つづきです






…え、違う。

金じゃない?!


口を塞いでいる手とは反対の手が、下へと伸ばされる。


痴漢、か?


胸の辺りを触り…何かに気づいたようにその動きが一瞬止まった。


薄っぺらい胸で、オレが男だと気づいたらしい。

良かった。これで逃げて行くだろう。

とりあえず通報して、それで…

少しでも顔を見ようとしたのだが、男の力は緩むことは無かった。


胸から、さらに下へと手が伸びる。



「男も…面白いかもな」



…まさか。

全身から血の気がサッと引いていく。


なんとかしようと顔を横に振り、もがくと

僅かに力が緩み隙間ができた。


オレの口を塞いでいた手に、思いっきり噛みつく。



「痛っ!!」



男が手を離し怯んだ隙に、地面を蹴った。


今はとにかく逃げなくちゃ。

そう思っているのに、恐怖で足が縺れて…


スウェットの背中を掴まれ、倒れ込む。


オレの目に映ったのは


馬乗りになった男のギラギラした瞳と

ニヤリと緩んだ口元だった。


……顔は覚えた。

お前みたいなやつ、絶対に野放しにさせないからな。


諦めかけて 見上げた空には

青い月が浮かんでいた。



どうしてだろう…

澄んだ光を放つ月が、智と重なる。



…まだ、だ。


オレは唇を噛み締め

これから自分に起きるであろう…最悪なことを想像しながらも、抵抗を試みた。

素直にやられてたまるかよ。


予想外の抵抗に、男も慌てたのだろう。

ポケットからナイフを取り出し、オレの喉元につきつける。


あぁ、流石に…もう。


オレは身体を強張らせ、目を閉じた。



「テメェ、何してんだよっ!!」

「?!」



少しの衝撃の後、オレの上に乗っていた重みが吹っ飛んだ。

何が起きたのか…

驚いているオレの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。



「和也、大丈夫か!?」


「え…あ、智…?」



抱き起こされ、後ろを振り返ると

智に蹴り飛ばされたらしい暴漢がノビていた。


すぐに警察に連絡し、その男は捕まった。


その場で色々と事情を聞かれたが

後日、詳しい事情聴取をすると言われ


智とオレは、アパートに戻ることができた。






「ごめん」


「え、何が?」


「最近、この近所で不審者が目撃されてたこと、和也に伝えてたら、こんなこと…」



さっきまでの雄々しさは消え、しゅんと小さくなっている智。



「いや、智が謝ることなんて何もないよ。

オレがスマホを持って出ていれば、また違った結果になったのかもしれない。

心配かけてごめんね」



智だって…ナイフを持った相手に立ち向かうのは怖かっただろう。



一週間前

疲れ、ひどく弱っていたオレに  

智がしてくれたように


形の良い頭に、そっと手を伸ばす。



「本当にありがとう」



ぽんぽん、と撫でると

智はホッとした表情を浮かべて


オレをギュッと抱きしめた。



 …良かった と耳元で小さな声が響く。



え、あれ?

ドキドキとうるさいくらいに 胸が騒ぎだし


このままくっついていると

智に気づかれてしまいそうで



「////あ、あの…そういえばオレ砂だらけだよね。着替えなきゃ」



慌てて智の胸を押し、離れる。

スウェットの上を脱ぐと、パラパラと砂が落ちた。



「ごめん、オレが掃除するから」



そのままの勢いで、スウェットの下も下ろすと…



「!! ////和也、あの、えっと…」


「ん?」



…あれ、スースーする。


そっと下を見れば

足の間では、その…モノが揺れていて


自分が何の為にコンビニに行ったのか

思い出すことになった。





つづく




miu