つづきです








…今日は読まれるかな?


ちょっとだけドキドキしながら、耳を澄ます。



『それじゃ、次のコーナーです。ニノのお悩み解決コーナー!まずはラジオネーム…』



…違った。

その後も自分ではない名前が呼ばれ、ニノに面白おかしく悩みを解決されていく。

今日はダメだったかなぁ。

諦めかけた、次の瞬間…



『最後は、ラジオネームSATOさんのお悩み。

《仕事をしなきゃならないのに、このラジオを聴いていると仕事が手につきません。どうしたら良いでしょうか?》だって。


うーん。

じゃあ…もうさ、仕事しなくて良くない?日本人は働きすぎなのよ。

それか、放送時間中は休憩時間にするとか。

終わったら仕事すれば良いじゃん。

(いや、そんなの会社とかだと本人の一存で決められないでしょ)

…え?だめ?

そっか。

んー……

分かった!しょうがない。

まっさん、SATOさんのために今すぐスイッチ切って!?』


そんなの放送事故だよ、と一緒にいるディレクターの焦った声が、更に笑いを誘う。


このふたりの掛け合いも絶妙に面白いんだよな。



んふふ


んふふふふ♪



無事にハガキを読まれて、ご機嫌になったおれは仕事の手を休めた。ニノの言う通り、ここは番組が終わるまで休憩時間にしよう♪

缶コーヒーを取り出し、口に運んだ。



「智くんご機嫌だね」


「あ、翔ちゃん」


「休憩は結構だけどさ。締め切り間に合うんだよね?」


「えっと、大丈夫…だと思う」



おれが背中を丸めていると、翔ちゃんの後ろからどたどたと走り寄る音が近づいてきた。



「ワワン、ワン!」


「うわ、大福!別に俺は智くんをいじめてるんじゃないから!!」


「あはは。いつまで経っても、大福は翔ちゃんに懐かないねぇ」



おれを守るようにして足元で吠えているのは、パグの大福。こっちは翔ちゃんで、同級生。翔ちゃんは、おれがイラストレーターの仕事を始めた当初から色々な面でサポートしてくれていた。

というのも、おれはパソコンとか苦手で。

…おれはアナログ派なんで、手で直接描くことが多いんだけど、それでもデジタルで求められることもあってさ。

こういうやり方があるとか、こっちのソフトが使いやすいとか色々調べて設定してくれてね。今ではデジタルも使いこなせるようになった。

と言っても、おれは描くことしかできないから、出来上がった作品の納品なんかは翔ちゃんが全部やってくれるんだけどね。

おれのパソコンスキルは絵を描くことに使い果たしてしまって。メールひとつ送れないんだよ。



おれがくすくすと笑っていると、大福が垂れた耳をピコンと動かした。

ラジオをじっと見つめている。



『さて、本日はここまででございます。

番組では、皆さまからのメールを募集しておりますので、ハガキ又は番組ホームページからご応募ください。

…あ、突然ですが、今日のニノミヤ情報。

おにぎりは鳥五目が好きです。それでは、また明日…』



…へ?

今、おにぎりって言った?

おれ確か "読まれたらご褒美にいくらおにぎり食べる" ってハガキに書いた記憶があるんだけど。

偶然かな。

それとも、まさか…

おれの書いたコメントに反応してくれた?



「…智くん、すげー顔がニヤけてる」


「え」



おれは、緩んだ頬を両手で隠した。






つづく



miu