つづきです









パッと身体を起こし、智の顔から離れた。


ドキドキとうるさく鳴る胸の音。顔が熱い。

きっと真っ赤になっているだろう。

こんなタイミングで目を覚ますと思ってなかったから、びっくりして…智の顔が見られなかった。

何とかそれを気取られまいと、変に饒舌になる。



「あ、あははは。本当に智って朝弱いんだね。あんまり起きないから心配して…

そう、心配して!確認したんだ。体温は?ちゃんと息してるのか?って。

でも良かった、今日は遅刻しないで学校に行けそうじゃない。って…大変!オレが遅刻しちゃう。じゃあね、行ってきます」



冷静になって考えれば、そんな確認は手で充分なのだけれど。慌てているからそんなことすら思いつかない。



「あ、和也。テーブルの上に鍵おいてあるから、持っていけよ」


「……あ、うん」



預かったばかりの鍵でドアを閉める。


智はといえば、いつも通りで。

特にオレの行動を気にしている様子はなかった。


唇が触れたのには気づかなかったのかな?


良かった、と 胸を撫で下ろし

スマホの画面をチラリと見れば

予定していた時間をかなり過ぎていた。



「うわ、ガチで急いだ方が良いな」



小走りで駅へと向かうオレのポケットの中では

カチャカチャと金属音が響いていた。





予定していた電車には乗れなかったが

なんとか間に合い、遅刻せずに済んだ。


朝のチームミーティングを終え、パソコンを開いて作業をしていると、隣の席の相葉さんが話しかけてきた。



「ニノ、髪切ったんだ」


「あ…うん」


「すげー似合ってるよ。なんか、今日は顔色も良いみたいだし」


「…そう?」


「ちょっと心配してたんだ。最近、疲れてたみたいだったから」


「…あの、ありがとう」


「なんか今日は素直じゃん」



うひゃひゃひゃと笑いながら、相葉さんはオレの背中をぽんと叩いた。

…でも、その手はとても優しくて。

こんな自分でも、心配してくれる人がいることに、改めて気付かされた。




午前中のデスクワークを終え、得意先周り。

いつもなら適当に仕事をした後、サボるためにあの公園に立ち寄るのだが…不思議と今日はそんな気にならなかった。

睡眠が足りているせいか、とても頭がスッキリしていて。そうなると仕事に対するやる気も、珍しく出てくるというものだ。



「よし、やるか」



オレは深呼吸をして、空を見上げた。





仕事を終え、いつもとは違う方向へと足を向けた。


公園を通り過ぎ、少し歩くと

明かりの灯った部屋の窓が目に入り

知らず…足早になる。


ドアの前まで来て、急にポケットの鍵が重く感じた。



「………」



ここには智しかいないはず。

そんなこと分かっているのに、ドアの向こう側にあの時のような見たくもない光景が広がっていたら…と身構えてしまう。


手に取った鍵をポケットに戻し

ドアの横に付いているインターフォンに触れると、勢いよくドアが開いた。



「おかえり、和也」


「うん。あの…お邪魔します」


「鍵なんて勝手に開けて良いのに」


「いや、智が居る時は…使わないから」


「ふーん?」



不思議そうに首を傾げ、部屋へと戻る智。

オレは玄関で脱いだ靴を揃えると、その後を付いて行った。





つづく



miu