つづきです













「…あれ」



この日は、いつもオレが座っている場所に、制服姿の高校生が座っていた。

なんとなく面白くなかったが、公共の場である公園で「ここはオレの場所だからあっちへいけ」なんて、幼稚園児じゃあるまいし、流石に言えない。先に座ったもん勝ちだもんな。


仕方なく、オレは隣のベンチに腰を下ろした。


ガタつく脚を気にしながら、チラリと隣の様子を伺う。


心地よい気温と、時おり吹く爽やかな風に

なんとも気持ちよさそうに うたた寝しているから


オレは遠慮なくガン見してやった笑



通った鼻筋。

ちょっと尖った唇。

ぴょこんと跳ねた後頭部は寝癖かな?

制服姿は少し幼くも見えるけど…


…ふーん、まぁまぁカッコいいじゃない。

なんか気の強そうな女子からモテそうな感じ。笑


でもこの時間…って、授業中だよね。お昼休みにはまだ早い。

学校サボってひなたぼっこ?

へー良いご身分ですこと。


お気に入りの場所を取られた恨みを 胸の奥へと押し込め、オレは空を見上げた。







その日から、時々 この場所で 彼と同じ時間を過ごすようになっていた。


と言っても、お互いただ座っているだけで、何を話す訳でも無い。


そこにいるだけ。


だったら…ここじゃなくても良くない?

君、できれば他に行ってくれないかな。

学校にだって人の来ない場所とかあるよね。屋上とか校舎裏とか。

そっちの方が近いし手軽じゃない?


オレは、そんな軽い気持ちで声をかけた。



「ねぇ、学校。面白くないの?」


「別に」


「ふーん。部活とかは?」


「特にしてない」


「友達と遊ぶとか」


「友達はいるけど、別に学校じゃなくても会えるし」


「じゃあ…」


「ってか、あんたはここで何してんの?

とても仕事してるようには見えないけど」


「オレ?オレは…」



いやいや、サラリーマンって結構大変なのよ?

得意先への顔出し、営業先の新規開拓…

このくらいの休憩は必要なのよ。

高校生相手に、言い訳しようと口を開いたのだが



「サボりだろ?」


「……はい、そうです」



どう考えてもオレの方が年上なのだが、妙に落ち着き払った 地蔵のような貫禄に気押され、思わず敬語で返してしまった。


ふたりの間に流れた妙な空気に

お互いに顔を見合わせ笑う。



「なぁ。サボり仲間の名前聞いて良い?」


「…和也」


「おれ、智」



ヨイショ、と 

智はこれまた おっさんのような掛け声をかけながら立ち上がると、伸びをした。



「んじゃ、和也。また明日な」



呼び捨てかよ と

オレが言うよりも早く


手をひらひらさせながら、智は帰って行った。





つづく






miu