人でいる世界に違和感がなかった

「ぼくは、今自由です」と言って、芝生に大の字に寝転んだ
そんなユノが羨ましくて「私も!」と言って寝転んだ

空は朝を迎えていた
「そういえば、ぼくはユノ、きみは?」と空に言うので、「私は里香、東京に住んでます」と言った
前に見たような
前から知っていたような
少し切なくなるユノの声
きっと、今お姉ちゃんは、私と一緒に胸をときめかせてる

「東京、また、行きたいな」とユノがポツリと言ったので
「遊びにきて下さい」とユノを見た
ユノはウンと首を縦にふった

「そろそろ戻らないといけませんね」
ユノは、また大きな伸びをして、立ち上がり、私を引っ張りあげてくれた、2人で背中やお尻についた草をほろった
強く叩いてしまい、ユノが痛がった
2人で笑った
子供のように
2人でまた元の道を走る
さっきとは違う事、ユノが掴んでくれたのは、私の手だった
大きい手が私の心臓までも掴んだ気持ちになる
離れたくない
離れたくない

ホテルの前で私は止まった
ユノが不思議そうに私をみた
「りか、つかれましたか?」
なんて言えばいいのかわからなくて
言葉がつまる
具合が悪いのかと思ったんだ
ユノが私の背中をさすった

「ユノ、私はもう二度とユノに会えないのかな?」
声が震えた
図々しいと思いながら
ユノは少し困った顔で「そうですか」と答えた
そんなユノの表情を私はずっと見ていた
ふと、ユノが遠くを見て、少し唇を噛んで、私を見た
そして無言のまま私の肩を触ったので、何が起きるのかわからず、固まっていると、そのまま私を押してソファーの影の床に座らせた
ソファーにもたれて、ユノも隣に座った
すごく近くに座った
後ろの方で、男性の会話が聞こえて消えた

ユノは後ろをチラリと見て、少し笑って真っ直ぐ向いたまま、黙ってしまった

「ユノの事、探してたんじゃないんですか?」
と聞いた
その質問に答えずユノが話した
「一人になりたい時、どうしますか?」
あまりに無表情で、私を見ないで言ったので、心がなくみえた
ただ寂しい質問だと思った
考えたけど、よい答えがわからなくて結局「私は、一人になりたい時、部屋に閉じこもって、いつの間にか寝てます」
と答えた
ユノは左腕をポリポリかきながら、「そうですか」と答えた
さっきと同じ「そうですか」ユノは、どう思うのか話してくれないんだと、やっと気づいた

住む世界が違うから、今までの生き方が、あまりに違いすぎるから
肩が触れる位、近くにいるユノは、まるでキレイなマネキンの様に感じた

「ユノはどうするの?」
と聞きたかった
「なんで今隠れたの?」
と聞きたかった

頭の中でグルグルまわって、あきらめた
変わりに「私、明日日本に帰るんだ、ユノに会えて、嬉しかったです」
と伝えた
ユノが私を少し見て、「楽しかったですか?」
と笑顔だったので
私も笑顔で答えた
「はい」
ユノは笑って
「良かったです」と言った

緊張していた心と身体が、すーっと消えた
ユノが大きいアクビをしたので、私もつられてアクビが出た
右肩にユノの頭が落ちてきた
見るとユノは、子供のように寝息をたてて寝てしまっていた
私はこっそり、首をかしげて、ユノの頭に触れた

ガラスに反射して見えた2人の姿が、愛しくて、私は目に焼き付けるように、ずっとずっと見ていた

明け方近く、気づくと私も寝ていて、2人で寄りかかって寝ていた、少しザワザワと人の気配で身体がビクっとなり、目が覚めた、ユノもつられて起きた
私はすごく焦った「部屋に戻らないと」と言うと
ユノは「あぁ~」と大きな伸びをした
私の焦りと裏腹なユノの呑気さに癒されて、少し笑った
ユノも気づいて笑った
「きて」とユノが私の腕を掴んで周りを見渡した
まるで男の子だ
そんな智子を見て
なんとなく
言うのを止めた
言葉にしたら、今朝の思い出が薄まってしまいそうに感じた
夕方、やっと元気になった智子と出掛け、買い物をして、ご飯を食べて、しっかりと旅行らしい事をして過ごした
安くて可愛い服をたくさん買った
今朝の事を話したくなるのを忘れる為に、智子とたくさん話した
「里香、たくさん恋して生きようね」とふいに智子が真顔で言った
姉の死が身近すぎて、生きる、というフレーズが、やけに軽く感じて、少し嫌になった
智子の可愛いミニスカートとチューブトップが今の私にはうるさく感じた
私はいつもジーンズにカットソー、長い髪の毛を伸ばしたままで、智子がキラキラと見えたせいなのかと、自分に聞いた
明日、もう日本へ帰る

その日の夜も部屋で同じ会話を繰り返した
そして同じように「眠い」と言われて部屋を出た

昨日と同じ廊下の匂いと自分の服に、また同じ1日が来たのかと錯覚しそうになった
そして、やっとユノの事を考えた

深夜3時過ぎ、部屋には戻らず、昨日の特大ソファーに自然に向かった

昨日ユノが座っていた場所に

「来るわけないじゃん」
一人でつぶやいた

誰もいないロビーが外の雨のせいでドラマのように感じた

夢の中の姉を思い出した
そういえば、すごく笑っていた
嬉しいのかな
私の中で生きてる姉も、ユノと触れられた?
ちゃんと近くで見れた?
私、しっかり記憶しておくから

心が温まって、目を閉じた


いつの間にか寝てしまっていて、どの位そうしていたのかわからない

遠くから小さい笑い声が聞こえた

夢の中と混同して、まだ眠りたいのにと、自分のベッドのように寝返りをうった
あれ?と思った時、私は床に転がり落ちてた
「えっ?」
天井を見上げたら、手をたたいて笑っている男が一人

寝ぼけて、何が起こったのかイマイチわからず、仰向けのままいたら
男は笑いながら「こんな所で寝たら、あぶないですよ」と腕を捕んで引っ張りあげた
「あ…え?」
薄暗いロビーでわからなかった、外の噴水のライトが光る時に見えた顔
昨日のように短パンとTシャツ、黒縁のメガネをかけたユノだった
「ユノ?」と声が漏れた
ユノは「はい」と笑って答えた

「ここで寝たら、とてもあぶないですよ」とお兄ちゃんのように言われて恥ずかしくなって、私は下を向いた
「もしかしたら、またユノがいるかと思ったの」自分でもびっくりする位、はっきりと言えた